11話
ていとコマメのイメージができました。
イメージと合わない場合は見なかったことにしてくださいな
φ(..)
春休みなので少し前倒しで投稿。
そのまま直接宿へ来たのは失敗だったなー。
物価を調べることも大事だったのに、うまくいかないものだ。
銀貨でもらったのに、Nて。
「ていの居たいだけ居たらいいよ。何処か行く宛もあるわけではないのだし」
「私はコマさんが側にいてくれたら、どこでもいいなー」
「ふふ、嬉しい。ボクもていがいればそれでいい」
紛うことなき本音だもん。
「ふぁー、仲良しじゃねーですか」
「そんなわけだから、とりあえずこれで今夜お願いするよ」
「毎度ー、ダブル部屋で七百五十Nですよ。お釣りは……んっと、五十Nですよ」
カウンターに置かれた十二枚の銀貨から八枚持っていくと、今度は銅貨が五枚返ってきた。
銀貨の単位は百らしい。銅貨は十。なるほど、しっかり覚えておかなきゃ。
カウンターに残った四枚と、返ってきた銅貨五枚を受け取ったコマメが小袋に入れて渡してきた。
「お金、これでいいよね?」
「ありがとう、コマさん」
多分、入れ方の問題じゃなく使い方、価値を私が知るためにコマメが率先してくれたんだと思う。
繋ぐ手を引き寄せて密着すると、頬に鼻先を当ててきた。
「お部屋は二階の奥、これが鍵、失くすんじゃねーですよ。お食事は奥にある食堂で食らいやがれです」
百合の花柄が彫られた木製プレートについた鍵を受け取る。……百合? 何か含みがある気がするなー。ははは。
ロビーの隣に階段がある。宿泊客はこの上らしい。階段を通り過ぎれば食堂となっていて、ここでご飯をもらえるようだ。覗いてみたけどそこそこ宿泊客はいるようだが、もちろん食事は別料金。そんな甘くないね。
「他に質問はあるですか?」
「お風呂はどこにあるかな」
「オフロ?」
あれ、急にまた言葉が通じなくなったのかな?
「えと、汗を流したいんだけど」
「あー、内庭に井戸があるですけど、ついでだから着いてきやがれですよ」
羽ペンを置いて、台帳閉じると手招きするリコリッタにつれられ、階段の脇に設置された扉から外へと出る。
そこには確かに井戸があったが、食堂や部屋からも見える中庭のような作りになっていた。
小屋どころか衝立すらない。
まさか──
「ささ、おねーさんたちも脱ぐといいですよ! 背中流してやるです」
「待って!? ダメ脱がないで!」
羞恥を噯にも出さず服に手をかけるリコリッタを制して、服を整える。幼いとはいえ、ぽっこりとしたお腹とズロースのような下着が見えてはマズイ。
部屋や食堂から視線が突き刺さる。
「え、でも脱がなきゃ汗は流せねーですけど」
「キミもう年頃の女の子でしょ?! ダメだよ男の人がいるとこで裸になっちゃ!」
「いつもこーでやがりますけど」
「ダメ! それに水じゃいくら暖かい季節でも風邪引いちゃう」
「風邪なんて引かねーですよ、あははは!」
この子ってまだ思春期とかないのかな? 性に対して無防備過ぎるよ! ……あー、びっくりした。
「他のおねーさんたちもみんな同じですけどね」
どうやら庶民には
お風呂という文化は無さそうだ。
他の女性たちも同じようにするってことは、性に対して奔放なのかそういう物だと割りきってるのか。うう……恥ずかしくないのかな?
