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魔術師の少女、世界端末の少年  作者: 海山優
閑話

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閑話『こぼれ話・刀河火灼の副職』

※空海成世が刀河火灼とスノウの住居に居候するようになってから一、二週間ほど経った頃の話。

「女子高生って、音だけだと『女子高生』なのか『女子校生』なのか判断がつかないよね。だから私はしっかり『女子高校生』って言いたい」


 スノウが真剣な顔と口調でどうでもいいことを言い出す。


 俺は触れたくないので、ノーマル技を受けたゴーストタイプのように何もきかなかったことにした。そして物理的に距離を取った。大画面テレビの前に設置されている高そうなソファからそそくさと離れ、部屋の隅にある安楽椅子に身を沈める。


「え、えっ、え?」


 実体を持っている成世には当たってしまったらしく、戸惑い気味に俺とスノウを視線で二度見する。

 こっち見んな。大抵の怪異は認識した時点でアウトだよ。


 技が通じたのを感じ取ったのか、スノウは成世へと照準を定めた。


「女子校生だと大学生とか短大生、専門学校生まで範疇になってしまって、特別感が薄れるよね。やはり大事なのは『高校に通う女子』であって、『何かしらの学校に通う女子』ではないと思うんだ!」

「そんな助平オヤジみたいなことを力説されても!」


 至極真っ当なツッコミを返す成世。


 律儀なやつだなぁと思いながら遠くから補足する。


スノウ(そいつ)、定期的に下ネタとか発するからな」

「どんな習性っすか!」

「溜まっているんだろ」

「ストレートな表現! ていうか、それなら先輩が相手をすればっ」

「話の途中だよー」


 こちらに退避しようとする成世をスノウはしっかりと捕まえる。


 ——しかし、逃げられなかった!


 というテロップが流れたような気がした。大魔王かよ。


 その後、JKの希少性についてスノウが熱く語り、成世はツッコミを交えながらもなんやかんやしっかりとその話題についていった。


 ひとしきり語ったからなのか満足げな表情を浮かべるスノウ。


 そんなスノウから解放された成世は、疲れ切った顔をしながらこちらへとやってきて手近な椅子に腰を下ろした。


「あの人、あんなこと話す人だったんですね……」

「どんな話をする人だと思っていたんだ?」

「もっとこう、魔術の深淵についてとか、哲学的なこととか……?」

「お前って有名人の生態に夢見てるタイプの人間?」

「夢見ちゃ悪いかっ!」


 見ているのか……。


「悪くはないけど、悪いことは言わないから早めに現実を見た方がいいぞ?」


 夢は実存性のない存在に対して抱くべきであって、実存するモノに対しては現実的な捉え方をすべきだと思うよ俺は。


「先輩みたいな非現実的な存在に言われると腹立ちますね」

「お前の目は節穴か? 俺はかなり現実的だろ。地に足ついているよ。もうね、足の裏が完全に地面とくっついているね」

「扁平足じゃないスか。病院行った方がいいっすよ」

「心持ちの話だよ」

「心の扁平足ってどんな感じなんでしょうね……」


 知らん。


「秦くん病院行くの?」


 スノウが話題に入ってきた。だいぶ微妙なところから拾うのな。


「あぁ、実は癌でな。若いから進行や転移も早かったようで、もう余命が半年もないと言われたんだ……」


 暇なのでとりあえず思いつくままに口からでまかせを出してみる。なお、若いと進行や転移が早いというのは実際のところ正しいデータがあるわけではないので諸説あるそうです。


