6秒 各種族との関係性
船とランドソルのイベントが忙しいのでしょしょおまちください
「ちょっといい? ネリス」
なぜか俺の近くまで顔を寄せてきたイリナは小声で耳打ちをしてくる。
「どうした?」
「ちょっと2人きりで話したい事があるの、外で話しましょう」
「ん? お、おう」
ここで話せばいいのに。
「タルトちゃん、私達2人で過ごした思い出の場所に行ってくるね。すぐ戻るから!」
そんな場所がどこにあるのか、俺としては全く身に覚えの無いことだがなぜかイリナは『2人で過ごした』をやたら強調させたような気がした。
うーん、何の話なんだろうか、言われた通り俺はイリナのあとに続き、誰もいない裏の方へと入り立ち止まる。
すると、深刻そうな表情へと変わったイリナはなにやら言葉を探し始め、少しその場を歩き回ってはゆっくりと口を開いた。
「まさかアンタが時の超越者だったなんてね」
「……え?」
どうして知ってるんだ。まさか、神様の正体はイリナか?
「さっき私の能力で理解したのよ、ネリスのことを」
「は? って事はお前……」
「そう、私は知覚の超越者。能力は触れるだけでその人の経験、知識、認識、心臓や体温の体性を知る事が出来るの」
まさか、イリナが超越者だったなんて。
でも、急に言われてもいくつか気になる点が出てきてしまう。
そもそも、超越者は8つの種族ごとに1人ずつ任命されるものではないのか?
話の流れからして、てっきりそうだと思っていたんだけど……。
「イリナ、悪い。きちんと1から説明してくれ」
「良いけど、少し離れてて」
「ん? お、おう」
俺はイリナから、ほんの少し距離を取る。
これから何が始まるのだろうか?
そう思って眺めていると、イリナは拳を握って気合いの入れた声を発した。
すると見た目が少しずつ変貌していき、赤だった髪は白い髪に、瞳は氷のように冷たい青色へ
そして肌は血が通っていないような紫色へと変わり、手を見ると指は3本になっていた。
その姿はけっこう前にイリナから聞かされた『妖人』という種族にとてもよく似ている。
人間に化ける事が出来て、人間より強い力を持っている8つの種族の1つだ。
「……これが私の真の姿、もっと驚くと思ったけど?」
声はイリナのままだ、俺は特に代わり映えの無い態度で答える。
「今更驚かないよ。神様とか時間停止とか、さっきからぶっ通しで超常現象を見続けてきたんだから」
「ねえネリス、あの神様、いったい何者なのかしら?」
「さあな……」
世界を作り直した神様とかいう人と話していたなんて今でも信じられない。
そういえば、さっきイリナは知覚の超越者とか言っていたな。
「じゃあ、イリナが妖人の超越者って事?」
「ええそうよ、それと超能力は各種族に1人ずつ与えられるみたいね」
あの神様説明不足だろ、そんな話聞いてないぞ。
一応無いとは思うけどイリナが神様なのか聞いてみるか。
(キミが好きそうな格好で来てみたんだけどって言っていたのはつまり……)
裏返せば俺の事をよく知っているって事だ。
「その能力は思考が読めたりするのか?」
先程イリナは触れれば経験や認識がわかると言っていた。
だとしたら俺が『時の超越者』とわかったのは肘で突いてきた辺りから理解したのだろう。
「残念ながら、私が読めるのはその人の言葉が嘘か本当かだけ。それとさっきも言ったけど、対象者の身体に触れた状態で能力の発動をしないといけないの」
「なるほど」
なら、イリナは神様では無さそうだ。
そう俺が考えていると他の者に見られ説明を求められるのが面倒だったのかイリナは人間の姿へと戻る。
この国は人間が中心で、ドワーフと獣族しか住んでいない国だからな。
妖人がいるとなると、それはもう捕まってしまうどころの騒ぎではなくなるのだろう。
それが騎士団の副団長となれば尚更だ。
「ネリスにどうしても頼みたい事があるの」
イリナは神様の時と同じように、いきなりぶっ飛んだ事を言い始めた。
「ん、なんだよ?」
「……その力を使って私と一緒に獣族をみんな殺してほしい、ネリスの能力と私の能力を合わせれば出来るはず」
俺は唖然とした顔でイリナを見る。
「正気かよ……な、何だって、そんなことしなきゃいけないんだ……?」
「私の村はエストっていう東国にあるんだけどね。獣族によって支配された挙句、彼らの植民地とされたの」
「えっ? じゃあ、もともとイリナはエスト出身なのか?」
「うん、ネリスは獣族についてどこまで知ってる?」
獣族か、俺達とは違う人間ってだけの認識しかない。
とりあえずイリナから聞かされた知識を披露してみる。
「えっと、彼らは故郷が無くって……色んな国に住み着いているんだっけ?」
