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11秒 グレア・フィールド

明後日辺り12話書きます

お待たせして申し訳ありません。

「皆さん、お疲れさまです」


 かしこまった表情のイリナが合格者であろう人の名前を次々に呼び上げていく。

 自分なりには頑張った方だと思うが、あのさまでは呼ばれるのは厳しいだろう。


「呼ばれた方は返事をしてください、クラハさん、ベントリーさん……」


 ん、ちょっと待て、何かがおかしいぞ?

 合格者があまりにも多過ぎる。


 そう思っていたのは俺だけではないようで、周りがザワザワと騒ぎ出していた。


「ど、どういう事だ! 試験は終わりじゃないのか!?」


 1人が声を上げると、他の者達は次々と続く。


「説明になっていないぞ! ちゃんとした説明をしてくれ!」


「そうよそうよ!」


 イリナは全員の言葉を無視して名前を淡々と呼び上げていき。

 最後に俺の名前が呼ばれると、手に持っていた紙を見ながら説明を始めた。


「では、合格の条件をこれから説明します。今から発生される魔法結界を除去魔法で脱出した者、または最後の1人になるまで残った者を合格とします」


 イリナは淡々とそう言って説明をやめたが、テストを受けた者達は無視された事に怒り、さらに声を大きくして抗議をする。

 そんな人々の抗議を無視し、イリナは横に置いてあった妙な装置のスイッチを入れた。


 装置は四角く、腰ぐらいの高さだろうか?

 ふと目線を逸らすと、兵士達がぞろぞろと上へ登る階段へと向かっていく。


 ゴゴゴゴゴゴッ。


 装置の音に目線を戻す、今にも壊れてしまいそうな激しい音を立て、しばらくしてからピーッという甲高い音が鳴り、強く、眩しい光を放った――。



 ――

 ――――。



(あれ?)



 気づけば地面に倒れていた。

 それとなんだか首がやたらと痛い。


 痛みを抑えながらゆっくり起き上がると、そこには異様な光景が広がっていた。

 思わず俺は後ろへと飛び下がりその状況を眺める。


(あの場にいた人達がみんな……地面へと倒れている!?)


 場所もおかしい、さっきまで俺達は騎士団のロビーにいたはずなのに、闘技場のようなだだっ広い場所へと移動している。


 周りは身長以上の木の柵で出来た壁で囲まれ、地面に目をやると大地をしっかり蹴れるほどの固い砂が大量に撒かれている。


(あの妙な装置が原因なのか?)


 俺は次に夢かどうかを確かめる為、頬をつねってみた。

 うん、痛い、ここは夢でもなく現実だ。


(えーっと、最初にイリナは結界と言っていたな……)


 内容はここから出る事が出来れば合格。

 なるほど大体理解出来た。


 という事はあの遠くで休んでいる女性も倒さないといけないのか。

 いや、ちょっと待てよ、よく見るとあれは……?



「ぐふふ。随分寝ていたんだな、では始めようか?」


(金髪の乱れている髪、間違いないグレア・フィールドだ!!)


 壁に寄りかかったままグレアはじっと俺を嬉々と見ていた。

 ひょっとして、この倒れている者達は皆グレアの仕業なのか?


「お前……ひょっとして」


 恐る恐る俺は尋ねる。


「安心しろ、殺してはいない。少しばかりお前とサシでやりたくなってな」


 あっさりと答えたグレアは壁から離れ、腰につけた長剣を引き抜く。

 テストの内容は結界内で最後まで残るか、『マホウジョキョ』ってヤツで脱出する事。


 さらに悪い事にグレアは俺と1対1の戦いを望んでいる。


(おいおい。コイツを倒して、合格しろって事かよ……!!)


 絶対無理だ。

 俺はそうとしか思えなかった。


「気絶からの目覚めはどうだ? さっさと武器を持て」


 ……どう逆立ちしたって、グレアに勝てる訳がない。

 全てにおいて俺は劣っているんだぞ。


 というか一度気絶させられていた事に気付きもしなかったんだ。

 そんな俺がどうやったら勝てるというのだろうか……?


 しかしやらなければ何も始まらない、俺は地面に落ちていた短剣を拾い、とりあえず構えてみるが自分でもハッキリとわかるほど手が震えていた。

 アイツの筋力は成人の男でも適わないほど強いのは嫌ってほど見せつけられた。


 あんな強い力で殴られたら痛いだけでは済まないかもしれない。

 下手したら二度と起き上がれなくってしまうかも……そう考えると恐怖が先行していく。


「はあっ……はあ!」


 ただグレアを見るだけで精一杯だった俺は、普通に立っているだけなのに呼吸が乱れてしまう。


「どうした? 動かないならこちらから行くぞ!」


 恐怖を克服するんだ、まず俺は頭の中で身体を動かす事だけに集中した。

 長剣を手に持ったグレアは引きずった音を立てながら段々とこちらへ向かってくる。


 何も考えず、ただ身体を動かすだけでいいんだ。

 それなら怖くない、グレアという存在を無視したつもりで短剣を横へと振るが、目の前のグレアはパッと目の前から消えてしまう。


 あっさりと空を切ってしまった短剣、グレアは一体どこへ消えたのか?


