1話
新連載です(>_<)
あっち書けって?
思い付いたから書かずにはいられなかったんです。
「ほーら、コマさんおいでー」
「にー♪」
手に持ったエノコログサ─ねこじゃらしって言った方が馴染みがあるかな─を私の可愛い飼い猫のコマメの眼前でフリフリ、一心不乱に追いかけていた。
「あっちだよー、あれれ? はずれー。はい、こっちーざんねーん」
「にゃっ、うにゃん! にゃにゃーっ!」
「あはは、がんばれがんばれ!」
コマメを家族に迎えて、もう十年。片手に乗るほど小さかった仔猫は大きく成長した。それでも小柄な子なのか、他所様の猫ちゃんに比べてひと回りも小さかった。
私とコマメの出逢いは、この子を路肩の植木の根本で親猫に放置されたのか、心無い飼い主に捨てられたのかわからないけど、酷く衰弱していて、命の灯が消えかけてまだ生きたいと必死にか細い声を上げていたのをたまたま通りかかった私が保護したのがきっかけ。
強い雨が降る中、母に手を引かれる私の耳にその声が届いたのは運命だと思った。幼い私はママを説得し、パパを説き伏せ、私が全てお世話することで何とか勝ち取った。
それからは私の大事な大事な家族になった。
雨に打たれていたせいか、雨を極端に嫌い、雨が降る日は窓にも近寄らないくらい。そのくせ水で遊ぶのは好きな変わった子。パパやママがお風呂に入れようとすると手の届かない高いところへ逃げてしまうが、私が誘うと腕の中に入ってきてくれる。両親のヤキモチに私は優越感を得ていた。
「うにゃにゃにゃっ」
「すごいすごーい!」
かなり素早く動かしているけど、それを越える速度でねこじゃらしを叩いていくコマメ。おもちゃでもいいんだけど興奮すると噛みついちゃうし、一度、小さなおもちゃを飲み込んで大変な思いをしたことがあるから、もし何かあっても平気なものを扱うようになった。
ある程度遊んで満足すると、ばしっと両手で捕まえねこじゃらしを食んでしまう。これが私たちの遊びの終わりの合図。
穂先を食べ終わるとクールな表情で私に寄り添い、鼻先をちょんと当てて膝の上で丸くなる。
「くっはぁ……かわええ」
所謂鼻チューというやつ。猫の飼育方を調べている内に知り、ことあるごとにしていたら習慣化してくれた飼い主殺しの必殺技。
ふと、悪戯心で欠伸をしたコマメの口に指を差し込んで私の指を咥えさせたら、コマメから呆れた視線を投げつけられた。最初の頃は驚いてたのに今じゃこんなにクールになっちゃって。うちの猫さんはさいきょー可愛い!
くねくねと身悶えしてたら腿を爪できゅっとされた。寝難いらしい。ごめん。
指に重ねたコマメの肉球を揉みながら穏やかなひと時を過ごしていく。
学校がある平日は毎朝今生の別れのごとく、登校の時間ギリギリまで一緒にいてはママに追い出されるようにして家を出る。そんな私たちの日常。
ボストンバッグ型のスクールバッグを肩に下げて歩く街。
猫用グッズを見て気になったものは迷わず購入し、コマメと一緒に遊ぶ。どんな物でも一度は遊んでくれるので飼い主想いな猫さんだ。お気に召さないのは一度きりってことでもあるけどね……。
どんな猫さんもまっしぐらなおやつ《ちゅるり》も補充したし、煮干しも追加。
あとは、愛しのコマメのもとへ帰るだけ。
「にー」
「あれ? コマさん? お家から出したことないのにどうしてここまで? お迎えに来てくれたの?」
「にゃふー!」
足元に擦り寄るコマメを抱えて目線まで持ち上げると、ちょんと鼻先を当ててくれる。
いろいろと疑問はあったけど、出たことのない家から出て私のことをお迎えに来てくれたことに浮かれ、不可解なことは頭の片隅に追いやってしまった。
猫用品でパンパン─勉強道具? 何それ?─のスクールバッグを背負って、上機嫌に交差点へ差し掛かる。
そこが私の、私たちの運命の分岐点。
暴走する車が、減速した様子もなくむしろ加速して迫るのが視界に入ったとき、もうすでに避けられるような距離じゃなかった。
歩道に乗り上げ、突っ込む先にいる私たち。
「せめてコマさんだけでも……!」
鈍くさい私じゃともかく、コマメは猫だ。多少乱暴に投げても怪我なく着地してくれるはずだ。
ごめんね、コマメ。せめてキミだけでも。
放り投げようとした私の袖に爪をかけて、反転したコマメが私の前に躍り出る。
「ダメ、コマさん……っ!?」
「にゃぁぁぁああああっ!」
私の身代わりになってしまうと、咄嗟に伸ばした手は、何とかコマメの尻尾に届く。
だが、高らかに上げた鳴き声は遠くに響き、私とコマメを不思議な光が包む。強烈な光に眩み、私とコマメは鳴き声とともに薄れて消えた。
ご覧いただきありがとうございます。
これからよろしくお願いします。
頻度は落ちますがちゃんとあちらも書いていますので
どうかご容赦ください( ;´・ω・`)
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次回21日19時予定