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12/14

12秒 俺も頑張るよ

明日、夕方辺りに13話更新します。

「ぐふ、ぐふふふ! 来い、さあ来い!!」


 俺はパッと視線を上へ向け、引っ張っていた弦を放した。

 勢い良く飛んだ矢は空へと向かい、それをグレアは目で追い続ける。


 別に矢なんて当たらなくてもいいんだ。

 そもそも当てるつもりで放っていない。


 いくぜ最強、超能力の力を見せてやる!!


「世界よ……!!」


 止まれッ!!


 カチッと頭の中で音が鳴った。



「おい、これは一体な……ん……の」



 グレアの言葉がスローになっていく。


 カ――チッ

 チッ――――。


 やがてピタリと完全に止まった。

 俺の予想は間違っていなかった。



「真似だ。……なにっ!?」



 俺の存在が消えた事に気付いたグレアは、慌てて後ろへ振り返ろうとするがもう遅い。

 グレアの顔面目掛け、俺は握った左拳をありったけの力で真っ直ぐに突き出した。


 食らえ、これが最後の一撃だ!


「うおおおおおおおおお!!」


「っ……!!」


 俺が拳を振り抜くと、グレアは声を漏らしながら上体を仰け反らせた。

 そう、ずっと気になっていた、この能力を使う為の発動条件……



 それは――。


(……()()()()()()()()と使えなかったんだ)


『君に与えた超能力は時間停止、8人の中では時の超越者だ。文字通り全ての時を止めて君だけが自由に動ける力、応用次第では君の能力が一番面白いのかもね』


(はは、応用次第……か)



 能力にはまだ謎があるんだろう? なあ神様――。


「面白い、お前、本当に面白いぞ」


 グレアは倒れる事はなく、せいぜい鼻から血を垂らすだけだった。


 嘘だろ、完璧に拳は顔面を捉えた。

 それが、全くのダメージにもなってないってのかよ。


(反撃が来る!!)


 そう思った俺は低い姿勢を作り、頭部を守る。


「ぐふっ、ぐふふふっ」


 ――気味の悪い笑い声が聞こえた。

 ああ、こいつはこの戦いが楽しくて楽しくてたまらないんだろうな。




(この戦闘狂め、強すぎるだろ……)




 物凄い速度で両腕に何かの物体が衝突すると、強い風を感じた。

 衝撃音が腕から脳へと伝わっていき、思わずガードを解いてしまった俺は前を見ると、鬼のような形相でグレアは拳を弓を引くように構えていた。


 それが前へと勢い良く突き出されると、俺は全身の力が抜け落ち。



 視界は真っ暗に染まってしまう……。




        ◇    ◇    ◇




(……いてぇ。後頭部がもの凄くズキズキする)


 誤魔化すように眠ろうとしたが、痛すぎて寝ることが出来ない。

 諦めて仕方なく目を開けると視界いっぱいの天井が目に映った。


 ああ、今は寝ている状態なのか。

 背中にはふんわりとした感触が伝わり、なんだか甘い香りがした。



 ここはイリナの家の布団なのだろうか?


 確か、グレアと戦って……それから全く覚えていない。

 うーん、ここに運ばれているという事はひょっとして負けてしまったのか?


 そう考えていると、目の前の扉が音を立てて開く。


「目が覚めた? まさかあれから、夜まで寝てるなんてね」


「よ、夜?」



 そこから出てきたのはイリナだった。

 俺は上半身を起こしてバッと窓を見ると、辺りは真っ暗となっていた。

 弓術のテストが昼過ぎぐらいだったから、半日以上俺は寝ていたのか。


 あの後、何が起きたのかをイリナに尋ねると、どうやら試験が終わり、残ったのはグレア1人だけだったそうで、合格が決まった途端に何故かその場で彼女は辞退したそうだ。


 その顔はまるで興味を失った子供のようだったという、立ち去る際に「センスがある」という事で俺を推薦したようで、1人も合格者を出す訳にもいかなかったシュテッヒ騎士団は俺を一応、合格としてくれた。


 それに加え、今後は兵士見習いとして来ていいとの事だが、実力もないのに行っても良いのだろうか……。


(まあ、とりあえず1歩前に進んだって事でいいのかな)


 物事は都合良く進んでいる。

 後は、俺が強くならないとな。


 でも、誰が俺を鍛えてくれると言うのだろう?

