モフモフは正義!?
領主軍と、魔族軍に囲まれた名も無き村……。
その中央広場では、対策会議という名の呪詛の漏らし合いが行われていた。
原因になったのはもちろん、ミカゲの「助けてほしければ娘を差し出せ」という、悪辣極まりない宣言のせいだった。
村の大人たちは、他に手はないのかを話し合い、外の軍勢に視線を向け、飄々と、クミンを可愛がっているミカゲに対し呪詛を吐く。
そんな大人たちを尻目に、ミカゲの前には獣人の少女たちが並び、跪いている。
「お姉さん、私達を好きにしていいので、この村を、助けて。」
一番年かさに見えるウサギ耳の少女がそういうと、他の少女たちも一斉に頷く。
ミュウとマリアちゃんは、呆れかえって黙って見守っている。
「いいの?後悔しない?」
私はウサミミ娘の前で視線を合わせ、そう訊ねてみる。
「はい、お姉さんの言うとおりにします。何でもしますから助けてくださ……、ひゃんっ!」
私はウサ娘の尻尾をモフりつつ敏感なところに指を這わせる。
「こんな事されちゃうんだよ?」
「ぁ……ぁんっ、だ、だいじょう……ぶ、……です。」
「ン、了解。助けてあげるよ。」
私はウサ娘を離すと、ミュウ達に作戦会議をするから、適当な場所を探してきてと頼み、マリアちゃんに村人の代表を2~3人集まるように伝えてもらう事にした。
「じゃぁ、せっかくだから、あなた……名前は?」
「あ、ロコと言います。」
ウサミミ少女が答える。
「じゃぁロコちゃんは私と一緒に来て。他の娘は別名あるまで待機。」
私がそう告げると、皆ロコちゃんを心配そうに見ながらその場から離れていく。
「えっと、私は何を……。」
「これから作戦会議するからね。一緒にいてくれればいいんだよ。」
不安そうなロコの手を引っ張って、ミュウが用意してくれた小屋へと移動する。
◇
「勝算はあるのよね?」
作戦会議が始まるなり、ミュウがそう言ってくる。
「うーん、この場を切り抜けるって事だけならいくつか方法はあるんだけどねぇ。」
私は膝の上のロコちゃんをモフりながらそう言う。
ってか、この娘、毛並みは細くて柔らかで最高のモフ度よ。一度モフりだしたら手放せないわ。
「ちなみにどんな手か聞いても?」
「んッとね、まず、この村の結界を強化するでしょ?」
フンフンと一同が頷く。
「そしたら『隕石群衝突』と『光の流星雨』と『浄化の聖光』をあの軍勢に向けて放つの。後は残党をミュウが狩るだけの簡単なお仕事。」
「「「「「「却下!」」」」」」
満場一致で否決された。これが一番簡単なのになぁ。
「他にないの?」
「ん~、ここに簡易転移陣を設置して、ターミナルへ皆を移動させるって言うのもあるけど、あまりお勧めできないよね?」
「うーん、そうね。」
ミュウが少し考えてからそういう。
ターミナルのエリア内の居住区では、少ないとはいえ、この村全員が住むには狭すぎる。かといって近隣は人族の街なので、獣人達に対する偏見が根強く残っているから、そこに住むというのは厳しいだろう。
蜃気楼の街でなら比較的偏見は少ないが、天然の毛皮を着ている獣人達に砂漠の環境は過酷すぎる。
そう言った諸々の事を考えると、この案は、他にどうしようもなくなった時以外は採用できない。
「他にはないの?」
「領主を倒してウェスの街を奪う、もしくはスカー子爵の領地を乗っ取る……とか?」
「どうやって……って、いや、いいわ。アンタならできそうなのが怖い。」
……失礼な。確かに出来るとは思うけど、ちょっとミュウの私に対する認識、おかしくなってない?
「って言うか、皆は意見ないの?」
……私の案をダメだしするなら、代案を出してもらいたいと思うのよ。
「領主軍と魔族軍を穏便に撃退する……っていうのは?」
マリアちゃんがそう言ってくるけど……。
「穏便って、どうやって?」
「ミカゲ様が脅せば、軍を引いてくれるのでは?」
マリアちゃんが、キョトンとした顔でそう言うけど、それって、要は極大魔法をぶち込んで脅せってことだよね?私の案と大差ないよね?
