2話
誤字報告ありがとうございます。
修正いたしました(*´ー`*)
「てい起きて、てい」
「ん……、あれ、私……?」
「てい、しっぽ離して」
尻尾? 確かにこのふわふわした毛並みはコマメの物だ。
だけど離してとは?
さわさわと、柔らかい毛が私の頬を撫でる。コマメが私を起こす際にする仕種だよ、ね? じゃあ、この可愛い声は誰?
触れる毛がこしょばゆくてつい捕まえて引き寄せれば、さして抵抗もなく腕の中に納まってくれる。
「いつもなら寝かせてあげたいけど、今は起きて」
「んぅ、わかったぁ……おきる」
初めての拒否は回らない頭では理解し難く、腕の中にない温もりに寂しさを感じながら寝ぼけた瞳を擦る。
ふわわ……と、体を解しながら私の可愛い猫さんを探して視線を転じた。ふわりと流れるそよ風は心地よく、コマメと一緒にお昼寝するにはぴったりだなと、ぼんやり思考を傾ける。まぁ、その肝心のコマメが側にいないようだけど。
「起きたか、てい。おはよう」
「おはよー……コマさーん、どこー……?」
「うん、起きてないね。ボクはここにいるよ、てい」
「わー……喋れるようになったんだねすごいすごい……むにゃ……」
いつかコマメと会話がしたい。そんな想いが夢でもいいから叶ったと考えるべきか。全世界の愛猫家が願う夢を叶えた私。いえーい。
「てい、目を覚まして」
「んー、私のコマさん……」
「キミの猫はここにいる」
「……………………」
柔らかくて小さな手が私の頬を軽く撫でる。すぺすぺでお日様の匂いがするこの手は、何度も抱きついては押し返されたあの匂い。
気分が乗らないときに抱っこをすると、離せと言わんばかりにあの小さな肉球で押し返されるのが楽しくて、何度もせがんだあの小さな手。
でもあの手より暖かくて優しい。
漸く目覚めた思考で瞼を開くと、美少女がぼんやりとした眼で私を覗き込んでいた。
……えーと、どちら様になるのでしょうか?
美少女が私の傍らでぺたりと座っていた。
白と灰色、茶色の斑模様の髪色や澄んだ空色の眼が私の愛猫を彷彿とさせる。
しかし、しかしだよ? あの子は猫さん。こんな和装の妖艶な美少女ではないのだ。
「やっと起きたね。こんなときでも寝起きが悪いの」
「え、あ、はい。すみません……低血圧なので……」
「知ってる。ずっと側にいたから」
「えとえと、……ごめん、なさい」
「てい? なぜあやまるの?」
眉を八の字に落として、俯いた私の顔を優しい両手が包んだ。その空色の眼は私をまっすぐに見つめている。
大きな眼。きめ細やかな白い肌。紅潮した桜色の頬。ぷっくりとした唇に差した紅やはだけた着物は幼気な容姿とは裏腹に花魁のようにも見える。
「あの、誰かな?」
「………………」
「………………」
き、気まずい。この子は私のことを知っているようだけど私にはわからない。こんな美少女に逢っていたらきっとこの足りない脳ミソでも記憶に留めていてくれるだろう。それでも記憶の引き出しから出てこないと言うことは、私とこの子は初対面のはずなんだ。
しかし、私のダメ記憶力は当てにならない。
もしかしたら、がある以上、思い出してあげられないことが申し訳なくなってきた。
言葉を失くしていた美少女がゆっくりと小首を傾げると、あ、と何か思い当たったのか、鼻を私の鼻先に当ててきた。
「てい、わかんない?」
「あえ、ひ……っ、ふわあ……!」
言葉が詰まるなんて初めての体験。
美少女からちゅーされるかとドキドキしたら、鼻先を当てただけ。いや、それでもこんな美少女に迫られたらどんな人だって言葉を失うと思います!
「てい、変。ていが教えてくれたのに」
「へぁっ!? あにょしゅみましぇんわかんにゃいれす!」
美少女に吐息が重なるほどの近距離でまっすぐに見つめられて平静を保てるほど鋼メンタルしてないんですぅ!
「おかしなてい」
「あにょ、おにゃまえを……」
「コマメ。ていがつけてくれたボクだけの名前」
コマメ……? コマメ? コマメ!?
ここここれが、この美少女がうちの猫さん?!
「こここコマさん?!」
「やっと名前を呼んでくれたね、てい。ずっとキミと話をしたかったよ。ずっと言いたいことがあったんだ」
「ほ、ホントに……私のコマメ……なの?」
「そしてキミには話さなきゃいけないこともあるんだ」
唇と唇が触れそうなほど近くで、逸らさない双眸からは強い意志が感じられ思わず息を飲んだ。
──ここは、私たちの住んでいた世界とは違う世界。
読んでいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
もしよろしければ評価、ブクマ等をお願いします
φ(..)
投稿率
2/6
次回投稿26日19時