 いきなり兵士の誰かに弟子入りを申し出てもその人が困るだろうし、もうちょっとその辺は考えないとまずいな。


(……剣術を教えてもらえる信頼関係、そんな人俺にいる訳がない)


 まあ明日の朝になってから騎士団へ行ってみるか。

 俺はもう一度寝ようと思って上半身をベットに沈ませると、なぜかイリナが頬を膨らませながら俺の顔を覗き込んでくる。


「あのねえネリス……!!」


「ん?」


「いつまで私のベットに寝てんのよ!!」


「え? いや、別にずっと寝かせてくれてもいいだろ? 俺は怪我人だぞ」


 あれだけの死闘を繰り広げたのだ。

 別に少しくらいは休んでもバチは当たらないだろうに。


 俺は決して動かない意志をイリナに示すと、足を掴まれたのかズリズリと天井が動いていく。ああああ、ああ。


「アンタが寝てたら私が寝れないでしょ……うが!!」


 引きずられる速度が上昇する。

 足がベッドを離れ床へと着地すると、勢いを殺しきれずに俺はゴロンと前へ転がった。


 回転の途中で壁にカカトが当たり、勢いが強制的に殺されると逆さまの状態でイリナが映る。


「なら一緒に寝たらいいんじゃないか?」


 そのままの姿勢で俺は返事をすると、イリナは怒ったのか声のトーンが一段と上がった。


「はあ!?」


「別に俺は構わないけど」


 というか、お前と何年友達やってきてるんだよ。

 今更そんな恥ずかしがる仲でもないだろう?


 しばらくイリナからの返事はなく、眺めているとプルプルと震えた拳を振り上げた。


 顔を殴るにはその体勢だと難しいだろう。


 一体どこを殴るっていうんだ……いやいや待て、イリナさんちょっと待ってくださいそこは――。


「ッ!! ……はおおおっ」


 めちゃくちゃ痛い。

 ドスッという鈍く小さい音だったが、俺の中では落雷が股間に落ちたほどの衝撃音だ。


 口から舌を出しながら俺は床を左右に転がり、大事なボールはきちんと2つあるか確認した。


(よかった、きちんと潰れずにあった)


 次はどこを殴られるのか恐怖した俺は、自分からゴロゴロと身体を回してイリナの部屋から退散する。


「その辺なら、今夜泊まっていいから。じゃあね」


 廊下へと出るとバタンとドアは閉められてしまう。

 というかイリナってあんな暴力的だったかな?


 昔はもっと大人しい子のイメージだったけど、度重なる冒険と経験によって女の子の性格というのは変わっていくのかもしれない。


(そういや昔、イリナが冒険者の1人として旅立つ時に俺も誘われたんだっけ……)


