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13秒 俺の意志、俺の決意

今日帰ったら更新します

        ◇    ◇    ◇


 ――我が部下達が集う魔族の塔。

 地面に張られた強大な魔方陣によってその塔は支えられており、今まさに天空にも届くほどの成長を続けている。



(天族……それは死という概念が無い厄介な存在……。どうやって始末するかのう)



 椅子に座りながら余はどうやって奴等を殺すかを考えていた。

 背もたれに寄りかかっては天井を見つめて深く考える。


「プラム様、いかがなさいましたか?」


 声の方へ視線を向けると、階段を下りた先に膝をついて余を見上げる1匹の部下がいた。

 さらに後ろの方で待機している数匹の忠実な部下達もおり、みな余を崇めるべき『王』であると認識している上での行動じゃろう。


(まあ、余からしたら全て道具にしか見えんがな……)


「……タウロス」


 余は一番使える道具の名前を呼んだ。


「はっ」


 この『タウロス』という上位魔族。

 背中に大きな黒い翼を持ち、頭には魔族の証である大きな2本の角、そして鉄をも斬れるほどの尖った爪と歯を身につけている。


 此奴は今まで召喚した中でも、最高傑作に近い存在に間違いない。


 そもそも魔方陣から精製されて生まれてきた魔物達というのは、強さの指標として【ランク】というのが存在する。


 【下位魔族】は言葉も喋れぬし考えをも持たぬ木偶でくであるが、大量に生産出来るのが強みじゃ。

 そして【中位魔族】になると意志を持ち始め、魔王である余が喜ぶには何をすれば良いのかと自立を始める。


 【上位魔族】に到達するとタウロスのように腕力と魔力を持ち、この世界ではそうそう負ける事はない存在となり。


 最後の【超位魔族】は言葉通り、全てランクに勝る存在、この『プラム・ヴェルローザ』のみしか存在せぬという事じゃ。


 このランクというのは誰が名付けたかはわからぬが、魔族の常識になるほど皆が呼称しておるのは気に入ったという証拠なのじゃろう。


 余からしたら、強さの指標など戦ってみないとよくわからぬがな。


「他に上位魔族に昇格した者はおるかの?」


 タウロスは首を振る。


「いえ……自分以外確認は出来ておりません」


「そうか、では超越者についてはどうじゃ?」


 タウロスは先程と違い、自信を持った口調で返事をした。


「はっ、まずはこちらのご報告をご覧ください」


 タウロスは立ち上がり、現時点での各種族の調査書を手渡してくる。

 ふむふむ、一番探してほしかった天族とエルフに関しては未だ見つからぬか。


 だが、他種族がどの国に暮らしておるのかはこれで把握出来るな。


 【シュテッヒ中央国】→人間、獣族、ドワーフの滞在を確認。

 【エスト東国】→獣族のみが滞在中、以前暮らしていた妖人は見つからず。

 【ウェルム西国】→国自体が確認出来ず、現在調査中。


 【ノルミス南国】→ドワーフが昔住んでいたという遺跡があるのみであり、以前情報なし。

 【ユズリハ北国】→竜族が国の周りを徘徊しており、更なる確認には交戦が必須。


(ククク……どの国から仕掛けるかのう? 我が戦力が整うまではエストとユズリハ国には手を出したくないが、そちらから仕掛けてきた時はやむを得まい)


 しかし、この神様からもらった『超能力』とやらには感謝せねばならぬな。

 余の魔法術式が強化されたおかげで召還魔法も容易となった。


 結果、外の魔物達は2倍にも膨れ上がる事となり、これで他国に攻撃を仕掛ける事がようやく可能になったという訳じゃ。


「プラム様、探していた超越者の件でお話が」


「申してみよ」


 余が言うとタウロスは忠誠を示すためか、一度階段を下りてから再度膝をついて話をする。


「第2防衛ラインを担当するシャーロットからの報告ですが、過去を見通せる魔導具、水晶アレグライトを使って1人見つかったそうです」


「ほう、どの場所じゃ?」


「はっ、中央国です」


(なるほど中央国か……)


 あそこには確か一部の獣族もおったか、だとするとエストの乗っ取りに我々魔族が協力した過去もある。

 多少は面倒臭い事になるだろうが、今の分裂した獣族にまとめあげるリーダーはもうおらんじゃろう。


 ククク、頃合いを見て全員排除しても良いな。

 それにしても、何故にシャーロットは超越者を見つける事が出来たのじゃろうか?


