8話
イカれた幻聴なのかどうか判断がつかないまま、少し前を先導する鳥に着いていくことにした。
「あ、あのコマさん?」
「なに? てい」
「私なら大丈夫だから、その……降ろして?」
「ダメ」
うぅ、コマメが言うことを聞いてくれません。
そりゃね、私だって突然『鳥さんがおしゃべりした』なんて言われたら正気を疑ってしまうかもしれないけど。
ここは前の世界の常識が通じないと思ってもいいと思うんだ。つまり不可思議なことがあってもおかしくない。
だってコマメだって人の姿になったり、こうしてお話したり、私を抱っこして運ぶなんて出来るようになったんだから。
「ピィ、ピィヒョロロ!」
「あ、町が見えてきたって!」
抱き締める手に力が入ってない? ちょっと痛いよ!? 頭おかしくなってないからね!?
私やコマメの視界にはまだ町は見えないけれど、空を飛ぶ鳥がそういうのならあるのだろう。
ものすごく心配してることが伝わるから、無下に離してとも言えないまま歩くこと数分。
「……本当にあったね、てい」
「ね、ね! あの鳥さんが教えてくれた通りだね!」
門が付いた壁の向こうに屋根や人々の喧騒が響いている。
異世界に来て、ふたつ目の町だ。以前の集落より大きく、門の中には行き交う人々が目に留まる。
私たちの来た門からは出入りする人は少ないが、確かに人々の住む町だ。
「ここまででいいよ、ありがとう鳥さん!」
「ヒョロロロロ……」
─『鳥』を手放しました─
ん、また聞こえた。今度は手放した……?
鳥は私たちの上を三度旋回すると、これまで歩いてきた方角へと飛んでいった。
……今の鳴き声は言葉じゃなく普通に聞こえたな。
まだよくわかっていないことがたくさんあるけれど、今はまだ頭の片隅へと追いやる。とにかく今は休みたい。
ここまで来るのに私を抱えたまま、連戦したコマメの身体が心配で仕方ない。でも聞いたってコマメのは大丈夫としか言わないから、これだけ大きな町の中なら魔物に襲われることはないはず。コマメのためにもどこか休める場所を確保したい。
まばらとは言え門には町に入るための検問? が敷かれ、順番待ちをしている人が何人かいた。
「そう言えば私、言葉がわからないや。どうしよう?」
「任せて、ボクがついてる」
「全部頼りっ切りでごめんね……」
「ううん、ボクの方こそ……ていの言う通り町はあったんだ。ていの猫なのにていを疑うなんて……」
私と言うより鳥のおかげなんだけどね。
しょんぼりと倒れた耳を撫でていっぱい良い子してあげる。コマメがいなければ、私は小鬼たちの餌食か行き倒れが関の山だったわけだし。
猫の姿も美人さんで良かったけど、こうして人の姿をしていると感情の機微がわかって嬉しい。
私は今、うちの猫さんとイチャイチャしてるんだぜ! って自慢したいくらい。世界の愛猫家が羨ましがるよ。絶対。うひひ。
「──次の者」
「てい、ボクたちの番だ」
「うん、お願いコマさん」
前に並んでいた人たちが門を潜ると、ついに私たちが呼ばれた。内心ドキドキバクバクしながら、一歩ずつ。私の猫と歩く。離れないようにしっかりと手を繋いで。
「……うん? お前、妖じゃないのか?」
「アヤカシ? 違う、ボクはこの子のペットだ」
妖ってなんだろう? それに人の姿で『ペット』じゃ私が特殊な性癖持ちだと勘違いされないかな……?
