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9秒 騎士団へ

明日夜更新します

お待たせして申し訳ありません。

        ◇    ◇    ◇




 ここがバルム地区か、トルム地区と比べてどうなっているんだろうか?


「なんか、地面が固い……?」


 バラバラの大きさを持った石がスキマ無く敷き詰められているな。

 トルムの地面は土が主流だったけど、石のが多分、雨が降っても形が崩れにくいという事なんだろう。


(他はどうなっているんだ?)


「こら、キョロキョロしない、夜は灯りが沢山がついて安心して出歩く貴族が増えたんだから」


「それがどうしたんだよ」


「みっともないって言ってんのよっ」


「あいてててて! わかったよ!!」


 耳が千切れるかと思った……。


 もう少し色んな建物を見てみたかったが、イリナが怒るからやめておこう。

 とにかく、石をふんだんに使っているのがこの地区の特徴なんだな。


「ここよ」


 大人しくイリナの後を着いていくと、2階建ての大きな家でイリナは足を止めた。

 赤いのが目につく、髪の色と合わせているんだろうか?


(うーん、やはり副団長というのは儲かるんだな)


 外見は他の家と違い、壁には塗装した肌色が塗られていた。

 屋根のところに小さな塔かな、2階から外へ張り出した木の板、手すりもついているな。


 これが妙に気になったのでイリナに尋ねてみると、あれはバルコニーというものらしい。

 この分だと中もめちゃくちゃ広そうだ。


「家にある物は適当に使っていいから」


「お、おう」


 内装はオシャレという言葉がよく似合うほどに、木で作られていた無数の家具が目に付く。

 俺は見た事もない物達に徐々に心拍数を上げていった。


 あの家具は一体どういう用途で使うのか?

 これはどういう方法で使用するのか?


 いろいろと気になってしまい辺りを見渡す。



「なあイリナ、あれなに?」



 その家具は正方形の石に囲まれており、中には朽ちた木が数本入っている。



「ダンロよ」


「ダンロ……?」


「そう、冬場しか使わないインテリアみたいなもんね」


「インテ……?」


「はあっ」


 イリナは失望するような顔で大きくため息を吐いた。

 ちなみにダンロとは字で書くと『暖炉』と言うモノらしい。


(あの窓に備え付けられた布とかに何か特別な意味があるんだろうか? この家は興味が尽きないな)



「わたし、上で着替えてくるね」


「おう」


 そう言って、イリナは階段を登っていく。

 ポツンと1人、大部屋に取り残されたので色々調べようと辺りの家具を手当たり次第に触る。


 すると隙間なく本が詰められている1つの本棚が気になった。



「バカでもわかるこの世界の歴史と地形……」


 バカではないと思うが読んでみよう。


「東西南北、4つにわかれた大陸の中央にあるシュテッヒ国、ここが世界の中心の位置にあたる。そのシュテッヒから西の方へ行くと【ウェルム】という国であり、そこは主に機械と魔法が発達しているそうだ、ところが現在では『魔法結界』というのによって外からの人間は容易には入る事が出来ない」


 マホーケッカイ……聞いた事ない言葉だな、何かしら単語の説明も書いてないかな、えーっと魔法結界、魔法結界……あったあった、どうやら『機械』と『魔法術式』というのを(もち)いてカソークーカンを生み出すらしい」


 マホージュツシキ、カソークーカン、キカイ。

 段々と頭が痛くなってきた。


(……魔方陣を描く技法が術式、仮の空間を作り出すのが仮想空間、動力を受けて目的に応じた一定の運動する物が機械か)


 まあ単語も説明してくれるページがあるなんて、本当にバカでもよくわかる本だな。

 次はそうだな、獣族と妖人だから……エストについて読んでみるか。


「えーっとなになに、東は【エスト】という国で主に妖人達が住み着いていると書かれている、後はトウホーの独特な技術があり、サムライが古くから存在している……」


 ――。

 ――――。


 どのぐらい経っただろうか?