 気になった余は、タウロスに問うてみた。


「それがプラム様の予想した通り、その者はある地点から違う場所へと瞬時に移動したそうです。元々シャーロットは幼い頃、窃盗団のリーダーが処刑され本人は国外へ投げ捨てられた身……人間に対しての憎しみや恨みはかなりあるでしょう」


(人間とは不思議な生き物じゃ、どうしてくだらぬ価値観で他者を迫害するかのう?)


 迷わず殺してやれば、その者の為にもなるじゃろうに。


「だから嘘の報告をするとは思えない。そして人間がそのような異様な力を持つ事は無い。そこでお前は超能力者で間違いないと思ったのじゃな?」


「仰る通りです」


 クックック……笑いが止まらん、まさか魔術の超越者の余ではなく同じ人間であるシャーロットが先に超越者を見つけるとはな。


「どうされますか、プラム様? 天族を含む各種族の動きは現時点ではありません、ここは仕掛ける好機かと」


「そうだな、人間に関してはそろそろ仕掛けようと思っていたところではある。問題はどうやって人間の超越者をこちらへ引き込むかじゃ」


「……それならば人間を人質に使い、超越者を仲間に引き入れれば良いのではないでしょうか?」


「なるほど、それなら天空からという策もありじゃな」


 クククッ、面白くなってきたではないか……のう神様とやら?

 せいぜいもらった能力で楽しませてもらうぞ。


(転移魔法の準備もしておかんとな、まずシャーロットに入国させ転移魔法を設置してから、外のゴブリンを中へと入れる戦法が一番楽でよかろう、国を混乱に導けば人間の超越者とて動かざるを得まい)


 人間とエルフという知恵が優れている種族は真っ先に潰しておきたい。

 あやつらが組むと厄介な事になるのは間違いないからのう。


 余はニヤリと微笑み、椅子から立ち上がっては赤きマントを靡なびかせタウロスに命じた。


「タウロス、お前は中位魔族の者達に声をかけろ、その後は余が戻るまでこの塔を死守しておけ」


「はっ!! 失礼します、プラム様ッ!」


 タウロスは元気の良い返事をすると背中の羽を使い、外へと飛び降りる。

 しばらくして余は指をクルリと1回転まわし。


 小さな魔方陣を発動させて待機しているシャーロットに指示を伝えた。


「これはプラム様……私奴めにご命令でしょうか?」


 シャーロットは右腕を胸にやり上半身を屈め絶対の忠誠を余に誓う、人間を部下にするのも面白いなと思って配下に加えたが、中々に此奴は役に立つな。


「シャーロット、シュテッヒ国の上空に通信式の魔術を錬る事は可能か?」


 エストであれば魔法に長けたエルフの事じゃ、確実に発現した魔方陣に解除魔法を唱えるじゃろうが、特段詳しくない者達が集うシュテッヒ国ならば問題は無かろう。


 予想していた通り、シャーロットは「可能です」と答える。


「しかし、プラム様。多少時間は頂きますが……」


「構わん。では出来上がり次第余に報告し合図をしたらこの最上階の様子を映せ」


かしこまりました」


 ククク……楽しみだな、人間の超越者よ。



 せいぜい余を失望させるなよ……?




