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私の飼い猫さんはさいきょーでした!  作者: おばた屋
1章 異世界転移と生活基盤固め
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18話

「リコさん、すごいカッコよかったね!」

「てい、少し落ち着いて。風邪が治ったばかりなんだ」


 リコリッタから見てほしいと言われた情熱的な舞を見て、興奮していた私を落ち着かせるようにコマメは(たし)めていた。


「私より年下なのにすごいなー」


 まるで芸能人を見たようなテンションだ。

 祭りの舞巫女(まいみこ)なんて大役にも拘らず、前を向いてがんばるリコリッタには感銘を受けた。


 まだ身体には熱が籠っているような感覚だ。


「ほら、またぶり返すよ。少し熱がある」

「う?」

「今日はもう休もう」


 ぺたりと額に重ねられたコマメの手がひんやりと気持ちいい。そっか、気分が高揚してるからだと思ってたけど、少し熱が出たのか。

 自覚をすると心なしか眩暈もするような気がする。

 病は気からって異世界(こっち)でも言うのかな?


 まだ市場とか見てみたいところはたくさんあったけど、繋いだままの手を引かれ榮犖(えいらく)亭へと戻る。


 宿では相変わらずリコリッタのお爺さんがうつらうつらと船を漕いでいた。夕飯から夜遅くまで食堂の料理を一手に引き受けているせいかもしれない。おかげでまだ会話したことないし、お世話になってるからいつか挨拶しないとね。


「これ飲んだら少し寝ようか、てい」

「眠くなーい」

「ていが熱を出すのは、まだ疲れが抜けきっていないのと、こちらの世界に身体が馴染んでいないからだよ」


 前の私たちが住んでいた世界より、上流にある世界だから魂が疲弊しやすいんだって。上流とか下流とか原理や仕組みは一ミリも理解できないけどね。


 海で例えるともともといた世界は深海で、こっちは浅瀬とかそういうレベルで違うらしい。下流であるほど魂に圧がかかるから肉体で物事の行動をしなくちゃならないし、物理原則に基づいた法則に縛られるんだって。

 より上流にあるこの世界はその圧力が低いから、魂の力が発揮されやすいって。なんのこっちゃ。


「身体中に重しをつけて生活してるのが前の世界。こっちはそれがなくなった世界って言えばわかる?」 

「え、でもそれなら私もっと強くなるとかしない? 確かにコマさんは強いけどさ。私、ひょろいままだよ?」

「それはていの身体がまだ慣れてないからじゃないかな」


 圧力から解放された魂の力が、云わば垂れ流しの状態だそうです。

 んー! イメージよくない!

 ぷう、と膨らませた私の頬を押さえられて抜けた空気の音が部屋に響いた。

 馴染んでくれば段々と変化が解るようになるから、それまでは無理をしないように、と念を押された。

 無理してるつもりはないんだけど。


「ていのこの指輪と、ボクの首輪。これでステータスが見られるって言ってたよね」

「文字が読めたら、だけどね」


 懇請(こんせい)組合のお姉さんの説明では“ステータスオープン”って言えばいいとのこと。文字が読めなかったり熱を出したりと見る暇がなかったけど、せっかくだし。


「すてーたすおーぷん!」


 ちょっと顔が赤くなる。中二病じゃないんだから、例えこの掛け声が常識だとしても恥ずかしさは拭えない。

 言い方がおかしかったかもしれないけど、翡翠色の指輪はしっかり反応を示し淡く光を放つと、目の前に半透明のウインドウが現れた。

 ……なんか、ゲームっぽいなー。


 なんて浮き出たウインドウを眺める。


名前:日比谷 てい 年齢:十五


身体能力:低

体力:低 精神:高


攻撃力:低

防御力:低

精神力:高

速 度:低

 運 :高


「読める、ね」

「ボクはどのみち人の文字は読めないけど」


 窓の外を確認してお店の看板の文字を見てみるが、やはり読めない。でもウインドウに表示された私の情報は読める。それも日本語だ。まだ異世界(こっち)に来てそんなに経っていないのに随分と懐かしく感じる。


