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7秒 どうすればいい

今日の夜8話書きます

いつも遅れてすいません

 だいぶ時間が稼げただろう、イリナも少し頭を冷やして冷静になってくれたはずだ。

 いよいよ頼み事を受けるか受けないか決めなければいけない。


 俺はどうしても獣族側の意見が気になっていた。


(もちろんイリナの事は友達として見ているけど……双方の意見がハッキリしないうちは断った方が良いのかもしれない)


 理由として一番熟考したのは下手したらイリナと俺が人間と獣族、そして妖人との争いのきっかけを作ってしまうかもしれないという事だ。

 それと、いくら幼馴染みとはいえ理由もなく敵討ちに人間が参加するのはどうかと思う。

 俺はイリナを待たしてしまった事を軽く謝ってから、明確に答えを伝えた。


「色々考えたけど協力は無理だよ、獣族を恨む気持ちはわかるけど……復讐なんてやめろよ!!」


「……ネリスに何がわかるの?」


 イリナの眉がどんどんつり上がっていく。

 彼女の怒りが一段階上がったような気がした。

 怖い、しかし、それでも引き下がりたくはない。

 友達として言うべきところはしっかり言った方が良いに決まっている。



「いや、わかんねえよ。でも復讐なんてしたらまたやり返されるだけだろ!」



 グイッと俺の身体はイリナの方へ寄った。

 正確には胸ぐらを掴まれてしまい、そのまま壁へと叩きつけられる。

 痛みを感じるよりも先に、今にも泣き出してしまいそうなイリナの表情が視界に入った。



「ネリスには恨みってのはないの!? 一方的に殺される者の気持ちがわからないの!? 必ず……必ず殺意が溢れてくるはずよ!!」


「イリナ……」


「全ての存在から憎まれても構わない! 私は必ず神を目指し、目的を果たす!!」


 自分に言い聞かせるようにイリナは俺に訴えてくる。

 それを見て、俺はただただ目線を逸らすことしか出来ない。

 誰かに復讐をする、そんな気持ちを抱いた時なんて一度も無かったからだ。


 ゆえにイリナの真っ直ぐな気持ちに、どう答えていいのかがわからない。

 わからない事である以上、力になってやれないのだ。

 俺は何も答えずに、じっとするしかなかった。


 すると、イリナはゆっくりと手を離し、呟くように言う。



「……小さい頃、ネリスには大分救われた。勇気を与えてくれたの」



「俺が?」



 この時、俺はイリナが子供の頃に戻ってくれたような気がした。



「うん、俺達、何があっても友達だろって言ったの覚えてる?」



 覚えているとも、何年前だったかはわからないが、どこか虚ろげに座り込んでいたイリナを励ました時に俺が言ったんだよな。



「ああ忘れない、トルム地区の噴水近くで言ったんだよな」


「……あの時のネリス、とてもかっこいいってずっと思ってたんだ。私もあんなかっこいい人になりたい、そう思いながら日々強くなろうとした」



 そうか、だからイリナは次の日急に騎士団員になるなんて言い出したのか。

 俺が決意を与えるきっかけを作った、それが今、イリナの復讐心を燃やしてしまったのかわからないけど、コイツは1回まっすぐ走り出したら止まらないのはよく知っている。



「結局、私が見ていたのは理想のネリスだったんだね。何でもカッコよく解決してくれるヒーローだって、私の中で勝手に作り上げてただけみたい」



 ……イリナが俺に救われていたように、俺もイリナにいつだって救われていた。

 その事実に嘘は無いんだけど、かと言って俺は復讐には参加できない。




「助けてもらっていたのは感謝しているよ……でも、無理だ」




「どうして?」




「……人を殺すとか、殺されるとか。俺はそういうのが嫌いなんだ」




 どうすれば彼女が納得出来る言葉をかけれるのだろうか、俺は必死に言葉を探して悩んでいた。

 上手く言えないのがもどかしい、またもや静寂が訪れてしまった。



 イリナは黙ったまま、悲しそうに下を向く。

 そんな悔しがる彼女を見て、獣族と妖人の関係を何とかしてやりたいと俺は考えていた。


 もちろん、復讐以外の方向でだ。



 答えを求めるように空を見上げると、雲は風に流されてゆっくりと動いていく。



 どうすればいいのか、綺麗な青空は何も答えてくれない――。




        ◇    ◇    ◇




 俺とイリナが店に戻ると、タルトは椅子に背中を預け「もうお腹いっぱい」なんて言いたげに満足そうな表情をこちらへと向けていた。

 こちらに気付き、笑顔で手を振るその姿はとても愛くるしく、どこか周りに纏わり付いていた重たい空気が少しだけ軽くなった気がした。



(助かったよタルト)



 心の中でタルトに感謝をしてテーブルに座ると、イリナは落ち込んでいる素振りを見せないよう俺の隣に座り、作り笑顔をしているように感じた。



「あ、タルトちゃん、さっき言ってたお金ね!」


 そう言ってイリナは大きい袋を取り出し、ドンッとテーブルの中央に置く。


「わあ! 本当にいいの!?」


「うんうん! 全然いいのよ、この男なんかに任せていたら、いつまで経っても貯まらないしね」


(ひとこと余計だよ!!)



