ミカゲ、魔王になる!?……??
「引くわ~、マジひくわ~。」
ミュウの呆れかえったというか、完全に呆れている声が響く。
「えー、でもぉ。」
「でもぉ、じゃないっ!アンタねぇ、一体何がしたいのさ?」
ミュウがソレを指さして言う。
ミュウが指を指した先には、20代後半から、30代ぐらいの良家の奥様と言った風情の女性が5人、それから12~18歳ぐらいの少女が8人、そして5~8歳ぐらいの幼女が3人、縛られて転がされている。
因みに全員が薄布1枚だけを掛けた。見ようによっては凄くエロい恰好をしているのは、アブナイ武器など隠し持っていないか身体検査をしたためであり、他意はない。決してエッチィ目的のために脱がしたわけではない……のだが、二人ほどそそる子がいるので、後でじっくりとお話しようと思う。
「えっと、『魔王たるもの、若い子を拉致ってあんなことやこんなことをするべきだ』って言うし……。」
「アホかっ!」
ミュウがハリセンで思いっきりひっぱたくの。酷くない?
「アンタは魔王になる気かっ!」
「そう言うわけじゃないけど……。で勇者だって『敵の心を折るには人質が有効』『邪魔をする悪徳貴族相手には娘を攫うべし』だって………。」
「誰が言ってるのよ、そんなアホなこと。」
「アイちゃんに借りた本に書いてあった。」
私はミュウに2冊の本を見せる。
タイトルはそれぞれ……
『勇者への道 How to 』
『立派な魔王になる為に』
と書いてある。
私だって、これからのこと考えているんだから、ちゃんとこの本で勉強してるのよ。偉いでしょ?
「…………。」
あれ?ミュウが頭を抱えて蹲っちゃったよ。ポーションいる?
私が差し出したポーションを浴びるように飲み干すと、ミュウはそのままフラフラ~っと、外に出ていってしまった。
「それでミカ姉、実際のところどうするつもりなの?」
クーちゃんがドン引きな態度を隠そうともせずに聞いてくる。
「うん、奥様達は、交渉次第だけど、話が纏まったら還すつもり。」
ここに集められた女性たちは、領主を始めとして、今回攻めてきた領主軍の主だった貴族の奥様と娘たちだ。
今回攻めてきた事による賠償請求を、スムーズに行うための交渉人かな?
「いや、ミカ姉、それってただの人質でしょ?」
「そうとも言う。」
「そうとしか言わないよっ!」
何故かくーちゃんの息が荒い。裸の女の子みて興奮してる?
「してないよっ!」
………くーちゃんに怒られた。何故!?
「まぁ、彼らにはねぇ、自分の奥さんや子供が突然攫われる苦しみを知ってもらって、自分たちが如何に悪辣非道なことをしたかということを、身をもって知ってもらおうと言うことなのよ。」
「流石ミカゲ様ですわ。なんて慈悲深いのでしょうか!」
今まで黙って推移を見守っていたマリアちゃんが、賛美を始める。
いや、あのね、そこまでじゃないから。っていうか讃えるのやめてよぉ。人質の皆様もドン引きだよぉ。
「ミカゲがそんな深く考えてるわけないでしょ。どうせ今のもさっき考えたんでしょ?」
いつの間にか戻ってきたミュウがそんな事を言う。
クーちゃんが「それ、ホント?」という目で見てくるので、私はさり気なく視線を逸らす。
「そんなことよりお客さんよ。アイツラからの使者。」
流石に憐れに思ってくれたのか、ミュウが助け舟を出してくれるので、それに全力で乗っかる………けど、そもそも私が窮地に追い込まれたのはミュウのせいだよね?
………ま、いっか。
私は簡単に身だしなみを整えると、使者の前に姿を見せることにした。
◇
「バカなの?馬鹿でしょ?」
ミュウが呆れてものも言えないと、同じ言葉を繰り返している。
ミュウが呆れ怒っているのは、先程の使者の態度とその内容についてだった。
ちなみに、使者が行っていることは、この部屋にも筒抜けにしていたから、ここにいる人質の皆様も状況は理解していて、皆一様に項垂れ、声も出ない様だった。
それほどまでに使者の……領主の言い分はアホで身勝手なものだった。
使者は、私の顔を見るなり、私がいかに悪逆非道な存在かということを並べ立て始める。
そして、今回の件に関して、賠償金として金貨2千枚を支払い、子供達を奴隷として引き渡し、尚且つ私達も奴隷として出頭すれば許してやろう、という上から目線の、状況をわきまえていない要求を述べたのだ。
間違っても、ぼろぼろになって這々の体で逃げ出した者たちが言う言葉じゃない。しかもこっちにはお客さんもいるのにも関わらず、だ。
一応、私は言ってみた。奥様や娘さんたちが、この村に興味があるとかで遊びに来てるんですけど?ってね。
そうしたらなんて言ったと思う?