「うん……ある日獣族によって全てを焼き払われ、奪われ、全ての者が死に絶えてしまった」
「それで人間の国であるシュテッヒにきたのか?」
「……」
しまった。
「悪い、聞きすぎた……」
たった1人残されてしまったというわけか。
辛かっただろうな、彼女がこれまでの人生で味わったであろう苦労を考えると、なんだかこっちまで落ち込んできた。
しばらく沈黙したままでいるとイリナは俺の目を覗き込むように切ない顔で俺に近づいてくる。
俺はどうしたらいいんだろう。
「だから、人間の超越者であるネリスに協力してほしいの。貴方も聞いたでしょ? 私は神になりたい、何でも出来る……強い力が欲しいの!!」
イリナはドンッと壁を強く叩く。
唇を噛みしめながら悔しがっているその表情は激しく、そして強い憎しみで満ち溢れているように見えた。
それほどまでに彼女は獣族を許せないのだろう。
俺はイリナをなだめる為に必死に言葉を探していた。
「あのさ、ほら、神様が言っていただろ?」
『キミが動けば世界が動く、そういう存在になれたらもう一度キミの前に現れ、神になれる権利を与えよう』
あっ……そうか。
イリナが力を振るって獣族に脅威を与える。
それは他の種族も黙ってはいられない。
恐らくイリナを全員が敵視するか、警戒するはずだ。
そうなるとイリナは世界を動かせるほどの大きな存在となる。
神になる目的はなんだろう、妖人を復活させる世界を作りたいのか?
「……イリナ、お前まさか、獣族以外も必要なら殺すつもりなのか?」
「……」
イリナは何も答えてくれず、真っ直ぐな目で見つめる。
それは、全ての覚悟と責任を背負うほどの決意をした目だった。
「で、どうなの? ネリスは協力してくれるの?」
覚悟を決めた人間に説得が出来るんだろうか、問い詰めるイリナの迫力に思わず俺はたじろいでしまう。
彼女が発する言葉の1つ1つが、激しい感情で満ち溢れているのだ。
これ以上、何を言ってもイリナを腹立たせてしまうだけだろう。
なんかこう、時間を使って落ち着かせる方法でも取るか。
ああ、そうだ、一度各種族の関係についておさらいしたいと言って待たせた方がいいかも。
「なあ、少し考えてもいいか?」
「今すぐに答えてよ」
「イリナが他種族の超越者なのと俺が人間の超越者って事を考えると……すぐには決められないよ」
少し渋った顔をしてイリナは「いいわよ」と一言いうと腕を組んで壁に背をつけた。
えっと、人間の俺から見た各種族の抱くイメージと特徴はこうかな。
【人間】→これと言って主な特徴はない。各種族の関係は、一部を除いてどの種族とも『中立』を維持しているはずだ。それとシュテッヒ国が獣族とドワーフを受け入れた事もあってか、彼らとの関係は『良好』にある。
【妖人】→現在はイリナしか存在していない、領土まで奪っているのが事実なら獣族との関係は『敵対』で間違いない。
(後はドワーフ、エルフ、獣族じゅうぞく……)
【ドワーフ】→手先が器用で首が隠れるほどのヒゲが特徴だ。そして、貴族達の集まるバルム地区で家を建てているとイリナから聞いている。あとはエルフと仲が悪いんだっけな。そうそう、若い人はヒゲを好まず剃ってしまうので、人間とあまり区別がつかない人もいたりするそうだ。
【エルフ】→頭が良くて耳が長い。そして、プライドの高い種族であるとこちらもイリナから聞かされている。他種族をバカにしたりするから、ドワーフと獣族はあまり好きじゃないらしい。
【獣族】→遠くの音まで的確に聞きわける耳と、重たい物も軽く持ち上げる強い腕っぷしを持っている。そして、様々な要素において尻尾を使う種族だ。あとは、全身が毛むくじゃらなのも特徴かな? 性格は嘘をつかない正直な人がとても多い。
(最後に、天族と魔族で終わりだな)
【天族】→そもそも、天族については姿を見た人がまずいないらしい。本当に彼らは存在するのだろうか? 神様が8つの種族をあげる時に天族の名前が出たという事は一応いるんだろうけど……それでも、人間との関係は『不明』だな。あとは、魔族だけ『敵対』していると噂話がある。
【魔族】→頭に角が2本生えており、他種族と出会ってしまえば突然襲いかかったりと凶暴な攻撃性に加えて、独占欲が強い種族だ。外の魔物が溢れているのは彼らのせいであり、他種族との関係性は全て『敵対』でおかしくないはず。
(忘れてた、竜族も入れてこれで8つだ)
【竜族】→太古の昔から人間と共に歩んだと言われているが、今は疎遠となっているらしい。こちらも天族と同じで、どこに住んでいるのかもわからない。一応、人間とは『良好』でいいんだろうか?
(……ざっとこんなものか)