9話
懇請組合の中は騒々しいほど活気に溢れていた。窓口に並ぶ人たち、掲示板に貼られた票を見比べるグループに奥には酒場のような飲食の出来るスペースもあり、組合とはかなり大きな規模の総合店のようにも見えた。
一定で統一された衣装でまとめられている人たちが多分この組合の職員なのかもしれないが、忙しなくしているところを呼び止めるのも憚られる。
どうしたものかと思案していると、私たちに気付いてくれた窓口のお姉さんが手招きをしてくれた。
「こんにちわ! あ、もうこんばんわかな?」
「あ、はい、こんばんわです」
話す口の動きと聞こえてくる声が合わなくて戸惑ってしまったけど、何とか心内に押さえたまま対応が出来た。
「初めて見る顔ですね、ご依頼ですか?」
「えっと、あの私たち……」
「ボクたちは東より出てきたばかりでね。身分証がほしくてね、ここならそれがもらえると聞いてきたんだ」
「なるほど、新規登録ですか! それならまずはご説明させていただきますね。懇請組合とは──」
ここ懇請組合とは、仕事の斡旋をする掃討者と蒐集者と依頼人の窓口を総括する相互補助組織だそうだ。互助会や単に組合とも略される。
依頼は大きく別けて『討伐』と『蒐集』と『護衛』。討伐はそのまま人々の生活を脅かす魔物の討伐依頼と、蒐集は普通には手に入らないモノや、町の外へ出られない人の代わりに素材を集める採取依頼、そして護衛とは町から町への輸送する商人や魔物と戦えない人の用心棒を担う依頼があるそうだ。
要はお互い助け合いましょうを一括してまとめあげる組織のようだ。
信頼度や依頼達成度で信用度合いが変わるそうで、下から順に草分、旋風、石選、山貫、天花、星運の六項目に格付けされる。
草分は文字通り、草根を分けて探し始める初心者の等級。
旋風は討伐にも慣れ、行動にも早さが備わってきた等級。
石選は石塊と鉱石の違いを見極められるようになってきた一端の等級。
山貫は危険も多い山を越え活動範囲が広がる上等級。
天花、天に咲く花の如く、極め始めた高嶺の存在。
星運、満天の空に輝く星のように、高みに至る者への等級。
この辺りはよくあるギルドとそうは変わらないみたい。みんな星運を目指し、日々がんばっているそうだ。
「ここまではよろしいですか?」
「えっと……草、分、旋風、石選……はい、多分」
「まぁ格付けに関しては覚えてなくてもこちらの都合ですので。自分の等級だけ忘れずにお願いします。依頼等に影響しますから」
「てい、大丈夫だってさ」
「う、うん」
「では次に登録を始めさせていただきます。……んしょ、と。こちらの台座に手を翳してください」
お姉さんはカウンターの下から機械みたいなモノを取り出す。なんだかスーパーとかにあるレジ機みたいにも見えるけど、その分やたらと重そうだ。
「こちらは遺跡より発掘され修繕された鑑査機と言って、この台座にて人でも物でも読み取れるモノの鑑定を行う優れモノなのです! すごくないですか!? ……まぁ、乗せられるもの限定ではありますが」
「は、はぁ……」
「ずいぶん鼻息が荒い人間だね。……本当にていの役に立つのか?」
コマメのボソリと発した言葉は、喧騒の中でも私の耳にだけには届いた。
「こちらで読み取った情報はここにセットされた用紙に記載されるんです! すごい!」
いよいよレジ機染みてきた。異世界に来てからまだ間もないけれど、少し懐かしく感じるよ。
興奮冷めやらぬお姉さんに促され、台座に手を翳そうとしてコマメがそれを制した。
「まずはボクから行くよ、てい」
「あ、うん。いいよ」
心に警戒が強めに表れているコマメは、空いている手のひらを台座に翳す。繋いだ手を放す気はないみたい。もちろん私も離さない。
赤い光が一瞬、カメラのストロボフラッシュのように発光すると、カタカタと用紙を飲み込み、反対側から文字が記載され排出された。
読み込みが一瞬で終わるとか高性能なスキャナープリンターかな?