 袋を開けて1枚1枚取り出したイリナは指を差しながら数え始める。

 少しながら頭の中で数えてみたらざっと10枚はあった。

 これだけあれば、タルトとタルトのお母さんも生活には困らないはずだろう。


「良かったね」


 そう笑顔で伝えると、なぜかタルトは下を向いて一言呟く。


「これでようやく、お母さんにとっての荷物が1つ減った」


「え、荷物?」


 意味がわからなかった。


 気になった俺は理由を尋ねると、どうやらタルトはお母さんの為にお金を稼ぎたかったそうだ。

 でも、12歳の幼い自分では「仕事をしたい、働くお母さんの力になってあげたい」と商人に伝えてもまともに取り合ってもらえず、どこへ行っても門前払いを食らうばかりであったとのこと。


 そこで、犯罪だとわかっていても窃盗を行い、お金を稼いでお母さんを幸せしたかったのだという。

 これが最終的にタルトにとって、最善の選択だったのかと言われると難しい。



「タルトちゃん、それは違うわ」



 反応に困ってしまった俺とは対照的にキッパリと否定したイリナ。

 見ると、彼女はいつも以上に真剣な表情をしていた。

 当のタルトは疑問符を頭に浮かべたように首を傾げ、どう違うのかを尋ねるとイリナはこう答える。



「それは私から伝えられる事じゃない。でも、間違っている考え方なのはわかってほしいな。お母さんは間違いなく、タルトちゃんの事を負担とは思っていない」


「な、なんで……?」


 タルトと同じで、俺もイリナの言ってる事がよくわからない。




「きちんとお母さんに話してみよ? きっとわかると思うよ」


 そのイリナの優しい言葉にタルトは「わかった」と一言礼を述べると、コクリと頷く。


「あ、お金、ありがとう!」


 席を立ち、イリナの両手を握りお礼を言うタルト。

 俺はそれを見て考えを固める。


 こんなにも優しいイリナに、復讐なんて事をやっぱりやらせちゃ駄目だと。


「あ……うん。私にとっては、はした金だし。気にしないで!」


 イリナが元気良くそう言うと、タルトはテーブルに散らばったお金を袋に詰めていく。

 そんな2人の姿を見て、俺はイリナがどれくらい報酬をもらっているのか考えてみた。


(騎士団の副団長だもんなあ……)


 軽く考えても、報酬は金40枚ぐらいはもらっていそうだ。

 それだけあれば好きな服も買えるし、世界のどこへ行っても食うに困る事はないんじゃないだろうか?


 俺も裕福になればこの小さな人生が無限に広がったりするかもしれない。

 そんな事を考えながら途中だった食事を再開することにし、口の中へとパクパク入れていく。


(幸せ、かあ……)


 そういうのが味わえる時って、いつなんだろうな。



 ――。

 ――――。


「ネリス、後でうちに来なさいよ」


 食事が終わり全員で酒場を出ると、急にイリナが家に来るよう誘ってきた。

 思わずドキッとした俺は「えっ」と一驚する。


「お、おい……イリナって大胆なんだな」


「は、はあ!? いや違うわよ!! どうせアンタまたゴミの山で寝るんでしょ?」


「まあな、っていうかなんで知ってるんだ?」


 イリナは指で、トントンと頭を叩く。


「……そっか、便利だな。その超能力」


 身体に触れれば経験さえもわかると言っていた、それなら、俺が普段どう暮らしているのかも知ったんだろう。

 心配してくれるのは嬉しいが、あんまり頼るのも良くない気がする。



 いっそ、ここは断ってしまおうか?



(でも、待てよ?)



 その瞬間、俺はイリナが復讐の旅に出るのを防ぐ方法を1つだけ思いついた。

 それは俺がこの国でイリナに頼りまくること、そうすれば一緒にいる時間が増えて、思い直す時間も十分に与えられるはずだ。


(……よし!)


 心の中で確信を得た俺は賛成の返事をする。


「じゃあ悪いけど、泊めてもらうわ」


「うん、タルトちゃんをきちんと家まで送ったらバルム地区の門まで来てね」


 イリナが言っている門というのは貴族達の住む【バルム地区】と、俺達平民が住む【トルム地区】を繋ぐ扉の事だろう。

 あそこは団員でない限り簡単には入れないと昔から言われている。


 既に辺りは街灯だけがうっすらと照らす真っ暗な夜となっていた。

 バルム地区の事情は知らないが、ここは昼と夜で雰囲気がガラリと変わってしまうから危険だ。


 もし盗賊とかに誘拐されてしまえば、身ぐるみを剥がされた後に次の朝には死体となって見つかる。



 俺はタルトの手を握った。




「じゃあ、行こうか」



 家へ向かうその道中、俺はどうしてこうもタルトから好かれているのか。



(聞いていいのか悩む)


「どうしたの?」


 タルトがこちらを向いた。


「いや……」


 うーんやっぱり、止めておこう。

 仮に聞いたところで『好きだから』という答えが返ってきたら俺はどう返事を返していいのかわからない。


 タルトに恩返しがしたい。

 それだけでいいじゃないか。


「ふん、ふふん、ふーん」


 帰り道の途中、鼻歌を歌うタルトの姿は「守ってやりたい」と思うほど可愛らしかった。

 そんな姿を見て言うべきか悩んでいた事が1つあった。


 ……それはタルトが盗みを働いていた事をしっかり叱るべきなんだろうかという事だ。


(いや……それはタルトのお母さんがキッチリ言う事じゃないか?)


「お兄ちゃん?」


 悩んでいた様子が気になったのか、タルトが尋ねてきたので俺は目線を逸らす。


「いや、別に」


 ここは俺の出番じゃない。




(もっとこう、口だけじゃない人間になりたい)




 人を救うというのは思った以上に難しい。

 そう痛感した夜だったな……。

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