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2秒 変な人の頼み

(うわあっ!!)


 俺は驚いた顔で少し上へと飛び跳ね声の方に身体を向ける。

 女性はロングヘアーの紫髪が特徴の美女だった。彼女は自分の髪をサラリと撫でてから両手を後ろに回し、前のめりの姿勢で俺を見つめた。



 ――良かった。俺以外にも動ける人がいるじゃないか。


 ところが、直後に聞こえてきたのはぶっ飛んだ自己紹介だった。


「僕は神、この世界の絶対神だ、よろしく」


 一体、何を言っているのだろう。俺は困惑した。


(かみ……?)


「ねえねえ、それよりこの服と髪型どうかな? 人間はまず中身よりも外見を好む生物だったからさぁ、とりあえずキミが好きそうな格好で来てみたんだけど」


 両手を広げてクルリと1回転をしながら、自慢げに彼女は俺にその姿を見せつけてきた。

 確かに格好はとても似合っているが、その前にまず色々と言いたい事がある、どうして彼女だけが俺と同じように動けるのかという疑問だ。



(でも……)


 尋ねようにも声が出せない。うーん全く理解が出来ない。



 そもそも、この人は本当に神なのだろうか?



 一方、彼女は気怠るそうに両腕を組んで、その辺を歩き始める。


「はあー、世界と生物全員を再構成するの大変だったんだよね」


 まもたや何を言っているのか分からない。これはもう話を『理解しろ』という方が難しいのかもしれないな。頼むからわかるように説明してくれよ。


「あ、そうそう、キミの声はさっきからきちんと聞こえているよ? 正確には思考が読めるってだけなんだけど」


 神様……じゃなかった、本当に神様なんですか?


「うん」


 あっさりと答えてくれた。とにかく一旦落ち着こう。このよくわからない状況に俺は頬を手でパンパンと叩く。そのさまがさぞ面白かったのか神様はクスリと笑った。




「ふふ、そろそろ説明してもいいかな?」


 大丈夫。意外にも俺の適応力というのは素晴らしい。「神と会話を交わしている」という常識から大いに逸脱した出来事に違和感ひとつ抱かなくなってきているのだから。




 ちょっぴりと安心した気持ちで見ていると、神様は俺に向かってピッと人差し指を突き付け再びぶっ飛んだ事を言ってきた。


「それじゃあ、簡単に経緯だけを説明するね、まず一度、世界は滅んだんだ。だから、僕は世界を作り直した。どうして、そんな大それた事が出来るのかと言うと……僕はこの世界の絶対神だからだ。さて、ここまではいいかい? あれ? 聞いてる?」


 あまりにも膨大な情報量を前にして、俺の思考はすっかり停止してしまっていた。


「おーい、大丈夫かい? つんつん」


 ……はっ、気がつくと彼女に額を突つつかれていた。




 もう一度きちんと整理してみよう、このままではまた脳が破壊されかねないしな。えーっと、まず世界は一度滅んだ、それで神様と名乗る目の前の女性が世界を作り直した。これで合っているのか?


 なぜそんな事が出来るのか?

 それはこの世界の絶対神だから……か。



 うんうんその通りだよと頭を複数回縦に振って見せた彼女。しかしながらやっぱり意味がわからない、まず第一に神様は何故に俺の目の前に現れたんだろうか。


「ああ、それは簡単だよ。この石を見てごらん」


 こちらの思考を読み取った神様はそう言って懐から変な石を取り出して俺に手渡してくる。その石をじっくりと眺めてみると、石の中心には綺麗な虹色の宝石が埋め込まれていた。まるで青空にかかる本物の虹のような輝きを放っている。



 とても綺麗だ、思わず俺は石を手の平の上でコロコロと転がしてみた。すると突如として宝石の色は失われていく、え、やばい、壊れたか!?


「あはは、他とは違う面白い反応するね。キミは」


 てっきり壊してしまったのかと思った俺は慌てて神様に返した。それよりも今のはなんなんだ? 超常現象の見過ぎで脳が疲れてきた。


「力だよ、キミにしか使えない、強い力」


 ち……ちから?


「うん、この力を与えるに相応しい人物を探すためにね、しばらく観察していたんだ。この人なら闘争に溢れた世界を何とかしてくれる、そう思ったから、こうして直接会いに来たんだよ?」


 なるほど……いや、なるほどじゃねえ。そう思うのは神様の勝手ですけど俺はこの世界では平凡だし、何ならその辺の虫と変わらないちっぽけな存在じゃないですか。


 そんな俺が世界をどうこう動かすのなんて、土台無理だと思いますけど。




「ふーん、意外と自信がないんだ? じゃあこれでもダメ、かな?」


 おもむろに上の服に付けられていたリボンをシュルリと外す神様。服は肩が見えるほどはだけてしまい、彼女の大きい胸が露になる。それはたゆんと上下に揺れては俺に近づいてくるではないか。い、いきなり何をしてくるんですか!!


「ねえ。お願い、聞いてくれないかな?」


 これでもかと言うぐらい、神様は身体を密着させてくる。


 その哀しそうな顔は今にも泣きそうに見えてしまい、なんだか申し訳ないと俺はポリポリ頭をかいた。何故、男性は女性のことを無意識に『可愛い』だなんて、思ってしまうのだろうか。誰かハッキリ説明してくれ。



 ダメですよ、神様!


