持つべきものはマブダチ
俺はフェイトたんに土下座をし、正座したまま、フェイトたん達と別れた日──“俺達“がこの村を旅立ったあの日から何があったのかを…ミルフィー達が何で居ないのかを、時にはジェスチャーを交えながら話していった。
その間フェイトたんは何も喋らず、
黙って静かに聞いてくれていた。
話し終わった俺はどうやらちょっと興奮していた様で、気がついたら軽く息を切らし、目に少し涙を溜めて口籠もった声で言葉を紡いでいた。
「と言う事があって、気がついたらそのっ…ミルフィーまでっ…! たがら…全員…あのっ…えっと……うぐっ……ごめん…」
「………」
俺の話を聞き終えて目を瞑り、
ひたすらに沈思黙考に耽るフェイトたん。
その姿はこんな時に不謹慎だと思うけど、
つい見惚れてしまうぐらいとっても美しかった。
両手両足縛られてて、ちょっと面白いけど…。
(「お前がしたんだろがっ!」って怒られそうw)
暫くの静寂が流れた後、ゆっくりと目を開けて此方を力強く見詰め、優しい口調だけど微かに“憤り”を滲ませた声色で話掛けてくる。
「大体の話は分かった…。取り敢えずこれ、そろそろ本気で解いてくんねぇーか? 本当に痛くなってきたからよ!」
「あっ、うん。ごめん…」
俺はフェイトたんを拘束していたロープを、
そそくさと解く。
解放されたフェイトたんは手首や足首を擦り、勢い良く立ち上がったと思ったら、今度はそのまま屈伸運動などをして、柔軟を始める。
(その一連の動作が漏れ出る吐息と相俟って、ちょっとエロく感じた…)
惚けた表情で見惚れていた俺に、ニカッ!っと真っ白い歯を見せて笑顔を向けてくる。
「よしっ! 立てタクト!」
「えっ…?」
「立てって言ってんだよ。ホラ、早く!」
促されるがまま、俺は立ち上がる。
それを確認したら再びニカッ!っと笑って、ほんのちょっと距離を取り、腕を大きく振り始めるフェイトたん。
(腕を振る度に、その『たたわに実った大きな果実』が激しく揺れる…)
その行動に(正確には胸に)釘付けになっている俺の耳に、フェイトたんのハスキーな声が入ってくる。
「よぉーしっ!──歯ぁ食いしばれぇ、タクトォオッ!!」
「ふぇっ?」
その一言が放たれた瞬間に、
強烈な痛みと衝撃が俺の頬に走る。
「ぐぼェァアッッ?!?!」
おかしなヤラレ声を発しながら、
勢いよく壁まで吹っ飛ばされる俺。
血やら鼻汁やら色んな汁を吹き出し、
そのまま壁を背に崩れ落ちる。
「っしゃあああッ! あぁ~スッキリした、気が済んだぁ…。うっし! これでこの話を一旦終了っと。んじぁあ次の話に移るけどよぉ、取り敢えず立てよ。ホラ、手ェ貸してやっから。血も拭けって!」
そう言って優しく微笑んで、
手を差し伸べてくれるフェイトたん。
俺はその手を取らずに頬を擦り、睨み見る。
「イテテ…。──どうして? フェイトたん…」
嗚呼。
本当にどうして…。
「ん? 何がだよ?」
どうして…そんな優しい顔をしているの?
そんな素敵な笑顔を……俺なんかに向けてくれるの…?
教えてよ…フェイトたん…。
「何で…何で本気で殴んないの? “この程度”で済まそうとしているの…?──本気で殴ってきてよッ!!」
「はぁ!? いきなりどうした…?」
突然の俺の大声にビックリするフェイトたん。
構わず俺は続ける。
「フェイトたんが本気だったら今頃俺はこの壁ぶち破って、醜い顔面崩壊を晒しながら倒れている筈だよね? でも俺は失神すらしていない…。“手加減”してくれたって事でしょう!」
そう。
いくら女体化して弱体化してるとはいえ、フェイトたんの[鉄拳制裁]がこれぐらいで済むはずかない。
それに一発だけでもヤバいのに、フェイトたんが本当に本気だったんなら、今頃『フルボッコタイム・フィーバー♪』と称した壮絶な惨たらしい“独り私刑”が行われ、確実に瀕死状態の罪人がいたはずだ…。
──あのね、フェイトたん。
俺は自分の“最愛の人達”すら守れない、
情けないヤツなんだよ。
そんな顔を向けてもらえる資格なんて…優しくしてもらえる価値なんて、俺にはないんだよ…。
「フェイトたんは俺が憎くないの? 俺は…俺はフェイトたんの大切な家族を…ニーナやフィオナを……。あの日交わした男同士の約束もろくに守んないで、おめおめと帰ってきた負け犬なんだよッ?!」
「ちょっ、落ちつ──」
「口だけのクソ野郎なんだよッ?! ──フェイトたんが嫌いな…『筋も通せない最低なクズ』なんだよ!?」
むかし言ってたよね?