 時間を忘れて夢中になるほど本というものは面白い。

 一度もこういうの読んだ事がなかったから新鮮だ。


 俺は読み終わった本を本棚へ戻し、テーブルの近くに置かれていた椅子に座った。

 そのまま大人しくイリナが来るのを待っていると、階段を下りる足音が聞こえ……。


「お待たせ」


 なぜか寝間着姿のイリナが下りてきた。


「な、なんか色っぽい服だな」


「えへへ、ネリスが好むかなって」


「うーん……」


「あ、何その不満そうな顔」


「いや……えーっと」


「なによお」


 テーブルを挟み、対面に立っていたイリナは不服そうな顔をすると、俺に見せつけるように胸を寄せ、思い切り前のめりになった。

 弾むような胸、俺が悩んでいたのはイリナってこんなに色っぽかったっけ、という違和感があったからだ。



(どうにも目のやり場がない……)


「ねえ、なんで不満そうな顔したのよ」


「別に」


「あ、ムカついた」


 ジトッとした目になったイリナは何か悪巧みを含むような顔でこちらへ近寄ってきた。


「な、なに!? お、おいちょっと待て、がっ……!!」


 俺の後ろへ回り込み、頭に激痛が走る。

 頭を抑え込むように大きく広げた両手が視界に映ったので、恐らくイリナは指を立てながらグリグリと俺のこめかみを攻撃しているんだろう。


「あーっ!! 痛い痛い!!」


「アンタが喜ぶかと思って着たんだから、喜びなさい……よっ!!」


「ばっ……喜べるかよこの状況で!!」


 俺は全身を使ってイリナの両手を払う。


(頭がヘコむかと思った……)


 でも昔からこういう行動するのは変わってないな、コイツ。



「悪かったよ、次からは思い切り喜ぶ」


「うん、それでいいのよ」


 イリナは満足そうな顔だった。


(……感想を伝えるって意外と難しいんだよな)


 俺は適当な場所を見ながらポリポリと頭をかくと、イリナは真剣な表情へ変わり、立ったまま問い詰めてくる。


「ネリスさ、なんで私に対して無理してたの?」


「え? 無理?」


「あんな生活送ってたなんて知らなかった、いっつも普通に接してたから……」



(ああ、だから積極的に絡んできたのかよ)



 ほんと説明が1つ足りないんだよな、えーっと、あんな生活というのは俺のスラム街での生活の事だろう。

 イリナはこの短時間で色んな感情表現を見せつけてくる、さっきまで照れていたのに、急にションボリと落ち込んではクルリと背中を向けて小さい声でボソリと呟いた。


「ねえネリス……人を殺したくないのに無理に頼んで、ごめんね」


「イリナ……」


「ううん、そもそもネリスを巻き込む事が間違っていた、これは私の復讐だもん、私がきちんと決着をつけないとね」


「待てよ、俺はその……」


「おやすみ」


 止めようと思い、俺は慌てて椅子から立ち上がる。


「イリナ!!」


 静止する言葉を無視してイリナは急いで階段を上っていくと、バタンと扉が強く閉まる音が聞こえた。


「……」


 へたり込むように身体をテーブルに寄りかからせ、ぼんやりとどこかを見ていた。


 どうやって止めればいいんだろう。

 手段も方法も、出来る事は全部試したはずだ、これ以上俺に何が出来るっていうんだ?


(イリナは獣族を皆殺しする事によって、世界に脅威を与える存在、神になる条件を満たそうとしている)


 どうしても止めたい、人を殺す前提で神になるなんて間違っている。

 目を閉じて自分が出来る事を真剣に考えていると、ぶつ切りしたように意識が落ちていった。



 ――。

 ――――。



「ん……」


 目を開けると見慣れない天井に多少困惑し、俺は二度見をした。


(そうだ、昨夜はイリナの家に泊まっていたんだ)


 気がついたらもう朝か。

 俺は身体を起こして「ふああ」っと少し伸びをしてから階段を上り、扉をノックした。


「イリナ、昨日の事なんだけどさ……」


 やっぱり説得しかないだろう。

 言葉をかけ続け、納得してもらう他ない。


「……? 入るぞ」


 返事がなく、扉を開けて中へ入ったがそこにイリナの姿はいない。

 その代わり1枚の長文で書かれた紙がベッドに置かれていた。


 パッと手に取ってみると、そこには『騎士団員募集』と大きな見出しが記されている。


(これ、イリナが置いてくれたのかな?)


 その見出しの下を見ると、試験の場所と内容がことこまかに記されており、これはタルトを救いたいという経緯を知ったイリナがわざわざ募集の紙を持ってきてくれたのだと俺は思った。


 そう、もし騎士団から採用してもらえれば力をつける事だって出来るだろうし、それなりにお金も手に入る。

 イリナがタルトの事を支えると言った時、確かに俺は自分の事が不甲斐ないと感じていたんだ。


 だからこそイリナは自分自身で強くなれという事なのだろう、これならタルトとタルトのお母さんを裕福にする事も不可能ではないはず。

 そう思った俺は決意を固め、紙とテーブルに置かれていた果物1つ手に持って外へと出た。


(騎士団か……)



 強くなるために頑張ろう――。

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