「ステータスは本人の魂の情報だから読めるのかもね? まるっきり読めないよりは良かったね」

「うん」

「ていのステータスをボクに教えて。ていのことなら何でも知りたいんだ」


 隣に座るコマメが手を重ねて私を見つめる。同じものを見てるけど日本語も読めないコマメに、ひとつひとつ教えていくことにした。

 身体能力が低いって運動音痴だからかな? 体力不足もわかるけど、精神力が高いってのがよくわかんない。

 コマメ曰く、解放された魂の力が反映されてるんじゃないかなとさ。運、高いかなぁ。運が良かったイメージもないんだけどな。めっちゃ魔物に襲われたのに。

 コマメが側にいてくれることが運だとしたのなら納得だけどね。


「ていは魂の力に特化してるね」

「役立たずじゃない? コマさんの足を引っ張る未来しか浮かばない」

「ていは戦う必要がない。そのためにボクがいるんだから」

「うー……」

「さ、ボクのステータスも見てみようか」

「す、ステータスオープン」


 へちょい自分自身にもっと運動してきたら良かったと少し後悔しながら、今度はコマメの首輪に触れてステータスを開く。

 私と同じようなウインドウがコマメの目の前に現れたので、肩をひっつけて覗き込む。


名前:日比谷 こまめ 年齢:十


種族:化猫

体力:高 精神:中


攻撃力:強

防御力:高

精神力:中

速 度:強

 運 :高


「こんなものなのか」

「……こんなものってコマさん、強すぎない?」


 いや、ゲームのように数値化されてる訳じゃないから、基準がわからないけどさ。

 あと私事だけど、コマメがミックスから化け猫になっちゃってる。こうなるといよいよただの人間である私は、コマメの足を引っ張るだけになりそうなんですけど……。


「ね、ねぇコマさん、私いらない子じゃない?」

「やめて、てい。むしろボクはホッとしてる」


 足手まといのはずの私を傷つけないように、重ねた手の指を絡ませてしっかりと繋いでくれる。


「ボクには戦う力があって、大切で大事なていを護ることが出来るんだ」

「コマさん……きゃっ!?」

「ていが紡いでくれた命を、ていが繋いでくれた手を、ていがくれた暖かな想いを、ボクは手放す気はない」


 見つめ合うコマメに押し倒され、ベッドに二人が横たわる。少し痛いくらいに抱き締められ、頬に、首に鼻先を押し当てていく。


 ……よく押し倒されてるなぁ私。コマメは猫さんの時みたいにしてるだけなんだろうけど、非力な私では人の姿のコマメを支えきれないため、突撃されると意図も容易く押し倒される。


「てい、ボクのご主人(てい)。離さない……誰にも渡さない」


 猫さんは縄張り意識が強いって言うから、これも一種の独占欲なのかも。それを知ると私の表情がにやけてしまうので、コマメにバレないようにそのお日様の匂いがする髪に顔を埋めて隠す。


「私の(コマ)さん……どこにもいかないでね」


 例えコマメの大きな負担になるとしても、一人では生きていけない私には出来ることは少なく、こうしてコマメの好意に甘えてすがるしかないのだ。


 何かしてあげられたらいいのにな。


 だけど何をしてあげられることもないまま、リコリッタの舞の練習に付き合う数日を過ごした。





 ……そういえば登録してから全然、組合のお仕事してないなー。

 そろそろコマメが狩ってくれていた魔石のストックがなくなってきたし、コマメの運動不足解消がてら町の外へ行ってみようかな?

 決して戦いたいわけじゃない。魔物怖い。

 でも働かなきゃ食べていけなくなっちゃうんです。

 あと正直、食っちゃ寝って精神衛生上ダメダメなのですよ!

 特にお腹回りが……! ぷに…ぷに…ふふふふやばい!


「コマさん、コマさん」

(なぁに)、てい?」


 ブラッシングをされているコマメの声が少し間延びしてる。可愛い。


「そろそろ私は大丈夫だと思うのです!」

「んー……」

「ちょっとお外にお散歩なんてどうかな?」

「そうだね」


 コマメのくりくりとした大きな瞳孔が縦にきゅっと絞られる。

 あまりこの瞳は好きじゃない。可愛いんだけどね、瞳孔が開いてきゅるっとしてるのがさいきょーなんです!


「うん、熱も出てないし。いいかも?」

「ね。町の外に行ってみない? リコさんの練習も午後からだし、このままじゃ運動不足になっちゃうよ」

「確かにていのお腹が少し──」

「わわわ私のことじゃないよ!? コマさんの身体を心配して……!」

「ふふ、どんなていも可愛いよ」

「ひゃぁぁあっ!? ダメ、お腹さわらないで~!」

いつも読んでいただきありがとうございます。

φ(..)

のんびりと更新していきますので

気長にお待ちください。


次回投稿4月1日10時予定。

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