「………………」


 スノウが固まった。どうやらこちらの言葉の意味を処理するのに時間が掛かっているようだ。


 成世が「どうしてそんな嘘を……?」という目でこちらを見てくる。成世からの「正気かコイツ?」という視線を無視し、スノウの胸元を指差して提案する。


「今ならこのおっぱいに触っても気付かれないのでは?」

「恋人にショッキングな嘘を吐いてフリーズさせた男の言動としてはおよそ最低な部類の提案!」

「いや、触るのは俺じゃないよ? 俺はいつでも触っていいって言われているから。二十四時間いつでも触り放題のフリーパス」

「ろくでもないものが発行されているッ!」

「で、どうよ。おそらくだが今ならいけるぞ。スノウはこんなでもその辺の意識が高いようでな。こういう機会でもないと触れないぞ」

「まぁ、興味がないかと言えば嘘になりますね。正直なことを言いますと一度でいいからこの連峰を登ってみたいとは思っていました」


 ツッコミを入れつつもむっつりスケベだったらしい成世は内心を素直に吐露した。


 でもまぁ、気持ちは理解できる。スノウの肉体は一つの芸術作品と言ってもいい。人体という器が至るべき一つの完成形であり、それが内包するのは明確な美だ。スノウが水着姿を披露したときなどは顕著だったが、誰であろうとも一目見た際に抱く感情は下卑た劣情などではなく、息を呑むような感銘だ。それほどまでにスノウの肉体は美しい。異性だとか同性だとか、そういうくだらない要素を無視して万人を唸らせる。


 まぁ、二度見する頃にはだいたい邪な目で見ることになる。

 うん、だって実際にめっちゃエロいし。


 どうして人間はおっぱいに惹かれるのか、それはね、そこに山があるからさ……。


「最近さ、巨峰って文字を見るたびに『これはえっちな言葉では……?』と思うことがあるんだが、実際のところ後輩はどう思うよ?」

「それを聞かされた私の心情をまずは慮って欲しかった気もしますが、実のところ私も『この単語は卑猥では?』と思いつつあったので、それについては頷けますね先輩」


 俺と成世はがっちりと握手した。

 アホな先輩後輩だった。


 そんなことをしている間に、スノウが立ち上がり抜刀していた。


 ……抜刀!? なんで抜刀!?


 スノウの目が据わっており、いつになく真に迫っている。というか普通に怖い。日本刀を構えたスノウの尋常ならざる雰囲気に気圧された俺と成世は身を寄せ合いガタガタと震える。


「待て! 話をすればわかる!」


 手を突き出し、止まるよう促すがスノウは止まらない。


 スノウは意を決したかのように呟く。


「言われなくてもわかるよ。癌に対する一番効果的な治療、それ即ち切除!」

「刃物の大きさから言って、ソレで出来るのは切断だと思います! あと私は関係なさそうなので先輩はこの手を放せ!」


 俺は自分だけ逃れようとする後輩の腕を掴み続けている。何発か蹴られたが掴んだこの手は決して離さない。


「逃がすか! 俺の身に何かあればお前もくたばるんだぞ! 一心同体みたいなモノなんだから助けろ!」


 俺と成世は一蓮托生の間柄ではある。……いや、成世の身になにかあっても俺は問題ないので、言うほど一蓮託生ではないか。どっちかというと、なんだ、アレか。道連れ?