「お願いだよお、話だけでもさあ」


 拒絶するように神様の肩を押して距離を取ったが、それでも神様は諦めてはくれずトテトテとこちらへ向かって歩いてきてはまた、俺に顔を近づけてくる。



 大きな胸がたゆんと上下に揺れ、俺の身体に押しつけてきては、さらに腕に巻き付くように抱きついてくる。正直この体勢は心臓の鼓動が高鳴ってしまうのでひどく緊張する。



「ねえ、僕すごーく困っているんだけどなあ……」


 ああ、その通り。だが、困っているのはお互い様だ。



 さっさと離れてください、正直変な感じがして嫌なんです!


「ええ酷いよお、キミってさ、困っている人を助けたいとあの子に食べ物をもらった時に思ったんだよね? だから助けて欲しいなあ」


 シュンとした顔がちょっと可愛い。じゃあ聞くだけですよ神様、聞くだけですからね!




 そう思考を通して全力でコミュニケーションを試みた結果、急に神様は抱きつくのをやめた。表情もさっきと違って真顔に戻っている。これは何の変化か?


「そう、じゃあさっさと本題に入らせてもらうね、種族同士の争いが激化していきこの世界は滅んだ。それが今から、約100年以上前の話だ」


 急にガラリと態度を変えて説明を始めてしまう神様。どういうわけか俺は騙された気分に陥った。


「もちろん、神様の僕が人前に出て抑制する訳にもいかなかったから……魔法でも科学でも解明出来ない、様々な“超能力”というのを作り上げて配ったんだ。いま発生させている時間停止も、その1つだ。さて、ここまではいいかな?」




 ……いやいや!! よくない!! ちょっといいですか?


「ん、なんだい?」


 滅んだってどういう事なんですか? こんなぶっ飛んだ事を言われたら頭が混乱しちゃいますよ

 俺は若干鼻で笑いながら頭の中で尋ねた。


 しかし返ってきたのはやっぱり頓珍漢(とんちんかん)な答え。


「うーん? でも現に滅んでしまったし……」


 ちなみに、理由はなんなんですか?


「ああ、色々だよ、そうだなあ。とりあえず、1つ世界が滅ぶに至った例を見せてあげようか? ほら、論より証拠って言うじゃないか」


 真顔でそう答えると、神様は固まった男とタルトに向けて手を伸ばし光輪を展開させる。もしかしてあれは魔術師が主に使う魔法陣か、そう予想が展開された瞬間、俺の中で更なる恐ろしい仮説が浮かび上がってくる。まさか……。



「そのまさかだよ? 今ここで僕が魔法を放てばどうなるか……まあ間違いなく2人は死ぬだろうね」


 さっきから平気な顔して何を言っているんだコイツは。怒りの感情が急に湧きあがってくると彼女はクスクスと笑って「冗談だよ」といって魔方陣を閉じた。


 何が冗談だ。

 さっきから俺の反応を確かめるように接してくる、ふざけた態度が気に入らない。


「キミが持つこの感情、これって憎しみと恨みとかだっけ? まあ悪いとは言わないけど、これが原因で人類は多くの人を巻き込む戦いに発展していくよね。ああ、住む場所がほしくて戦争していた種族もいたっけ? 殺して、殺されて……また誰かが殺された仇を討つために立ち上がって……殺し合いの連鎖は続いていく」


 そんな話は聞いていない。怒りが沸点を超え俺の顔は熱くなってくる。


「永遠に終わらない負のサイクル……君達はこの無駄なゲームを何年繰り返すのかな? ふふっ……下手したら、ずーっとかな?」


 いい加減にしろ!! つまり俺に何を望んでるんだよ! 一体、アンタはどうしてほしいんだ!!


「ごめんごめん、そんなに怒らないでよぉ、僕は彼らを殺すつもりなんて無かったんだからさ。こうしたらキミがどういう感情を抱くのか、知りたくなってね」


 平謝りした神様はグラマラスな胸をたゆんと揺らしてから謝罪の言葉を述べるが、機嫌が悪い状態でそういう事をされると逆に不快感が増すだけだ。そもそも俺は実験動物などではない、命を道具に試される筋合いは無いのだ。





 怒りの表情を変えずにジッと睨んでいると、神様は頭を下げてしっかりと謝罪をしてくる。


「うーん、こうかな? ごめんね、もうしないよ?」


 何故だろう。神様からは申し訳ないという感情があまり伝わってこない。ひょっとして感情という概念が存在しないんだろうか。


「ごめんね。キミの言う通り、感情というのは理解出来ないんだ、えーっと、これでどう?」


 やっぱり、気持ちが伝わってこない、ダメだ。ここは一旦落ち着こう。人と会話するのに怒ってばかりでは話は進まない。


 ……わかりました。


 すると、神様は両手を合わせてクスクスと笑った。


「ああ、良かった!」


 だから何なんだよ、その人を舐め腐ったような態度は。神が目下の存在である人類を見下すのは当然かもしれない、だが、いざここまでされてみると実に気分が悪い。


 で、俺に何をさせたいんです?


「さっき言った超能力を君にあげるから、それを上手く使って世界を動かす大きな存在となってほしい」


 ……そんなにあっさりと大役を押し付けられても困るんですけど。

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