リリスファム公女殿下
「どうしたのミカゲ?」
御者台に座っている私の横にミュウがやってくる。
御者、と言っても、私の馬車はゴーレムが勝手に引いているから、御者なんて必要ないのだけど、そこはまぁ、様式美ってやつよ。
「ん、クーちゃんが怖いって言ってた……。」
「怖い、とは言ってないわよ。あの娘も、真面目なミカゲをあまり見たことがなかったから、ちょっと驚いてるだけだから、気にしなさんな。」
ポンポンと私の背中を叩くミュウ。
「でもでもぉ。クーちゃんにキライって言われたんだよ?私の本性がダメダメだって言うんだよ?どうしたらいいのぉ~。」
「いやいや、誰もそこまで言ってないでしょ。……まぁ、普段のダメダメなミカゲの姿が普通だと思っていたら戸惑うのも仕方がないけどさぁ。」
「ねぇ、ミュウ。私どうしたらいいのかなぁ?」
今回の事について、私は領主の行いにも、魔族の行いにも怒りを感じていた。
正直、いつもみたいに、自分に係ってこなければいっか、とスルーできる限度を超えていた。
だから、ちょっと真面目に対応する必要があると思って行動したのに……。
「ハイハイ、ちょっと真面目な話をするとね、ミカゲはミカゲのままでいいよ。」
ミュウが私の身体をギュッと抱きしめてくれる。
「いつものボケボケ天然おバカのミカゲも、今のまじめでクールな、ちょっとばかり人間不信のミカゲも、ミカゲであることには変わりないからね。ミカゲが思うとおりにやりなさいよ。アンタの後始末は慣れているからね。」
ミュウが甘えさせてくれるのは珍しい。
私はその行為に素直に甘えることにした。だけど……。
「ぶぅ、ボケボケ天然おバカって誰の事よぉ。」
「気づいてないの?」
心底驚いた、という声をあげるミュウ。
半分、私を元気づけるための演技なんだろうけど、それがわかっていても腹立たしい。
だから私はミュウの弱いところを責める事にする。
「ひゃんっ!そこダメェ……。」
「ソコってどこの事かなぁ?ここかなぁ?」
「ぁんっつ、ダメだってばぁ……。」
しばらく御者台でミュウとイチャついた。
お陰で、魔族領に入る頃には、私も落ち着くことが出来たよ。
◇
「セシリアさん、ホントにここでいいの?」
私達が魔族領に入ると、どこからかセシリアさんが現れて、このお城みたいなところに案内してくれた。
「えぇ、ここはスカー子爵から接収したお屋敷ですわ。1両日中にリリスファム公女殿下とお会いできるように取り計らいますから、それまではこちらでお寛ぎ下さいませ。」
「お屋敷って、どう見てもお城だよぉ?」
クーちゃんが情けない声を出す。建物の立派さにあてられたのだろう。
「あら、クミン様、この程度で驚かれていては、帝城に行かれた時は気を失ってしまうかもしれませんわね。」
セシリアさんがクスクスと笑う。
クーちゃんじゃないけど、これより立派なお城って、想像もつかないよね。
「ではごゆっくり」
そう言ってセシリアさんが席を外す。
これからリリスファム公女殿下の元に向かうのだろう。
今回の騒動が始まってすぐ、私はセシリアさんに連絡を取り、リリスファム公女殿下に渡りをつけてもらう事にした。
魔族が一方的に攻めてきたのだとしても、取り敢えず話し合う場を設けるのは大事だと思ったからだ。
リリスファム公女が、私と会う気はないというなら、それはそれでよかった。その場合は、魔族に気兼ねすることなく好きに出来るからね。
でも、セシリアさんの様子を見ていると、少なくとも会見する気はあるようなので、私はお茶を楽しみつつ、ミュウ相手に今後の意向について話し合う事にする。
「ミカゲはどこまで要求する気なの?」
「うーん、相手次第かな?最低限村の安全の保障はしておきたい。後は話の流れによって臨機応変に……かな?」
「もし、相手が頭ごなしにいう事を聞けって言ってきたらどうするのじゃ?」
「ん?その時はその場にメテオ落とすよ?……で、あなた誰?」
私はいきなり会話に割り込んで来た少女?幼女?にそう答える。
「妾か?妾はじゃなぁ……。」
「リリスファム公女殿下、探しましたよっ!」
セシリアさんが飛び込んできた。