「ねぇ、手っ取り早くじゃなくていいから、穏便とまではいかなくてもあの軍勢をどうにかする方法はあるんでしょ?」
ミュウがまじめな顔で私を覗き込んでくる。
確かに、ない事はないんだけど……。
「はぁ……すごく面倒で、しかも失敗する確率も高いからやりたくないんだけど……。」
「この際だから、何でもやるわよ。あいつらを撃退した後なら、1日何でもミカゲのいう事を聞くわ。だからお願いよ……。」
ミュウにそこまで言われたら、やるしかないかぁ。
私は仕方がなく、ロコちゃんほか、獣人達を部屋から追い出して、ミュウとマリアちゃん、そしてクーちゃんにだけ、この先の行動について話すことにした。
◇
「オイ、聞いたか?」
「あぁ、明後日の夜中、領主軍が魔族軍に夜襲をかけるから、それに便乗して魔族軍を攻撃するって話だろ?」
村人たちが集まって騒いでいる。
昨日、ミカゲとかいう女からの指示が出されたことについて、話しているようだ。
「そうだ。その戦功をもって、この村の自治を領主に認めさせるって、あの女が言ってた。」
「おい「勇者様」だ。あの女なんて言ってるのがバレたら、俺たち領主に売られてしまうぞ。」
「あ、あぁ、そうだな。しかし「勇者」か……。それなら人間に味方するよなぁ。」
「ぼやくな、ぼやくな。その勇者の名において、次の戦いで活躍すれば必ず守ってくださると明言してるんだ。」
「俺たち獣人が勇者様の庇護下に入るってか。信じられねぇよなぁ。」
「しかし、夜襲て言ってもうまくいくのか?それ以前に本当に領主軍が夜襲をかけるのか?」
一人の村人が不安そうな声をあげる。領主軍の動きに合わせてというが、領主軍が動かなかったら自分たちだけが魔族軍の矢面に晒されるのだから仕方がない事だろう。
「あぁ、それなら大丈夫だそうだ。何でも、魔族軍には「3日経てば領主軍の糧食が尽きて軍を引き上げるからそれまでのんびり待っていればいい」という情報を流しているらしいからな。領主軍もそれを確認したうえで夜襲をかけることを決めたらしい。」
「そうなのか?じゃぁ問題はないな。」
「あぁ、のんびりしているところへの夜襲。これは効果的だけど、ウソの情報を流して不意打ちってのは、勇者様もえげつないよなぁ。」
「だからやめろって、どこで誰が聞いてるか分からないんだぞ。勇者様の耳に入ったら……。」
「あ、あぁ、そうだな。俺達は勇者様の指示に従うだけだ、うん、そうだ。」
「……まそういう事だな。ただ、これは勇者様の側近がボソッと漏らしていたことなんだけどなぁ。」
「なんだ?」
「いや、作戦の成功率はほぼ100%ってことなんだけど、万が一、夜襲をかける前に魔族軍にこのことがバレたらヤバいって話だ。」
「そうか、魔族軍がこのことを知ったら、当然夜襲を掛けられる前に攻撃するわな。」
「あぁ、例えば明日の夜なんか、領主軍の奴らは翌日の夜襲に備えて、英気を養うために宴会をするらしい。と言っても魔族側にバレないようにひっそりとだけどな。」
「そこを狙われたら、……ヤバいな。」
「まぁ、万が一にもそんな事はないって言ってたけどな、……そうなったら俺達が勇者に従う謂れもないし、その時は逆に魔族側に付こうって言うのが皆の総意だ。」
「マジか、そのことを勇者様は、当然……。」
「知るわけないだろ?バレたらヤバいのは俺たちも一緒だ。」
「だよな。」
「とにかく俺達は生き延びることを考えようぜ。」
「だな。」
村人たちは笑いながら広場を去っていく。
その片隅で、未だに縛られて転がされている一人の魔族については、最後まで気づかなかった。
◇
(……ふふっ、いいことをきいたわ。)
エミルはほくそ笑む。
みんな自分の事はすでに忘れ去っている。この場に放置されているのがその証拠でもあるのだが、それでいいとエミルは思う。
そうなるように、ひたすら気配を押し殺してじっとしていたのだから。
「だけど、あの女が『勇者』だったとはね。」
その力の一端を垣間見たエミルにしてみれば、出来れば敵に回したくないと思いつつ、出来るだけ早めに始末しておきたい相手だった。
そして偶然聞き及んだ先ほどの会話から、「勇者」を屠るチャンスが来たと思った。
その為には、何とかこの拘束を振りほどいて逃げ出す必要がある。
あの女がいた時は、物理的な縄による拘束だけでなく、魔力による拘束もあったためにどうしようもなかったが、あの女がここから離れてしばらくすると魔力が消えてなくなった。
当然だ、遠隔で魔力を維持するなんて芸当は、それこそ、四天王や魔王と言った上位魔族でも至難のわぁなのに、いくら勇者と言ってもあんな小娘に出来るわけがない。
そして、ただの縄だけであれば、エミルにとっては縄抜けするのも容易である。
といっても、特殊な縛り方をされていたから、手足の自由を取り戻すのにかなりの時間を要するのだったが……。
「ふぅ、ようやく自由になったわ。でもあの女こんな縛り方しやがって。覚えてろよっ。」
エミルは自分の胸元に視線をやり怒りを増大させる。
拘束というより、胸元を強調するためだけの縛り方。手足とは別になっていたため、そちらの縄はまだ解けていない。結び目が背中にあるため、解くのも容易ではなく、素材も特殊な素材なのか、普通のナイフで刃が裁たない。
少し恥ずかしくもあるが、今は時間が何より大事だ。
エミルは胴体の縄を解くのを諦める。幸いにも、この状態でも羽は出せるので、逃げ出すことに問題はない。
エミルは大きく羽を広げると空高く飛び上がるのだった。
◇
「行っちゃったよ。」
「行きましたわね。」
「まさかここまで目論み通りに事が運ぶとは……。」
クーちゃん、マリアちゃん、ミュウの三人は私を呆れたように見る。
「うん、ここまでは予想通りよ。後は領主軍の方に『明日の夜魔族軍の襲来がある』という情報を流しておいて。」
私がそういうと、傍に控えていた影がシュッと姿を消す。
「……ねぇ、今更だけど信用できるのあの娘?」
「どっちの娘?」
「両方よ。」
「ん-、どうかなぁ。」
「どうかなぁって、大丈夫なの?」
ミュウが心配そうに聞いてくるけど、別に私は心配してない。
「大丈夫よ、三日後には取りあえずのカタがついているから。」
だから私はミュウに安心するように声をかけたのだった。
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