文字が綴られているのだろうけど、ここでまた新たな問題が発覚した。
「てい、危険は無さそうだけど」
「組合が推奨する安心と信頼の鑑査機ですから!」
「はいはい、それでてい、どうかなボクの情報とやらは?」
「……読めないねぇ」
言語体系が違うんだから文字の違いを考慮しておくべきだったかな。参っちゃう。
とりあえず危険がないと言うことで、後ろから優しく支えてくれるコマメに促され、台座に手を翳した。
同じように赤い光が発光し、私の情報が記載されているであろう用紙を切り取った。
やっぱり読めないわ、うん。どうしよ。
「はい、ちゃんと記載されましたね! では、登録をいたしますので提出をお願いいたします」
読めない文字の羅列ばかりを眺めていても仕方ないので、言われるままに私とコマメの二人分をお姉さんへと渡す。
「あれ? あ、そちらの小さなお嬢さんは妖でしたか。私はてっきり獣人の方かと」
「あ、妖とかわかんないけど、コマさんは私の大切な家族です!」
「てい……」
「すみません。組合の中にも妖を扱う人たちは一定数いますのでご安心を。しかし、妖は登録が出来ないのですよ」
「そんな……それじゃコマさんは……」
「てい、ボクなら平気だよ。お姉さん、ていは登録出来るんだよね?」
「はい、ていさんにはテイマーとしての登録と、妖の従魔登録をしていただき、紐付けがなされればそちらの妖はていさんによって身元の保証がされます」
「そ、それでお願い、します……」
「では登録をしていきます。……えっと、これでよし、と」
手続きを終えるとカウンターにはトレイに乗せられた黄緑色のリングと、少し幅が広めの革のベルトが置かれた。お姉さんは先にリングを手に取り私に手渡す。
「まずはていさん。こちらが所属証です。ていさん自身と従魔情報が登録されていますので身分証としての役割も果たします。だから失くさないように気を付けてください。色は草分を表していまして、今後、格が上がれば色も変わっていきますよ」
渡されたリングをコマメと眺める。透明度がある翡翠のようなそれは、光に晒せばキラキラと淡い緑を放っていた。
「そしてこちらが従魔の妖につけていただくベルトですね。ここのタグに所有者情報が登録されていますので、町などではこのタグが見えるようにしておいてください」
タグは私のリングと同じ色をしていた。これも見た目からは分からないが、どうやれば中にある情報が引き出せるのかな?
「扱い方は簡単! 目の前に掲げて“ステータスオープン”と唱えるだけでていさんの魔力に呼応して情報が引き出されます。便利ぃ~」
「だんだん面倒くさくなってくね、この人間」
「コマさん、しーっ」
登録者だけが引き出せる仕組みになっているらしい。なんだかゲーム仕様にも似た不思議グッズだ。
これで漸く身分証というものが手に入ったことになる。持ってる本人には読めない身分証だけどね。
「以上で登録が完了しました! 何か他に聞きたいことはありますか?」
「道中、魔物に襲われて手に入れたんですけど……これ、売れますか?」
鞄から思い出したように取り出すのは、道すがらコマメが屠ってきた魔物から産出された小石。いっぱい集めてくれたコマメには申し訳ないんだけど、正直ね、いつまでも鞄には入れておきたくないの。
入手経路はともかく、見た目だけならキラキラと綺麗なのでもしかしたら売れたらいいな、とカウンターに残されたままのトレイの上に、小鬼や犬頭、一角兎に猪豚頭の石をそれぞれ乗せていく。
「魔石ですね、品質も悪くなさそうです」
お姉さんは一目でこれが何かを見定めるほどありふれた物のようだが、私たちにはその価値はわからない。大量にあるのでせめて一宿一飯くらいの種になれば御の字なんだ。
祈るような気持ちであれこれ調べているお姉さんを見つめる。鑑査機からカタカタと音を立てながら排出された紙を切り取った。
「それで、売れるのかそれは」
「魔石は様々な物の動力資源として重宝されていますし、引き取り手は事欠きません。場所によってはお金の代わりに取引されることもありますよ。もちろん、組合でも買い取りを行っています。少々お待ちください」
お姉さんはトレイに乗せられた四つの魔石(と言うらしい)を持って奥へと引っ込んでしまった。
呆然と見送る私を、ふわり、と抱き締め頬に鼻先をくっつけるコマメが薄く笑みを浮かべながらしっぽを立てていた。
「たくさん集めておいてよかったね、てい」
「……うん。あ、ありがとう、コマさん」
ずっと鼻先がくっついてるから、コマメが話すと淡い吐息やぷっくりとした唇が当たってこしょばゆい。
ちょっと横向いたらチューできちゃう。
していいかな、したら、怒るかな。
「お待たせいたしました……?」
「うあー……」
「ふふ、どうしたの? 変なてい」
「な、何でもないよ! 変なことなんて想像してないから!」
「どんなこと想像してたの? ていのことなら何でも知りたいな、ボク」
「ふひ、あ! 違っ、ずっと一緒にいるんだから知ってるでしょ?」
「もっと知りたい。猫とは違ってこうして言葉を交わせるんだから」
「ひー、今は許してぇー」
「あのー、そろそろいいですかねぇ……」
コマメに口説かれている間に、魔石の代わりに小袋が乗せられたトレイを持ったお姉さんが所在なさげに大きな溜め息を吐いていた。
わ、私は悪くないよ? コマメが美人さんなのがイケないんですぅー!
読んでいただきありがとうございます
( ≧∀≦)ノ
のんびりと更新していきますので
気長にお待ちくださいな。
(*・ω・)
次回3月17日投稿予定