        ◇    ◇    ◇




「あーっ……もう限界、無理だ」


 イリナに剣術を教わっていたら日が暮れかけていた。

 体力の限界が近づいていた俺は草のある庭へとゴロンと寝転がる。


「ふふ。まだまだね、ネリス」


 イリナは俺の顔を覗き込み、ニッコリと微笑んだ。

 結局、振った木刀は一度も当たる事はなかったな。


「ほんとつえーな……なあイリナ、明日も俺を鍛えてくれないか?」


 単純に俺が鍛えてほしいからとかではなく。

 こう言えばイリナは家に残ってくれるかもしれない、そう思ったんだ。



 しかし、イリナは俺の言葉を無視して銅で出来たペンダント型の紋章を手渡す。


「はい。これ、兵士見習いのネリスくんに支給された分。無くしたりしたら重罪だからね!」


「ああ……」


 俺はそれを受け取り深く悩む。


 友達だから無理にでもイリナを止めるべきなのに、復讐を忘れるほどの決め手が見当たらない。

 汗を流す為かイリナは家へと戻っていき、俺はその後ろ姿をじっと眺めていた。


(そうだ。前に考えていた、獣族に話を聞いてみるか)



 ちょうど仕事が終わったこの時間帯ならトルム地区の酒場にいるはずだ。


 俺はイリナが門を開けた手順と同じ事をしてトルム地区に入る。

 しばらく歩き、酒場に着いて扉を開けた俺は入り口付近でキョロキョロと獣族を探した。


 なるべく大人の人がいいな。

 この話をすると、人によっては激昂されかねない。


(うーん。あの人にしてみるか)


 見つけたのは、全身毛むくじゃらでちょっと大人っぽい獣族の人。

 その人はカウンターに座り1人酒を飲んでいた。


 恐らく、20歳は越えているだろうか?


「すいません、隣いいですか?」


 あの人なら、お互いに会話を冷静に進められるかもしれないと判断した俺は横に立って声をかけてみる。


「ん、おお……別に構わねえぜ」


 許可をもらえたので男の隣へと座り顔色を伺う。

 少しばかり警戒しているな。


 まずは笑顔で「最近晴れが続きますねー」と他愛もない世間話から俺は会話を始め、地味な話題で繋げていく。


 慣れてきたら男の仕事の話へと移り、深い話へ話題をドンドン切り替えていった。

 時には相づちを打って笑い、『はい』か『いいえ』で返事出来ない質問を投げて会話を続ける。


 この辺は商人になりたいとイリナに頼んだ時にちょっとだけ教わった会話術だ、酒代はイリナから多少もらっていたので、ガンガンと俺から奢っては男に飲ませていき、良い雰囲気になったところでいよいよ本題へと移ることにした。


「すいません、妖人についてどう思っていますか?」


 酔っているんだろうか、獣族の男性は少し強い口調で返してきた。


「ああ、妖人? ……昔は色々あったみたいだけど良くはしらねえな、何とも思わないよ」


「じゃあ、昔エストという国を巡って獣族が戦争を起こしたってのは本当なんですか?」


「本当だよ、もう3年前だっけか、獣族の王ブロイが妖人を滅ぼそうと魔族と協力してエストを乗っ取ろうとしたんだ」


(うーん魔族か……)


 正直、魔族に対して良いイメージは聞かない。

 外を魔物で溢れさせたのも最初は知らんぷりをしていたし、それに激怒した獣族が魔族の殲滅を図ろうと戦争していたのも知っている。


「おっと、もちろん俺は参加してないぜ……というか、シュテッヒ国にいる者達はそもそも反対派の奴等でな」


「反対派?」


「おうよ、他種族の土地を殺してまで奪うのなら俺達は下りる。そう言って数百人ほどの獣族は、シュテッヒに受け入れを志願したんだ。俺達は仲間意識が強くてな、今でも賛成派からは恨まれていると思うぜ」


 そうか。だから、この街の獣族を滅ぼすにあたりイリナはどうすべきか悩んでいたのか、妖人とは直接関わっていない彼らだ。


(殺すかどうか、そりゃ悩むだろう)


 でも、これで答えられなかった事情は大体わかったな。

 俺は「ありがとうございます」と一言頭を下げ、席を立とうとした。


 ……だが、その時。


「すいません、少し尋ねたい事があるのですが」


 1人の女性が俺の肩をポンと叩き、立ち上がろうとした身体を抑え付けて椅子へと戻らせる。

 俺は顔を上げながらその女性を見ると、フードを被って顔がハッキリと見る事は出来ない。


 それとコートで身を隠すその姿は、明らかに異様な雰囲気を漂わせていた。


(この人、誰だろう……?)

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