『嫌いなヤツ・気にいらねぇやつランキング!』みたいな話になって、その中に『筋を通さないヤツ・約束を守んないヤツ』が入ってたよね。
憶えてるよ。
そんときの俺、何個か当てハマってて冷や汗掻いて焦ったもん。
[また…嫌われるのかなぁ~]って…。
そしたら「お前じゃねぇーから気にすんなっ! 何があってもお前は俺の友達だよ♪」って言ってくれたよね。
あの時ものすんごく嬉しくて…ミルフィーに告白された時並みに嬉しくて、何故かスキップしながら帰ったもん。
それくらいフェイトたんは俺にとって大事な人なの。
そんな人から俺は、その人の大切な人達を……。
俺は───。
「だから…だからもっと本気でっ───」
「タクトォッ!!」
突然の大声に今度は俺が身体をビクッ!
っとさせてフェイトたんを見る。
フェイトたんはほんの一瞬切なそうな…悲しそうな顔をして、可哀想な子供を見る様な眼で俺の事を見ていた。
でもほんとに一瞬で、直ぐに頭を掻いて天井を仰ぎ、深いため息の後、俺と目線を合わせるように股を開いてしゃがみ込む。
(流石は元現役。その姿は様になっていた…)
髪色と同じで、真っ赤な紅蓮の炎を連想させる綺麗な瞳が、真っ直ぐに俺を射貫く。
その目力のハンパない威圧感に思わず視線を反らしそうになるけど、グッと堪えて見詰め返す。
そんな俺を見据え、ゆっくりと話掛けてくる。
「あのよぉ~タクト。お前何か勘違いしてねぇーか? 自分勝手にスイッチ入って、独りでバカみたいに盛り上がってんじゃねぇーぞっ!」
「へっ…?」
「俺は別にお前を許した訳じゃねぇー…。正直な話、今もものすんごくお前にムカついているし、今すぐにでもお前をぶっ殺してぇーって気持ちで溢れてる。なんならさっきの一発だって、俺的には納得出来る…スカッと出来る一発じゃなかったから、やり直してぇーと若干後悔もしている」
そう言って、
凛々しくも美しい顔を近づけるフェイトたん。
息を呑むほど神秘的で魅力的な紅蓮の瞳が、
尚も俺を射貫き続ける。
「でもな。そんな事をしてアイツらが…ニーナやフィオナ達が今すぐにでも戻ってくんのか? 違ぇーよな? そんな事したって何の意味も無ぇー。お前はバカでアホで変態だけど、賢いバカだ。利口なアホだ。頭が使える変態だ。俺が言いたいこと……分かるよな?」
「フェイトたん…」
幼い子どもに言い聞かせる様に…諭す様に話したと思ったら、またニカッ!と笑って、どこか安らぎと安心感を与えてくれる目をしながら、優しくワシャワシャと頭を撫でてくれる。
その仕草や言動は『年下の友達』や『仲の良い後輩』にするって感じより『まだまだ世話の焼ける弟をあやす、面倒見の良い頼れる兄』って感じがした。
(女体化してるから“兄”って言うより“姉”って感じだけど…)
されるがままの俺に、
フェイトたんは言葉を続ける。
「それにもし、お前の言った話が全て本当なら……お前のこった。どうせその状況に…もう手遅れの状況・状態になってるの分かってても、独りで全て背負い込んで、ひたすら馬鹿みたいに足掻いて踠いて苦しんで、どうにかしようとしたんじゃねぇーのか?」
「───ッッ!!」
俺は図星を突かれて目を見開いたあと、
顔を伏せる。
そんな俺の反応を見てより一層優しく微笑んで、
頭を撫でてくれる。
「やっぱりな…。じゃねぇーかなぁーって思ったんだよ…。 ──あんな、タクト。俺が言えた義理じゃねぇーって事は分かってんだけどよ、ちょっとだけ言わせてくれ……」
いつまでも伏せていた俺の頬を両手で優しく持ち上げて、確りと目線を合わせさせてくる。
その表情はとても穏やかだった。
「逃げんなっ。折れんなっ。何もかも諦めて楽になろうとすんな。この俺が認めた“信友”はそんなヤツじゃねぇーだろう? どうせなら最後の最後までみっともなく踠き足掻いて、俺にお前の『格好悪いところ』を見せてくれよ!」
そう言って、
満面の笑みを見せてくれるフェイトたん。
その笑みはたとえ姿が変わろうとも、昔から全然変わる事のない、幼い頃から俺が大好きだった“心友”の笑顔だった。
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