「あの、私たちは出来たらお湯を借りたいな」
「お湯ですかー? 仕方のねーおねーさんたちですね! お部屋に持っていってやるですよ」
「ありがとう」
やれやれ、みたいに肩を竦められたけどこればかりはね。
お湯を用意しに行ったリコリッタと別れ、内庭から戻った私たちは部屋へ向かうために階段を上がっていく。
「ていは小さい子が好きなの?」
「何、急に」
どうやらコマメとは一度、腹を割って話し合わなくてはならないようだ。
「あのくらいの年の子は気にしないものだと思う。ていは気にし過ぎ」
「えー、私があの年頃の時はすでに恥ずかしかったけどな」
「猫たちは生まれて半年もすれば妊娠出来るから、ね。恥ずかしがってちゃ子孫は遺せない」
猫さんと同じにされても……。今はコマメも人の姿をしてるから無闇に肌を晒しちゃダメって躾ないとなぁ。
大きく吊り目がちな空色の瞳。紅を差したような頬にぷっくり小さな唇から覗く八重歯。白と灰と茶色の斑の髪。肩を大きく露出させた和装の美少女。
「てい、どうしたの?」
こてんと首を傾けるコマメ。
うわ、襲いたくなるね、こりゃ。……強いから滅多に襲われないだろうけども。
「コマさん、えろい」
「えろい?」
「エッチだよ、艶っぽい。私より年下なのに私の方がちんちくりんに見えちゃう」
「ていは可愛いよ」
部屋に着くと同時にベッドへと押し倒された。
一緒に横になったコマメが、ぎゅう、と抱き締めてくれたから、私も抱き締めてあげる。
「ボク、ていの役に立ててるかな?」
「コマさんのおかげだよ」
いつだって新しい場所の初めは緊張するものだ。不安や期待、複雑な心に震える身体をコマメがぎゅっと暖かく抱き締めてくれた。どんなに私が弱音を吐いても、彼女は優しく受け止めてくれる。
「どんなときだってボクはていの側にいる。ていを護ってみせる」
「……うん」
お日様の匂いがするコマメの髪に顔を埋めて、彼女の優しさに甘える。本当は、ただ甘えるだけじゃダメなんだろうな。でも、今はこのままでいたい。
「お待ちどー様なのですよ!」
「うひゃっ!?」
ばたん、と大きな音を立てて部屋に入ってきたリコリッタの両手には、大きなたらいに並々とお湯が張られ湯気が立ち上っていた。
「静かに開けろ」
「両手が塞がってたから許せですね。声をかけてやったけど反応がなかったので仕方ねーです」
ベッドで呆けたままの私と違って、腰掛けた状態で来訪者に対応するコマメの方がやはり大人っぽい。
ベッドの脇にあるランタンや、簡易なチェスト、上着をかけられるように設置されたコートフック。よく見ればベッドの数はひとつだった。
あれ、ダブルってダブルじゃなくてダブルだったの? こういうの泊まったことないからわからなかった。
いや、よく考えたら解るのかもしれないけど、もう頭が働いてないらしい。コマメは一緒に寝ても気にしないのかな?
「お湯、ここ置いとくですよ。はい」
「ああ、ありがとう。てい、身体を拭こう」
「うん、今起きるね」
なんだかんだで、完全な休息に入ってしまった身体は重く動くのも億劫になっていたが、やはり汗をそのままというのも気分がよくない。あとでコマメを抱っこして思いっきり寝てやろうと心に決める。
手を差し出したまま、出ていかないリコリッタと見つめ合うこと数瞬。溜め息混じりでひとこと。
「おねーさん、お湯一杯銅貨三枚でやがるですよ」
世知辛い異世界ですよ……。
電気や機械文明が発達したサービス精神旺盛な日本社会とは違い、燃料費やら様々にお金がかかるためこの世界はよりシビアなのかもしれない。
鞄から再びこの世界のお金が入った小袋から、お釣りでもらった銅貨を三枚渡せば、リコリッタはにっこりとそれをポケットへとしまう。
「食堂は酉の正刻から戌の正刻の鐘が鳴るまでオーダー受付してやがるから、それまでに済ませないと食いっぱぐれるですよ。それ以降はほぼ酒場で喧しくなるですから」
二十四時間制ではないのは覚悟してたけど、それも数字じゃなくて十二時辰なの?
まだ馴染みがあってよかったと思うべきなのか……。
戌の刻って十九時~二十一時だから、それの正刻って二十時? こ、これも慣れていかないと。
「うわ、教えてくれてありがとう。身体を拭いたら行くよ」
「桶はそのままにしておけば、明日勝手に回収するです」
「うん、わかったよ」
「じゃ、ごゆっくりしやがれー」
寝てしまっているお爺さんの代わりに働いてるリコリッタ。口調は悪いけどかわいい子だ。
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次回投稿3月22日19時予定