12話
少し前倒しで投稿(゜Д゜)ノ⌒・
サービスなのかタオルもしっかりと置いておいてくれたリコリッタに感謝しながら、お互いの身体を拭き終えれば替えの下着に履き替える。
つくづく今日は学校で体育があってよかった。
残ったお湯で変えた下着を揉み合いして、身体を吹いたタオルで目隠しをしながら掛けておく。
コマメの下着も洗おうかと思ったら、また着直していたからコマメは替えがないのかもしれない。明日は服屋さんを探さなきゃ。女の子なんだし、着の身着のままは許されない。
猫の時は嫌がった着せ替えが出来るかもと少しだけ元気になった私は、鞄からこの世界のお金が入った小袋を取り出してポケットへとしまう。
「さ、コマさん。ご飯食べに行こー?」
「少しだけ待ってて──」
部屋を出て、扉を閉める前にコマメが何かをしていた。
それが何かはわからないけど、必要なことであれば教えてくれるし、多分訊いてもわからないことだと思う。
手で印を組むと部屋全体がほんのりと淡く光る。手印って言ったっけ? コマメっていろんなことが出来るようになったね。
「──これでよし。お待たせ、てい」
「ありがとう、コマさん」
言われなくてもきっと私のためにしてくれたんだと思う。だから何をしてるかは解らなくてもお礼は必要だよね。
ふわりと笑ったコマメと手を繋いで、階下へと降りていく。
食堂は宿泊客の他、お酒で盛り上がる地域の人たちもいて繁盛しているようだった。
その中でひと際小さな子がちょこまかと出来上がる料理を運んでいた。リコリッタだ。厨房ではカウンターで寝ていたはずのお爺さんが元気に鍋を奮っていた。
「おー、来やがりましたね! 今日は肉のげんこつ焼きがオススメでやがりますよ!」
「あはは、忙しそうだね」
「忙しいことは良いことだってじっちゃが言ってやがるですよ」
まぁ、閑古鳥が鳴いているよりはいいよね。
この時間からさすがにお肉はツラいので、つかれていたこともあって軽めに済ませるつもりだった。
「コマさん、好きなの頼んでね」
「ていはどうする? ボク、こういうの初めてだから」
それもそうか、コマメは猫さんだもんね。
リコリッタに空いてる席へと案内してもらい、ふたりで座ってメニューを開く。
リコリッタがオススメしていたげんこつ焼きは、猪豚頭肉を使ったモノらしく、周りの男の人は多く頼んでいた。ゴロゴロとした肉塊を豪快に焼いたステーキのようで、確かにお腹にダイレクトに利きそうなボリュームのある料理だ。
やっぱり魔物も食料なんだね、さすが異世界。
せっかくなのでリコリッタを捕まえてコマメにはオススメをひとつ頼み、私は野菜スープとパンを頼んだ。
猫の塩分とか気になるけど、今は人の姿だし、そこまで気にする必要はないかな。
頼んで程なくして運ばれてきたげんこつ肉料理は、粗塩を振った簡素なモノではあるけど、品質も良く美味しそうだった。野菜スープもゴロゴロと野菜が入っていて優しい味わいになっている。
「ていはそれだけで足りるの? お肉食べる?」
「ううん、あまり重たいものが受け付けそうにないんだよね。疲れてるのもあるからかも」
「……ごめんね。ボクがもっと……」
「だいじょぶ、コマさんずっと頑張ってくれたから! お腹いっぱい食べてね」
「ありがとう、てい」
一日たいしたものを食べてこなかったから、お腹がびっくりしないようにゆっくり野菜スープを食んでいく。
ほくほくのおじゃがさんに、しゃきしゃきキャベツ、彩りのニンジンさん、猪豚頭のベーコンが深いコクを……猪豚頭かぁ……。
脳裏に過る猪豚頭を追い出して、咀嚼して飲み込む。気にしたら食べられなくなりそう。
日本でもそう、お肉は好きだけど精肉前を思い出したらダメなやつ。
私たちが今日を生きるためにいただきます。
カンカンカン、と外から軽めだけど響き渡る鐘の音。
習慣で食堂の壁にかけられた時計を見ると(時計があることに驚いた)、ひとつしかない針が新たな時刻を差している。相変わらずそこに書かれた文字は読めないけれど、食堂内の雰囲気ががらりと変わったので、多分これが食堂から酒場への変わるタイミングなのだろう。
厨房で忙しそうに料理をしていたお爺さんも、お酒を片手にお客やリコリッタとお話をしているから、ここらがオーダーストップかな。
肉にナイフを突き刺して頬張っていたコマメも、三人前をちょうど食べ終わったところだ。いっぱい食べたね。でも、カラトリーや箸の使い方を学んでいこうね。
肉汁やら何やらで汚れた口回りを拭いてあげてから、私たちも席を立つ。
「おねーさん、お会計でやがります?」
「うん、ごちそうさま。美味しかったよ」
「人の作る料理も美味しい。てい、ありがとう」
「私よりリコリッタにね」
「そりゃ良かったですね。げんこつ肉三人前、ごった煮野菜一人前……三百八十Nですよ!」
それが安いのか高いのかわかんないけど、ギリギリ足りた。明日からお仕事頑張らないとね。
銀貨四枚で支払い、銅貨でお釣りをもらう。残り銅貨で四枚。このままだと朝ご飯も危ういな。
自然とコマメと手を繋いで部屋へと戻ると、同じようにお酒を飲まない人たちが戻るところだった。
部屋に戻り、しっかりと鍵をかけてベッドへと倒れ込む。
お腹も膨れ、一気に疲れが出たかもしれない。
「おいで、コマさーん」
「てい……、にゃー……」
ちょっと焼き肉臭いコマメを抱き締めて、思い返すのは長い長い一日だった。
学校帰りに事故に遭って、異世界に飛ばされてからもほぼ一日歩き通しだったからね。
愛する猫さんが美少女になって、魔物に襲われて、鳥さんに案内してもらって、魔物に襲われて。
魔物に襲われ過ぎじゃない?
ゴロゴロと甘えるコマメとこのまま寝てしまいたい衝動を押さえつけて、鞄から翡翠色のリングと革のベルトを取り出した。
「明日もまず換金からしないとお金がないからね」
「あの石をたくさん集めておいてよかったね、てい」
本当、コマメには頭が下がります。
リングを指輪のように左手の人差し指につける。
不思議な力が働くのか、ぴったりのサイズでこれなら何かの拍子に失くすことはないと思う。
つけた手を眺めていると、コマメがそっと手を重ね、添わせてくる。
「似合ってる」
「ありがとう、コマさん」
コマメの右手首には、猫さん時代の首輪が巻かれている。捨てずにとっておいてくれていることが嬉しかった。
そうなると、このベルトはどうしよう? やっぱり首輪かな。でも人の姿をしてるんだし、和装の腰回りでも違和感ないかな?
「てい」
「なぁに?」
「ベルト、ていの手でまたボクの首へ着けてほしい」
「いいの? せっかくすごい力を手に入れたんだよ?」
ジッと私を見つめる空色の瞳は、まっすぐ輝いている。
「どんなことがあったってボクは、キミだけの猫だから」
ふわりと笑うコマメはやっぱり美人さんだなーと思う。
すっぽりと頭が抜けるくらいで止めて、コマメの首へとかけた。
……なんだろう、猫さんのときは何とも思わなかったけど、今はすごくイケないことをしている気分だよ。
いつも読んでいただきありがとうございます
φ(..)
評価、ブクマ本当に嬉しい限りです。
のんびりと更新していきますので
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(*・ω・)
次回投稿3月24日10時予定