「ペット……?」
「この子がボクの飼い主様だということだよ」
「なるほどテイマーか、了解した。身分証はお持ちか?」
「いや、まだ旅の途中でそういったものは持ち合わせていない」
テイマーってあのテイマーかな。なるほろ、そうやって言っておけば私がコマメと一緒にいても問題ないわけか。
「ふむ、では出身は?」
「ここより東の村の方だね」
「ハテ村の出身か、通りで身分証もないわけだ。しかしあの村にキミほどの知能が高い妖がいたとはね」
「ボクというよりは彼女の力だよ。彼女がいたからこそボクはこうして今を生きている。……彼女はボクの生命の恩人だ」
うぅ、コマメってば私のことそんな風に……。私だってコマメがいなければ今頃。
「ま、そういうわけで身分証とやらは持っていないんだけど。無くちゃ町へは入れないのかい?」
「そう言うわけではない。ただ身分証も無いとなると上乗せで税が掛かってしまうが」
「税?」
昔の日本で言えば関所みたいなものかな。町の出入口は謂わば国境のような役目を果たしてるんだ。
「……えっと、てい」
「うん、税金だね。コマさんには馴染みがない言葉かも。でも私たち、この世界のお金なんて持ってないし……払わないと入れないんじゃねぇ」
「いやいや、町に入ることは可能だ。しかし、施設の利用等に掛かる費用に領民税や何からが掛かるんだ」
なるほろ。身元不明はお金さえかければ町にいられるし、それだけお金がかかると、わざわざ犯罪も起こしにくいってことなのかも。まぁ、お金かけてまで犯罪してちゃ身も蓋もないもんね。
「年間で一律の税を納めていれば領民となれる身分証も発行されるが、君たちのように田舎から出てきて一念発起しようって一旗揚げたい若い子の多くは組合で身分証を発行するんだ」
「組合?」
「え、懇請組合。知らない? ああ、あの村から来たんだったね、君たち」
どうやらその懇請組合というのは常識らしい。
「ま、詳しいことはここにも支部があるし、そこで聞くといいよ」
「ありがとうございます!」
「……ありがとう」
「がんばれよ!」
とにかく、町には入ることが出来るみたいだし、早速その組合とやらに行ってみることにしますか。
長々と私たちの相手をしてくれた関所の駐在さんに別れを告げ、コマメと隣り合って町の中を歩く。
それなりに規模の大きな町なだけあって、中心部から外れた郊外であってもかなりの喧騒だ。
はぐれないように自然とお互いの手を繋ぐ。
「てい、今から組合? というところに向かって身分証を作ろうと思うんだけど」
「懇請組合って言ってたよね。どこにあるのかな?」
「やっぱり……ていも言葉が解るようになったんだね?」
……そう言えば先程のコマメと駐在さんの会話は普通に聞こえた。集落ではまったく何を言ってるのかさっぱりだったのに。あまりにも普通に聞き取れたから深くは考えてなかった。
「さっきの村の人とは言葉が違う、とか」
「同じ言語だね」
「……あの鳥さんの言葉が解るようになったのと関係があるのかな?」
「何かの声が聞こえた、ってやつ?」
「うん」
不思議なことが起こったとすれば、あの鳥の声がわかるようになったことくらい。何と言われたかは忘れちゃったけど。
異世界に来てからいろいろあったし、どうしてもね……もういっぱいいっぱい。コマメが心配するから何とか誤魔化せていたらいいな。
露天や商店、歓談する人たちに聞けばみんな、快く組合の場所を教えてくれた。口々にがんばれ! 依頼の時はよろしく、とたくさんの言葉をかけてくれる。
うん、言葉が通じるっていいよね。
程なくして道行く人たちに教わった建物に辿り着いた。剣と盾の重なるシンボルが目印の看板とすぐ隣には籠に草が乗せられたシンボルの看板が掲げられている。
すでに日は傾き夕暮れに近付いているのに、そこそこの人数が出入りをする組合(らしき建物)。その風体は歴戦の戦士のような人もいれば、ラフな格好をしたグループも様々だった。自然とコマメと繋ぐ手に力が入る。
「……行こう、コマさん」
「ん。ボクはどこまでもていに着いていくよ」
コマメの手を引いて組合の戸を潜った。
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次回3月14日19時投稿予定。