怪しい占い師5~女体化女房~
「一体いつから──。人ん家の食い物を勝手に食べていると錯覚していた?」
「おい、コラァ! その食い散らかした残骸は何だぁ? あ”あ”ん!?」
「えへっ♪ テヘペロ☆ ──フェイトぉ~。チョココロネ食べて良いぃ~? あと、これって何処から食べるうぅ~?」
「『駄目よ、タクトニー。お腹壊しちゃう…』とでも言うと思ったかあ! 気持ちわりぃー裏声使ってんじゃねぇーぞ! あと、名前呼びすんなっ! 今更お前に名前だけで呼ばれると身体中がむずむずすんだよ! それから俺は小さい部分からだっ!」
「ウェヒヒヒヒww 何だかんだでノッてくれるツンデレ乙ッ! やっぱりフェイトたんは俺の最高の親友だよ。なぜか持ってた『赤いリボン』を特別にあげちゃうw」
「おっ、おう。あんがとよ…。──ってちがぁーうっ!! またツンデレって言ったな! あーキレた、もうキレた。今の俺、何するか分かんねぇーッ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
お姉さんの話は大体が俺が言った通りの内容だった。
本来、四女神は【勇者選任の儀】の時にちゃんとした勇者を選ぶ筈だった。
しかし女神同士のトラブルに巻き込まれてアクシデントが発生し、今の間違った勇者達が選ばれてしまった。
四女神は当初焦ったが【勇者のスキル】を与えらた者は《勇者の心》に目覚めて、例え邪な心を持つ者でさえ幾分かはマシになるならしい。
それで四女神は『人選はちょっと違ったけど、まあ大丈夫だろう。何かあったらこっそりと対応しれば良いし』と高を括ったらしく、現に過去にもそういった“事例”があって物事を軽く見てしまったらしい。
けれど、選んだ人物達が余程の『どうしようもない屑』だったため、かなり慌てた四女神たちだったが、刻既に遅し…。
勇者に選ばれた屑どもはあっちこっちに被害をもたらし、何の関係のない人々をも巻き込んでいた。
『こっそりどころじゃなくなってきた…。このままじゃあ駄目だ! でも、今更「勇者は間違った勇者です!」なんて言えない…。一体どうしよう……』
と漸く事の重大さに気が付いた四女神は母である【大聖母神】に相談。(と言う名の泣きつき)
その母も、
『どうしましょう、困ったわ…。男神に…特に夫にバレでもしたらあの娘達は…。それどころか、女神全員どんな厳しい罰を科せられるか…。──そうだわ! 秘密裏に他の人に勇者の代わりをしてもらいましょう♪ それでその人に問題を全て片付けてもらいましょう! 我ながらなんて名案なのかしら♪』
と何処か楽観的に考え……てゆーか、アホ丸出しの考え方をし、その白羽の矢が立ったのが俺らしい。
「なんか……聞いてて頭が痛くなるってくる話っすね。怒りを通り越し過ぎて、呆れるっつーか…。寧ろ嗤えてくるっつーか…」
「ホントにね…。改めて女神の代わりに謝らせて。本当にっ、本当にごめんなさい!!」
深々と頭を下げるお姉さん。
俺は浅く溜め息を吐いて、
「だからそれやめてくんないっすか? お姉さんが悪い訳じゃないっすよね? ──良いっすよ。その『女神からの依頼?』を引き受けても!」
「えっ…?」
美しい顔でキョトンとする。
かわいい♡
俺は続けて返す。
「だからその【勇者代行?】を引き受けても良いって言ってるんすよ。まあ、俺なんかで良ければですけど…」
「ううん、そんなことない! 本当に助かるわ…。でも突然どうして? あんなに嫌がってたのに…。それに自分で話しておいてなんだけど、勝手で都合が良すぎるこんな怪しい話をよく信じてくれるわね。普通ならもっとこう…警戒するもんじゃない?」
お姉さんが言いたい事はなんとなく分かる。
こんな突拍子も無い話、普通なら怪しむ。
いくら気が滅入ってて心身共にズタボロだからって、出会ったばかりの赤の他人の言う事を簡単に信じるなんてどうかしている。
だけど何故かこの人なら信じてもいい気が──
騙されてもいい気がした。
「う~ん…。なんとなくッスかねぇ~? お姉さんになら良いかなぁ~って思って!」
「それは…どうゆう意味かしら…?」
「初対面って感じがしないんっすよ!」
「──ッ!!」
「昔から知ってる人ってゆーか、お姉さん見てると自然と安らぐつーか、頼み事されたら二つ返事でOKしちゃう存在つーか…。自分で言ってて意味不明なのは分かってるんすけど…」
驚愕の表情を一瞬浮かべるお姉さん。
けれども直ぐに崩し、優しく微笑んでくる。
「ほんとに…貴方って子は……」
「でへへ…。それに、俺の好きな歌姫が歌っている曲の中にあるんスよ。『呆れる程信じ抜いて、無様に嗤いたい』って歌詞が。俺それを聴いて『そんな生き方出来たら良いなぁ~』って思って…。んで、それから一度誰かを信じる時や何かを成そうと決めた時にそう思うようにしてるんすよ。お姉さんはそれに値する人つーか…。仮に騙されても、笑い飛ばして許してあげようと思える存在……みたいな? ──すいません。自分で言っててなんだけど、気持ち悪いっすね…」
「ううん、そんな事ないっ! ──ありがとう…」
何故か瞳を潤ませて更に優しく微笑んでくるお姉さん。
俺は気恥ずかしくなり、頬を掻いて疑問に思ってた事をぶつけて話題を変える。
「そう言えば、何で女神様は俺を指名したんっすか? 俺、大した【能力】なんて無いっすよ。身体の頑丈さだけが取り柄のクソザコ童貞だし…。もしかして……本来選ばれるはずの勇者だったとか?w」
自分で言ってて悲しくなる…。
だけど本当に、俺は大した能力がマジで無い。
もし、ミルフィーやフィオナたちの様に強力なスキルがあれば、幾分かは今の状況が変わっていたのかもしれない。
まあ過ぎた事だから、どうでも良いけど…。
だから少し冗談混じりに、120%あり得ない事を聞いてみた。
するとお姉さんは首を横に振り、
「ごめんなさい、それは分からないわ。ただ、貴方じゃないと絶対にダメって強く推されたの…」
と困った顔で返答する。