 ドンッ。


「ぐあっ……!」


 ――背中に強い衝撃を感じた。


(まさか後ろへ回り込まれたのか!?)


 地面との接地感が消え、しばらくの間俺は思考の糸が切れてしまい、空中で逆さまになった視界をただ眺め続ける。


 逆さまだった視界が衝撃音と共にグルグルと回り出すと、思考の糸を繋ぎ直された。

 吹っ飛ばされた勢いは止まり、耐えがたい激痛が全身を襲った。


(くっ……!!)


 しかし、ここで倒れたままでは頭を蹴られてもおかしくない。

 歯を食いしばって必死に立ち上がり、グレアと目を合わせる。


「早くあの時みたいに超スピードで動いてみろ、私の興味があるうちに頼むぞ」


 手首をクイクイと動かして俺の攻撃を誘うグレアだったが、超能力は現在使う事が出来ない。

 俺にできるのは口の血を手で拭って睨み付けることだけ。


(ったく、言いたい放題言いやがって!!)


 その能力には面倒くさい発動条件ってのがあるんだよ。


(ポンポン出せてれば俺だって苦労はしないっての……)


 もちろんこんな事を言ってしまったらグレアは失望してしまい、あっさりと俺を倒しに来るだろう。

 ここは意味深な事を言ってとにかく時間を延ばしつつ、なんとか発動条件に持っていく方法を考えつかないと――。


「1発勝負の技だからな……油断した時に使わないと……」


「そら! 次々いくぞ!!」


「ちょ……っと待てよ!!」


 グレアは俺の話を途中で切ってこちらへと向かってくる。

 おい待てよ、もうちょっと考えさせろ!!


「がはっ!!」


 腹に衝撃が走り、俺は思わず吐きそうになった。

 次に拳が俺の顔面に向かって数発ほど飛んでくる。


 何発、飛んでくるんだ、とにかく両腕を使って防御する俺だったが、その腕をすり抜けるように拳が飛んでくる。


 それを見て楽しそうに殴り続けるグレアは攻撃を止める事はない。

 1歩、前へ前へと攻めてくる。


「そら! どうした!?」


 その時、またドスッと重たい一撃が腹に届く。

 瞼が腫れたのか、やたらと視界が見にくい中で何とかグレアを視界に捉えると、既に斬り終わった動作で固まっていた。


 腹を斬られた、違う、ひょっとして剣の側面を思い切り腹に当てられたのか。

 地面に倒れ込んだ俺は上を見上げると、グレアは失望した顔で見つめていた。


「もう終わりか……つまらんダンスパーティだ」


 助けてくれと一瞬考えた。

 戦う事から逃げる思考へと、次第に頭の中が切り替わっていく。


 違う、何の為にここまで来たんだ?


 イリナを止めたいから力が欲しいんだろ?

 タルトを救うにも金がないから、ここに来たんだろ?


 諦めるのは簡単だ。

 続けるのが大変なのは今わかった。


 望む力が手に入るんだ。

 だったら、今ここで寝ている場合じゃねえだろ!!


 背中を向けて去って行くグレアの足を俺は必死に掴む。


「ま……て、グレア」


 必死に引き止めた。

 戦っても勝てないかもしれない。


 でも俺は変わりたかったんだ。

 今とは違う自分になりたい。


 自分の為ならここまで頑張れなかったと思う。

 誰かの為に頑張ろうと思うから、俺は必死になれるんだ。


「まだ、戦う……ぞ」


 自分の言葉をすぐに曲げるんじゃ、それはもう自分じゃない。

 他人の意志でもない、誰かの決意した事でもない。


(そうだ、立ち上がると決めたのは……俺の意志と決意だ!!)


「ほう」


 グレアは期待するような眼差しで俺を見ていた。

 心を燃やすんだ、死ぬのは嫌だけど諦めるのはもっと嫌だ!!


「はあ……っ! はあっ!!」


 グレアの服を掴み、山を登るように俺は上へと登っていく。

 イモムシが全身を使って這い上がるようだ。


 とても情けない、でも他人と比べて俺が誇れるモノは絶対に諦めない事なんだ。

 これしかねえから必死で頑張るんだ。


 一度も逃げない、1回でも逃げたら全部逃げてしまう気がするから。


「そうだ……それでいい」


 グレアは俺の肩を押して距離を取る、その目は立ち上がった俺を期待するような眼差しだ。


「来いよ……グレアあぁ!!」


 俺は絶対に諦めない。

 必ず勝つ方法は必ずあるはずだ。


 血が足りないのかフラッと勝手に身体が倒れようとしたが、片足を大きく広げて何とか重心を保つ。

 わずかに足下を見ると、誰かの私物だろうか、弓と1本の矢が落ちていた。


 これを使って、どうにか上手く発動条件に持っていけないか?


(やるしかない……1度きりだ!!)


 今しかない、そう思った俺はすぐに行動へと移り、まず持っていた短剣を落として弓矢を持って構えた。

 そしてありったけの力で強く弦を引く、それを見たグレアは矢が当たりやすいよう両手を広げて興味津々な顔で立ち止まっていた。


 違う、狙いはお前じゃない。




「行くぞ! グレアーーーーーッ!!」

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