「私と先輩の間柄、そんな言い方できるような綺麗なモンじゃないでしょうが!」


 うん、道連れが正しいっぽいな。もしくは巻き添え。


 ぎゃあぎゃあと喚くアホ二人を余所に、真剣を構えながら真剣な表情をしているスノウが問うてくる。


「それで秦くん、癌の場所は? 胃? 大腸? 肝臓? 肺? 脳腫瘍じゃなければどうとでもなると思うけれど、脳へ転移済みなら私も覚悟しなくちゃいけないね……」

「俺にはそんな覚悟ないよ! 助けてくれ!」

「任せて、今私が助けるよ!」


 会話のドッジボールだった。


 暴走するドクタースノウ(無免許)の執刀が行われようとしたその瞬間、玄関へと続くドアが開いた。突然の闖入者に止まる俺たち。


「…………アンタら人様ん家でなに刃傷沙汰おっぴろげてんの?」


 その正体は俺たちが現在進行形でたむろしていた藤河邸の家主である刀河火灼だった。


 ……家主なら闖入ではないな、うん。


 そして、真っ先に口を開いたのはスノウだった。


「火灼! 秦くんが癌なんだって! だから早いとこ切除しないと! 手伝って!」


 切羽詰まったスノウの嘆願に刀河は眉をひそめるだけだった。


「はぁ? いや、天木に癌とかないから。何言ってんのアンタ……。あー、ちょうどいいや、ほれ」


 そう言って刀河は提げていた鞄から封筒を取り出し、こちらに放ってきた。成世から手を離してそれをキャッチする。


「なにこれ」


 渡されたということは開けろということだと思い、封を切る。スノウは興味津々といった様子で俺の手元を覗き込んでくる。刀を持ったままは怖いから納刀してくれ。そう目で訴えたら納刀してくれた。以心伝心である。


「天木の健康診断書。先週に受けさせたやつ」

「あー、あれか」


 夏の世界端末騒動後や秋の空海家騒動後でもお世話になった病院――和草(にこぐさ)病院にて、俺は定期的に健康診断を受けさせられていたりする。そして、その際の採血や聴診など諸々全てを担当しているのは刀河本人なのである。


 ――俺のかかりつけ医は同級生。


 なんだか少しばかり想像力を掻き立てられる文字の羅列ではあるが、現実は非情なので特段面白い部分はない。刀河の白衣姿は女医というよりかは研究者といった表現が適切なのである。傘のマークの製薬会社勤務と言われても違和感はない感じ。


「問題になるような項目はなかったし、至って健康そのものだよ」

「なんだぁ……」


 刀河の言葉を受けてスノウは安堵したかと思えば、こちらの目をじっと見て、指で額をつついてきた。


「そういう冗談、好きじゃない。できればやめてね」

「……はい、ごめんなさい」


 ――実際、軽率な冗談だったと思う。


 反省する。


「最悪の場合、頭さえあれば生命維持もなんとかなるし、秦くんが生きていることが一番大事だからって、首から下を切り落とすことも考えていたんだよ!」


 ……めちゃくちゃ物騒なことを言われた。


 マジで気を付けよう。俺はそう心に固く誓った。



 □■■□



「成世ちゃん。今度はあなたも一緒に健康診断を受けさせるからね」


 俺がマリアナ海溝より深く反省していると、刀河が成世にそんなことを言っていた。


「え、私もですか……?」


 ちょっとばかり嫌そうな表情を浮かべる成世。


「なんで嫌そうにするのよ。私の保護下にいる以上は月一での定期健診は絶対よ。あんた、ただでさえ内臓とか色々なのが無かったり代用したりしているし、移植した眼球だって私の手で定期的に調整が必要なのよ。わかったら返事」

「は、はーい……」


 正論で殴られた成世は素直に頷くしかなかった。


「刀河って、意外と面倒見がいいよな。俺も結構助けてもらっているし、そういう細かいとこまで注意を向けてくれているし」

「そりゃね、色んな数値(データ)のとれる貴重なモルモ……被検体の健康管理は研究者としては当たり前よ」

「なあ、今お前さん実験動物(モルモット)って言いそうになったよな? ていうか、言い直しているけれど被検体って言い方も大概人道に反した呼称な気がしますよ?」

「気にしない気にしない」

「……なぁ刀河さん。採血後の血液とか、検査後は然るべき方法で処分しているよな?」


 目を逸らされた。


「スノウさんや、あいつヤバいのでは? そのうち俺のクローンとか作ったりしない? 大丈夫?」

「うーん、魔術師に倫理観とか期待しない方がいいと思うけど」

「えぇ……」

「まぁ、もし秦くんに害が及ぶようなことになったら私がしっかり仕留めるから大丈夫だよ」


 任せとけとばかりにスノウは胸を張るが、それでいいのか……?


「スノウに仕留められたくないので、無茶はしないよ。天木に害が及ぶようなこともしない」

「ほら、火灼もああ言っているし、大丈夫大丈夫」

「そっかー……」


 一先ず納得してみるが、一抹の不安が残った。

刀河火灼に「それじゃあ本職は?」と訊くと「JKだ!」と元気よく返されます。

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