16話
リコリッタに案内されながら町を歩くのは、これで二回目かな。今度は宿じゃなくて服屋さんだけど。
ジャージ以外のモノを着たいし、コマメにもおしゃれをしてあげたい。第二次性徴期を迎えてきてるリコリッタは、下着を見たいと言っていた。
私も初めての下着は恥ずかしかったなぁ。
外から見えるようなものではないけど、身体のラインには明確に違って出るようになるし、地味な私でも男の子の視線が気になって慣れるまではそわそわしてた覚えがある。
くるんとステップを踏むリコリッタの歩みは遅いけど、こうして普段から練習をしているんだなって分かると、祭の舞巫女なのも納得できる。
コマメも文句をつけず微笑んでいた。
パタ、と止まるリコリッタの視線の先にはちょっとおしゃれ感のある洋服屋さんだ。真っ赤に染まるリコリッタのほっぺた。
──と、思ったら逃げ出した。
「コラコラコラ、リコリッタお前どこへ行くんだ」
「あーいやまだリコには早いんじゃねーかともっとえろえろぼでぃになってからでも遅くねーですよ!」
「はいはい、照れちゃうのは分かるけどね。せっかくなんだし行くよリコさん!」
「はえ、あのっ、おねーさんたちリコはまだお子さま用で構わねーですから!」
「ごー、ごー!」
あわあわと慌てふためくリコリッタを左右から捕まえて、私とコマメはお店の中へと引きずり込んでいく。
……誘拐じゃないからね?
店内は鎧兜や剣といったモノは一切置いてはおらず、一般的な服からドレスまでを全て網羅しましたと言わんばかりの大きな店舗だった。
おしゃれな女性や私くらいの女の子で、みんな仲間内でわいわいと楽しんでいる。
うん、女性は異世界でも変わらないね。
「雅へようこそ。当店では王都での流行から貴族の社交界まで、お客様のご要望を全て叶えさせていただきます」
「あ、どうもー」
恭しく頭を垂れながら、女の子特有のわいわいとした賑やかな中でも通るキレイな声をした店員さんがするりと現れた。
「本日はどのような品をお求めですか?」
「私とこっちの子は服と、下着をいくつか。こっちのリコリッタはブラデビューなので色々と見せてあげたいのですけど」
「かしこまりました。では初めに──」
店舗の中でも少し奥にある、ランジェリーの一画まで店員さんの案内で進む。
和装が基本として、日本でも和洋折衷された和ロリや無難なTシャツ、どこで着るのか不安になりそうな豪華なドレスなど、全てを叶えると言う言葉に偽りはなさそうだ。
パッと見でも服飾技術が、日本に比べて劣っているとも思えない高水準で、これなら例え学校の制服でも不思議に思われることはないと思う。
まぁ、ここの町の女性たちを見ても、制服ほど薄い様相をした人はいないので、わざわざ自分から危険を引き寄せるつもりはないけど。
リコリッタを連れて試着室へと入っていった店員さんが、リコリッタのサイズを確認すると手早く数点の下着を持って戻ってきた。カーテンの隙間から見えるリコリッタの表情はリンゴの色をしている。
いつものワンピースの下には肌着もなく、カボチャパンツだけだったリコリッタ。
レースとリボンの白いショーツと純白のブラがつけられると、その褐色の肌に映えた。カボチャパンツで膨らんでいたスカート部分もスッキリとし、逆にふんわりと包まれた胸周りには女性らしさが出る。
この世界の子供は、日本より発育がいいのかもね。
「キレイだよ、リコさん! とても素敵!」
「は、恥ずかしいから……そんな、やめやがれですよ……!」
「見違えた……」
「慣れだよ、慣れ。この先はずっと着けていくものだしね」
「うう~……」
少女特有のあどけなさが薄まり、大人っぽさが出てきて、照れた表情もさらにそれを加速させていた。
女の子にとっては大事なことだし、しっかり慣れましょう。
同じサイズで色違いやデザイン違いを数点、こういうのはその日の気分で楽しむものでもあるからね。
白のワンセットを昨日のお礼として、私たちからプレゼント。白は譲れなかったよ。とっても似合うんだもん。
着けているもの以外を入れてもらった袋を、大事そうに抱えるリコリッタの嬉しそうな笑顔を見ると、大きな仕事をひとつ終えたような気分だ。
「あとは私たちの服かな?」
「ていのだけを買えばいい。ボクのは必要ないよ」
「えー!? コマさんも美人なんだし一緒におしゃれしようよー」
何てことを言うのだ、この子は。
色々と楽しめるかと思ったのに!
「猫の時は毛皮があるし、今の服は妖気が物質化したモノだから、着替えるとかそういうことじゃないんだ」
「むー!」
「ていはどうしてボクに着せたがるの?」
「んー! んー!」
「にー……たまに出るよね『拗ね拗ねていちゃん』。ボクには必要ないけど、ていの可愛い姿は見たいな」
「……うー……わかった……」
コマメの着せ替えがしたくて、ちょっと駄々を捏ねてみたけどやっぱり猫の時と同じく断られた。
愛猫とお揃いとかキュンキュンできそうなのに。
無理矢理着せても嫌われるだけなのは、小さい頃に無理矢理着せて思いっきり噛みつかれたことがあるから、仕方なく引き下がる。
……怒ると怖いし、痛いし、何より嫌われたくないもん。
いいもん、コマメが着ないなら私が寄せるもーん。
黒をベースにした和ロリのようなルームウェアと、ワンピース、中身が見えないように七分丈のパンツも手に取る。
他には替えの下着の追加と、ジャージじゃないラフな格好を選んでいく。こっちはブラが透けるのとかを避けられたら何でもいいかな。
「可愛いよ、てい」
「………えへ」
その一言だけで顔がにやけちゃう。
どんなに拗ね拗ねしたところで、飼い猫さんに絆される甘々な飼い主なのだ。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちいたしております」
最後まで丁寧に対応してくれた店員さんと別れ、私たちは店をあとにした。あれからそこそこ増えた手荷物をスクールバッグへと押し込む。
「あの、ふたりともありがとうですよ!」
「いえいえ、私は背中を押しただけだから」
「押したっていうか、腕組んで引きずり込んだっていうか」
「コマさーん?」
「にゃー」
「くっ……可愛い!」
「へへ、おねーさんたちと知り合えて良かったでやがりますよ!」
まだほんのり赤いリコリッタは、恥ずかしさを誤魔化すようにくるりと回る。
お祖父ちゃんとふたりで宿を切り盛りしてるんだよね。私より年下なのに、すごいよ。私の五年前? コマメと遊ぶこと以外、考えたことなかったよ。
リコリッタにご両親はいないのかな? 立ち入った内容だから聞いていいかわからないけど。
「そうだ、おねーさんたち良かったらリコの舞を見に来やがらねーですか?」
「豊穣の祈りのやつ?」
「興味ある」
「それじゃーついてきやがれですよーっ!」
ついこの間のことなのに、意気揚々と私たちを案内するリコリッタに私たちはクスリと微笑んだ。
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(*´ー`*)
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次回投稿3月28日10時予定。