「えっ、リリスファム公女?」
「ウム、妾がリリスファムじゃ。」
「ふーん、お菓子食べる?」
「ウムいただこう。」
私はリリスファム公女を抱え上げて膝の上に乗せ、お菓子を上げて餌付けを始める。
「ウム、これはっ!」
「美味しい?こっちはどうかな?はいアーン……。」
「ウム、これも美味いっ。初めて食べるのじゃが、何ていうお菓子じゃ?」
「これはプリンって言うの。もう一口、あーん……。」
「ウム、ウム、美味いぞよっ!」
「美味しそうに食べるリリスちゃん、きゃわわ~~~。ぷにぷにしていい?」
「ウム、新しいお菓子があればよいぞよ。」
キャッキャと騒ぎながらイチャイチャしている私とリリスファム公女を、呆然と眺めるミュウ達。
「えーと、リリスファム公女殿下?、ミカゲ様?」
「あ、セシリアちゃんいたの?」
「ずっと、いました。」
「そうなんだぁ。りりちゃん可愛いねぇ。お持ち帰りしていい?」
「やめてください。メイリンに言い尽けますよ?」
「うっ……でも、妬きもちやくメイリンんちゃんもイイっ!」
「ミカゲ様?」
あたりの空気がぐっと冷え込むのを感じて、私は口をつぐむ。
「(セシリアを怒らせたら怖いのじゃ)」
膝の上で、リリスファム公女がそう囁いてくる。
うん、それよくわかるよ。……まじめにやろっか。
私達は居住まいを正し、仕切り直すことにした。
◇
「して、何を話せばよいのじゃ?」
「んー、取り敢えず、スカー子爵?の事かな?」
「なんじゃ?あのようなのが気になるのか?……って冗談じゃ、プリンを取り上げるのはやめてたもれ。」
私は慌てふためくりりちゃんに、メッてしながらプリンを戻す。
「ンとね、まず確認したいのは、あのスカー子爵の動きってりりちゃんが指示したものなのかなぁ?」
「それはない。奴の独断じゃ。とはいうものの、制御できなかった妾にも責はある。許してたもれ。」
「じゃぁスリスリで許してあげる。」
「……あのぉ。」
「セシリア、何?」
「いえ、ミカゲ様のポンコツ度が増している様なので……、何かあったのかと。」
「まぁねぇ、色々ストレスたまってるから。それより、王女殿下に失礼じゃないかとヒヤヒヤしてるんですけど?」
「リリスファム公女殿下には、一応事前にお伝えしてあるのと、あのプリンなるものの存在のお陰で問題はないかと。むしろ、プリンを手に入れるために無理難題を吹っ掛けるような気がします。」
ミュウとセシリアさんが何か話をしているようなので、きっと難しい話をしているのだろうと、お任せすることにする。
「で、リリちゃんは、あのスカー子爵をどうするつもりなの?」
「それなんじゃがな、お主との会談で決めようと思っておったのじゃが、希望はあるかえ?」
「んー、希望ねぇ……。」
言いなり言われても思いつかない。
私としては、今後関わってこなければそれでいいんだけど……。
「殿下、失礼しますっ!」
考え込んでいるといきなり伝令が飛び込んできた。
「何事じゃ、騒々しい。」
「ハッ、厳重監視中の子爵が、人を抜け出し、手勢を引き連れて、人族の村に向かったようです。現在ハルト中尉の隊が追いかけています。」
「このタイミングでか……度し難いのぅ。メルナの部隊を回せ。」
「ハッ!」
……どうやら、あのバカは凝りもせずに村に向かったらしい。
「ねぇ、リリちゃん、希望決まったんだけど聞いてくれる?」
「う、うむ、聞くから、その殺気を押さえてたもれ?な?……セシリアぁ、どうにかするのじゃぁ。」
りりちゃんの叫びに、セシリアさんはそっと目を逸らすのだった。
スミマセン、もう一つの作品に夢中になり過ぎて、こちらのストックが切れてしまいました。
何とか頑張って更新しますので、見捨てないでください。
因みにもう一つの作品は鬼畜仕様なので、そういうのが嫌いな方は、心の平穏の為にスルーすることをお勧めします。一応毎晩〇時更新今月末までの分はストック溜まってます。
……そんな暇あるならこっち書けよという意見は……善処いたしますが、反応ないですから(^^;
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