 あれって何で断ったんだっけな。

 ……ああ、思い出した、本当は2人きりで俺は冒険したかったんだ。


 知らない人達と冒険するのが嫌で、断ったらイリナが凄く落ち込んでたのは覚えている。


「……ネリス」


 扉の向こうからイリナの声が小さく聞こえた。


「私、本当は間違っている事だとわかってるの」


「……復讐が?」


「うん、でも復讐をしないと妖人のみんなが報われない……私だけがのうのうと生きるなんておかしいよね」


「別におかしな事じゃないだろ」


「え?」


「生きたいように生きるのは生物の当然の権利だし、イリナ自身が使命を背負うのに迷っているのなら、もう別の事を考えた方が良くないか?」


 でも、イリナはこういう事を言っても聞かない気がする。

 俺と同じで、一度決めた事はとことんやり通す性分なのはよく知ってる。


「……そうかな」


「そうだよ。復讐より、よっぽど楽しい事が待っていると俺は思うな」


「ふふ。そういうとこは変わらないね、ネリスは」


 クスリと小さな笑い声が聞こえた、俺は自分の事を深く考えた事がない。


「変わったのかな、俺」


「相当ね。本当は帰ってきた時に、真っ先に会いたかったんだよ」


 イリナの声が少し大きくなったように聞こえた、ドアにより近づいたんだろうか。


「そっか……素直に嬉しいよ」


 俺もイリナに会いたかった。


「そうだ、ずっと気になっていたんだけどさ、イリナは獣族に復讐をしたいんだろ?」


「うん……」


「なら、どうしてここにいる獣族の者達を殺そうとはしないんだ? 街中で憎む相手がいたらなんかこう、心が辛くならないか?」


「……」


 イリナは俺の質問に答えてくれなかった。

 迷っているのか、それとも他に何か事情があったのか。


 どっちにしろ、あんまりこの事を聞くのは良くないかもしれない。

 後はもう、獣族とやらに聞いてみる事にしよう。


「おやすみネリス」


「ん、ああ。おやすみ」


 イリナは色々と悩みを抱えている。

 何とかして荷物を軽くしてやりたい。


 復讐を抱くイリナの気持ちをわかってやる事は出来ないけど、残忍なイリナを俺は見たくないんだ。

 うまい事イリナの憎しみを鎮められる方向へと、切り替えられないだろうか?


(血で血を洗わない方法、何かないか……)


 だ……めだ、み、つ、か、ら……な……い――。



 ――。

 ――――。



 俺はパチリと目を開ける。

 対策を考えてるうちに眠ってしまっていたのか。


 ……ふと全身に違和感を感じる。

 身体を手で触ってみると全身を覆うほどの布がかけられてあった。


 恐らく、イリナがかけてくれたのだろう。起き上がった俺はドアをコンコンとノックする。


「おーい、イリナ?」


 扉の先から、返事がこない。


(外も明るいし、騎士団の方へ行ったのかな?)


 軽くあくびをして眠い目を擦りながら伸びをしていると、何やら外でぶん、ぶんと何かを振っている音が聞こえてきた。

 階段を下りて窓を見てみると、そこへ映ったのはイリナが汗を流しながら木刀を振っている姿だった。


 その姿をしばらく眺めようと思い、俺は窓枠に肘をつける。


「…‥」


 また昔の事を思い出した。

 紙を折ったり風車を作ってたりして、イリナと一緒に走り回った思い出。


 何で、急にこんな事ばかり思い出したのかわからない。


「はあ、はあ……」


 木刀を振り、一心不乱に頑張るイリナ。


 その姿を見ると、俺も頑張れる気がした。


 強くなりたい、肉体的にも精神的にも。



「ん? おはよう」


 イリナがこちらに気付く。


「ああ、おはよう」


「……なんでニコニコしながら見てるのよ?」


 お前は凄く変わったよ、イリナ。

 決断を迷わない力を持ったんだな。


「別に、なあイリナ」


「なによ」


 その力はとても強くて、俺じゃ止められないかもしれない。

 それでも復讐を止める方法、頑張って考えてみるよ。


「今日から俺も金を稼げるようになったし、タルトのお母さんには俺が会っとくわ」


「そう……まあ勝手にしたら」


「ああそれとさ、俺はもっと変われるように頑張るよ、今までありがとう、そしてこれからもよろしくなイリナ」


「あっ……そ。まあ別に、そのままのネリスでもいいんだけどね」


 ツンとした態度でそっぽを向くとまた素振りを始める、でも俺にはイリナが怒っているようには見えなかった。

 強い風が吹き、それが収まった時に俺はこう言った。


「イリナ、剣捌きを近くで見ててもいいか? 剣術ってのを覚えたいんだ」


 タルトに恩返しをしたい。

 そしてイリナも救いたい。


 よし頑張るぞ、口だけの俺はもう終わりだ。

 変わりたい、与えられた時間は平等だ。


 結果だけを知ろうとはしない。

 見たままの結果では、全てわからない。


 そこへ至るまでの過程をしっかりと、全身で感じていこう。




「……そこで見てても覚えるのには限界があるでしょ、私が剣術を教えてあげるからこっち来なさい」


 イリナは俺を誘うようにそう言った。

 それにしっかりと俺は、笑顔で答える。


「ありがとう、やっぱりお前って優しいよな」


「ばーか……」


 照れているのかイリナは顔を赤くして握った木刀をクルクルと回し始めた。

 今更そんな事言わないでよ、私達親友じゃないって意味なのかな。


 いつか俺が解決してやるからな。

 今はまだ弱い俺だけどいつか――。



 俺は窓から離れ、イリナの元へと走って向かった。

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