首脳会談??
某日、某国の、知られざる場所……。
「お父様、準備が整いましたわ。」
「ウム、では頼む。」
男が大仰に頷くと、娘は目の前の魔道具に静かに魔力を注ぐ。
しばらくすると、薄暗い部屋の中に数人の人影が現れる。
『無事繋がった様じゃな。』
『こんなモノ起動するの何十年ぶりだよ?ウチじゃぁ使える者が見当たらなくて難儀したぜぇ。』
『あー、そのなんだ、皆には迷惑をかける。』
「会話には支障がなさそうだな。早速本題に入るとしよう、時間も魔力も惜しい。」
元々この場所にいた男がそういうと、人影達は口を閉じて男を注視する。
『そうだな。してアルーシャ国王よ、今回我らに招集かけたのはいかなる理由があってのことか?』
「勇者について相談したいと思ってな。詳しい事は当事者から話すとよかろう。」
アルーシャ国王、フィリップ17世は一番端でひっそりと佇んでいる人影へと視線を向ける。
『勇者だと?イスガニア国王よ勇者が現れたのかっ!』
「エルファートの、落ち着け。勇者が現れたのは1年半ほど前の事だ。我らの国より旅立ち、今はイスガニア王国に滞在しておる。」
エルファート帝国の慌てぶりに、目をしかめながらもフィリップは宥めるように言う。見ると他の人影も動揺を隠しきれていない。
こうなることがわかっていたから、出来るだけひっそりと緩やかに勇者には活躍してもらいたかったのだが……。
『皆よ、勇者は現在、我が国の東方、国境付近の村に滞在している。』
イスガニア国王はゆっくりと、これまでの勇者の起こした事件を語っていく。
『……とまぁ、勇者殿は直実に力をつけているのだが……。』
『そのような事が……。しかし、そのエルザードの街だったか?そこで暴走されずに済んでよかったの。』
イスファニア神聖国の代表が、ほっとしたように言う。
「その件については、まさに領主の手腕じゃな。儂の国にもそれほどの逸材がいれば……。」
フィリップは思わずそう呟く。
ミカゲが国を出ることになったトラブルの数々はフィリップの耳にも入っている。当時は獣人族との関係くらい、何故上手く出来んのか、とその地方の領主の無能さに呆れ、嘆いたものだ。
『つまり、勇者は多少のトラブルはあるものの、概ね貴国と友好関係を結んでいる、という事でいいのだな?ならば此度の集会はなんだ?』
少し安心しつつも、不安が拭えないと言った態で訊ねてくるエルファート皇帝。
『あー、その、なんだ、実は、東方の領主がやらかしてだなぁ……。』
歯切れ悪く、口ごもりながらも、東の領主がやらかしたこと、魔族の侵攻、それを食い止めてくれたものの、原因が原因なので、勇者が怒っていることなどをぽつぽつと語りだす、イスガニア国王。
『かぁーっ、イスガニアの、またやらかすのかっ!』
『またとは何だ、またとはっ!』
『お前さんの所は、以前にも勇者を怒らせて魔王にした前科があるだろ?またそれを繰り返すのかって言ってるんだ。』
『そんな数百年前の事など、持ち出されても困るわっ。大体それを言うなら、その事件がったおかげで帝国が建国できたんだろうがっ、礼を言っても罰は当たらんぞ?』
『なんだとぉっ!』
「二人ともやめんかっ!今はそのように言い争いをしてる場合ではなかろうっ!これからの事を話し合う為にこの場を設けたんだぞっ!」
フィリップの一喝に、両者は押し黙る。
そして、しばらくして皇帝が訊ねてくる
『して、勇者はなんと?』
『うむ、このような感じじゃ。』
イスガニア国王は、勇者の名において発行された書状を皆に見えるように映し出す。
『これは……。』
その内容を見た一同が息をのむ。
書いてある内容については、一部やり過ぎな点もあるが、ギリギリ常識の範囲内ではある。
そもそも、戦争などというものは、勝利した側が、自分の有利な言い分を負けた相手に押し付けるものであり、そのことを思えば、かなり妥協してもらっているとも言える……ある一点だけを除けば。
「1週間以内とは、勇者殿も無理を言う。」
『どうなのだ、イスガニアの。1週間で対応できるのか?』
『正直言えば難しい。だが、書状を持ってきた物の話によれば、魔族軍が絡んできているらしく、1週間でケリを付けなければ、魔族軍との戦端が開かれる可能性もあるのだ。』
「『なんだとっ!』」
フィリップとエルファート帝国の皇帝の声が重なる。
両国とも、イスガニア王国とは国境を接しているため、他人ごとではないのだ。特に帝国の方は魔族領と接している地域もあるため余計だろう。
『一応、勇者殿もわかってくださっている様で、時間を稼ぐためにも、魔族領へ向かっているとの報告が上がっているの……なんだ?……っつ!……本当の事なのかっ!』
「イスガニア国王よ、何が起きた?」
相手の言葉の端々から不穏な空気を読み取ったフィリップは情報を開示するように言う。
『例の領主たちがやらかしおった。我が国はお終いだ。すまぬがこれで失礼する……後を頼む。』
イスガニア国王は、バタバタとそう告げると、ぷつっと姿を消す。
『はぁ、俺らも覚悟が必要なようだぜ?』
「みたいだな。とりあえずは情報が必要だ。」
『そういう事だ。と言うわけで失礼するぜ。』
皇帝は別れの挨拶もそこそこに姿を消す。
『では私も失礼しますかな。我ら人類に女神の慈悲が在らんことを。』
祈りを捧げて消えるイスファニアの代表。
そして後にはフィリップとその娘イルマだけが残される。
「お父様?」
「……ウム……、いや、……。迅速にできる限りの情報を集めよ。」
フィリップの言葉に、部屋の空気が少しだけ揺れる。
潜んでいた影が、行動を移したのだろう。
「何が起きているのでしょうか?」
「今の段階では分からんが、ろくでもないことになっていそうだな。」
「ミカゲは……大丈夫でしょうか?」
娘の言葉にフィリップは目を閉じる。
今となっては祈ることしかできない。
「イスガニアには悪いが、国土の半分程度を焼くぐらいで怒りを治めて欲しいものだ。」
「……そうですね。」
イルマも、父に倣って天を仰ぎながら、遠くにいる友人、ミカゲに思いを馳せ、自分の言葉が届くようにと祈る。
……出来うることなら、人類に絶望しないで……と。
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