4話
焼けつくような光の奔流が成りを潜め、視界を取り戻すとボクはだだっ広い草原に突っ立っていた。
すぐに周囲の状況を把握すべく、視線を辺りに転じ思考を加速させる。
ボクからご主人を奪おうとしていた車はない。
それどころか天まで届くかと思えるほどのビル群も、人々の姿もない。そしてご主人も側にいない。
妖力の解放。その副産物として大きく場所を飛んだようだけど今は頭の片隅に置いておく。まずはご主人だ。
まだちゃんと制御が出来ていない妖気に、巻き込まれたご主人がボクとは離れた位置に飛ばされてしまったらしい。
失敗だ。早く探さなくちゃ。
匂いを頼りにボクは駆け出す。
大好きなご主人の匂いはすぐに見つかった。
妖力を用いて五感を向上させる。薄ぼんやりとした視界はよりハッキリと。微かな匂いすらより嗅ぎ分けられ、四肢の筋力がよりしなやかに強く。風よりも疾く疾くと速く走る。
──見つけた。
数人に担がれているご主人のもとへと急ぐ。
「ゲギャッ!」
「ギイィィィッ!」
ご主人を雑に担ぎ、聞くに耐えないような奇声を上げているモノ共の前を妨げるようにした降り立つ。
よく観察して見れば、人とも似つかぬ醜悪な容姿。鼻をつく異臭。
ご主人のよく見ていたてれびあにめとやらに出てくる小鬼と酷似している。
大きく開いた口からは涎が滴り、青紫色の舌がご主人の太股を舐め擦り這わせていた。
「ボクの大切な人に触れるな……ッ!」
怒りに呼応した妖力は猫の身体に収まりきらず、ボクの姿を変えていく。
暴力的に膨れ上がる妖力を抑えることなく、怒りのまま爪を奮った。自慢の爪はさした抵抗もなく、小鬼をズタズタに切り裂き、青い体液を撒き散らしながら物言わぬ肉塊へと変わった。
刹那を誇るボクの爪。ご主人と一生懸命訓練した甲斐があった。
漸くこの手で抱き締めることが出来る。
ボクの大事な大事な人。
飛んだ衝撃で意識を失っているだけみたい。
ほっと、安堵の息が漏れたところで、ご主人の鼻先にボクの鼻を押し付ける。
妖力を得て、『人化』を覚えたボクの姿を見たらご主人は驚くかな?
いつもされるばかりでボクから手を伸ばしても、その手に押し付けるようにニコニコとしたほっぺを押し付けてきてたご主人。
ガサガサと、背の高い草むらを押し退けて血の臭いに群がる小鬼共。
ちょうどいいこの身体に慣れるため、ご主人が目覚めるまでのいい土産になる。
次から次へと襲いくる小鬼共。四肢をもいだり目玉だけを的確に狙い撃ちしたり、股間を膨らませてくるバカにはピンポイントで抉り落としたり。
小鬼の妖気が低いので、ボクにとって格下の存在はただの獲物。練習相手には困らないけれど、もう少し固いと分かりやすかった。まぁいい。
肉は喰えそうにもない饐えた臭いをしているが、どうやら心臓辺りを裂けばキラキラとした石が出てくる。
これを集めておいたらご主人は褒めてくれる? 褒めてほしいな。
小鬼の波が終わり、周囲を埋め尽くした死骸。
力が漲る。しばいた魔物から妖気が流れ込み、ボクの力に変換されているようだ。魔物を倒せば強くなれる。強くなればご主人を護ることが出来る。
嬉しい。いっぱい、いっぱいご主人からもらったからボクは今を生きている。そうじゃなきゃあの日、あの時ボクは死んでいたから。その恩を少しでも還せるならこんな嬉しいことはない。
ここがどこかわからないけど、きっと元の世界とは違う。
コンクリートに覆われ大地が緩やかに死に逝くかつての物質世界とは大きく異なり、ここは自然の力が強く活性化していた。
空気もどことなく違う。
次元の壁を超越して、世界を渡ってしまったのだろう。
ご主人のパパやママが心配してる。
帰らなきゃ。帰してあげなくちゃ。
次元の壁を突破するために、妖力を上げていく。
──……?
元の世界は自然の力が弱り、異質だったボクの力でも突き破れたのに、この世界はとてつもなく自然の力が強く堅い。
元の世界より上流にあるせいだろう。
これはとてもじゃないけど、次元の壁を突破して元の世界へ還るなんて出来ない。
要はまだこの世界でのボクは弱いのだ。
もっと、強くならなくちゃ。
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次回投稿3月2日19時予定