「好きにすればいい。妻や娘など、いくらでも代わりはいる」だそうよ?
流石に黙っていられなくてね、その使者を縛り上げて、転移で領主の館の庭にある噴水へ放り込んでやったわよ。
で、当の奥様や娘さん達は、主人や父親たちに、アッサリと見捨てられたことを知って、このように落ち込んでいるという訳なんだけど………。
「ってことだから、この手紙をギルド経由で国王様に渡してもらってもいい?」
私は、縛られている奥様方のうちの一人に声をかける。
同時にクーちゃんが縄を解き始める。
「えっとね、何で私まで、縛って攫う必要があったのかなぁ?」
自由になった腕をさすりながら、そう言ってくる20代なかばのお姉さん。
実はこの人は、貴族の奥様ではなく、冒険者ギルドの受付のお姉さんだったりする。
「えっと、胸が大きかったから?」
「そんな理由っ!」
だって、仕方が無いじゃない、気になったんだもん。
もとより、あの根性が捻じ曲がっていそうな領主相手に、交渉がすんなりいくとは考えていなかったから、長期に渡って人質には滞在して貰う予定ではいた。
ただ、その間丁重に扱っているということを証明してもらうのに、第三者の目が必要だったので、ギルドの受付のお姉さんに来てもらうことを事後承諾で決めたのだ。
えっ?裸で縛っていることは問題にならないのかって?
裸にしたのは、身体検査のためだし、縛っているのは、安全確保と逃亡阻止のためだから仕方がないのよ。ここ牢屋なんてないしね。
「ま、いいわ。それより、その書状を検めさせてもらうわよ?」
お姉さんがそう言うので私は封蝋する前にお姉さんに渡す。
こういうこともあろうかと、用意していたものだ。
お姉さんは、その書状に目を通していくうちに、顔が段々青ざめていく。
「えっと、……これ本気!?」
お姉さんが書状を指して聞いてくる。
そんな無茶なこと書いてないけどねぇ。
書状には、領主を始めとした数人の貴族が行っていた悪行の数々と、今回の侵略に対する遺憾の意、そしてその賠償請求について書いてあるだけ。
賠償の内容についても、村を中心とした一帯を不可侵にすること、復興金として金貨500枚を村に寄付すること、そして、領主を始めとした関わった貴族たちを領外へ追放すること、これを国王の名において、1週間以内で実行し周知させること。
それらが実行されたことが確認できた後に、遊びに来ている奥様方を送り届けること、だけど娘さんたちに関しては、1年ほど勉強をさせてから送り届ける、というようなことを、勇者ミカゲの名に於いて記してあるだけだ。
「あのね、私は勇者とか魔王とかどうでもいいのよ。関わりたくもないの。その私が、勇者の名において、って言ってる時点で察してくれないかなぁ?」
「でも、一週間というのはあまりにも………。」
うんざりといった様子の私に対し、それでも何とか譲歩させようと試みる受付のお姉さん。
「あのね、まだ魔族の方とも話をつけなきゃいけないの。1週間でも長いくらいよ。」
「でも………。」
まだ言い募ろうとするお姉さんの態度にいい加減キレて、その主張の激しい胸をつねる。
「きゃッ、い、痛い……。」
「わかんないかなぁ?やっぱり胸が大きいから頭にまで血が回らないのかなぁ?」
「い、痛いの。お願いだから抓らないで……。」
「あのね、わかってないようだから、教えて上げるけど、時間がかかって困るのはあなた達なの。今敗走した魔族軍を抑えてもらってるけど、どれだけ頑張っても1週間が限界なのよ。それまでに魔族側と交渉に入らないと、戦力を立て直した魔族軍が再び攻めてくるわよ?壊滅状態の領主軍で迎え撃てると思ってるの?」
私の言葉に、ようやく事の重大さを理解したお姉さんが、コクコクと何度も頷く。
そして書状を届けるために、ヨロヨロとしながら、村をあとにするのだった。
「……なんか、真面目なミカ姉ってヤダ………。」
クーちゃんがそんなことをぼそっと呟くのを、私は聞こえないふりをしてスルーした。
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