表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の少女、世界端末の少年  作者: 海山優
三章『その目に映るのは』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/86

◆Interlude-3:年始

【一月一日/昼前】


 俺の恋人ことスノウ=デイライトが深々とお辞儀をした。


「初めまして、秦くんとお付き合いをさせていただいております、スノウ=デイライトと申します」

「これはこれはご丁寧に。秦の父です」


 親父がそれに応じて頭を下げた。流石は社会人と言ったところか、淀みのない丁寧な礼だ。社会の歯車を志望している身としては見習わなければならない。


 こちらの家族に対して新年の挨拶をしたいとスノウが望んだので、初詣からそのまま我が家に直行した結果の光景である。


 スノウは丁寧に外堀を埋めていく。もう埋める場所などないというのに、コンクリートを流し込んで固めているようなモノだ。そのうちモルタルで覆うのだろう。職人の仕事だね。逃げるつもりはないけれどちょっと怖いね。


 家に帰ってスノウを招き入れ、リビングに続く扉を開けてみれば我が家のリビングには俺を除く天木家の四人が集まっていた。


 リビングとは言うが、我が家はリビングとダイニングが一緒になっているタイプで、リビング側にはローテーブル(冬にはコタツになる)とソファがあり、ダイニング側にはダイニングテーブルが設置されている。


 父と弟はダイニングテーブルに好んで着き、妹と母はローテーブル周辺のソファや人をダメにするでかいクッションに沈んでいることが多い。なお、テレビはリビング側に設置されている。


 年が変わろうとも、いつも通り父と弟はダイニングチェアに座っており、母はソファにふんぞり返り、妹はコタツでだらけている――よく見る一家団欒の光景だ。


 扉の前で立ち止まっている俺とスノウを見て三者三様の表情を浮かべていた。(四人だけど)


 家主の一人である親父が俺とスノウを見比べ、何かを察したのか挨拶を交わしたのが今の出来事である。


「雪ちゃんあけおめー」


 コタツに入ってふやけていた妹の(かなで)が片手をひらひらとさせながらスノウに笑いかける。『雪ちゃん』というのは奏しか使っていないスノウの愛称である。この愛すべき妹とスノウは俺の知らないところで遊んでいるそうです。仲が良いですね……。


「スノウちゃんいらっしゃい」


 母さんは親父と違い、気楽そうに歓迎の言葉だけを述べる。


「スノウさん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


 弟の(とも)が椅子から立ち上がって新年の挨拶をする。我が家で一番しっかりしているぜ。俺の心を読んだのか親父が「僕は……?」という顔をしている。知らん。


 とまぁ、そんな慣れた様子の面々を見て、親父が言葉を漏らす。


「もしかして、スノウさんと面識がないのは僕だけ?」

「そうよ」


 母さんの肯定に親父が抗議する。


(こおり)さん、除け者はどうかと思います」


「父親なんてそんなものよ。あなただって、私のことを義父さんに紹介したのは結婚の報告をしたときだったでしょ? けれど、義母さんとかには前もって合わせていたじゃない。むしろ、交際時点で合わせてくれるだけ秦はあなたのことを尊重しているわ。良かったわね。あなたちゃんと子供に敬われているわよ」


「そうかな……そうかも……」


 あっさりと丸め込まれる親父。親父ぃ……。ちなみに、郡とは母さんの名前だ。天木郡。三児の母。我が家の二本ある大黒柱のうちの一本。


 納得する親父の背に哀愁を覚えながらも、俺はスノウを「こっちこっち」とリビング側に引っ張る。カーペットはリビング側にしか敷かれていないからであり、フローリングに直に座るのは避けたいからだ。別に俺一人ならいいけれど、スノウもいるので、一応。


 テレビの近く、要はリビングダイニングを一望できるところに正座すると、悟ったスノウも横に正座する。


「えー、新年あけましておめでとうございます。今年も一年、どうか何卒よろしくお願いします」


 一礼すると、スノウがそれに続く。


「天木家のみなさん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」



 □■■□


 

 この後の予定としては、親父の実家で親戚が集まるのでそこに一家で向かうだけであり、子供の立場としては仏壇に線香をあげて挨拶をしたら、あとは叔父やら伯母やら祖父母やらに挨拶回りをして小言やら説教やらと一緒にお年玉を頂戴するぐらいだった。


 その程度のはずだったが、俺は今、頭を抱えていた。


 隣に座る奉が背中を優しく撫でてくれる。俺の弟は世界一だ。世界一の具体性は知らん。奉の優しさが手から伝わり背から身体全体に染み渡る。バファリンから優しさだけを抽出したら俺の弟が出来上がると言っていい。過言である。どうやら錯乱しているようだ。


 とりあえず落ち着くために友人である玖島にメッセージを送ることにした。


【彼女を連れて親戚の集まりに行くことになった。どうすればいい?】


 スノウの三ヶ日の予定が空いていると知った母が「一緒に行こう」と言い出し、スノウがこれを拒否せず「いいんですか?」と喜び、母が祖母に連絡して一名追加の旨を告げて了承を取っていた。嫁姑仲が良好なのは大変喜ばしいことですよね……。とまぁ、そんな感じにとんとん拍子で進んだ結果だった。


 惜しい点としては、天木家とスノウの接点となる俺には特に相談とかがないことである。なんで?


 送信。……一瞬で既読がついた。暇なのか?


[そうか、式には呼んでくれよ]


【ああ、招待状を寄越してやる】

【ただし、地獄への招待状だがなぁ!】


[大丈夫か?]

[なんで追い詰められてるのお前]


 どうやら俺の精神状態が普通ではないことを察したようだ。下手なボケに走ったら心配されるということに引っ掛かりを覚えるが、それよりも玖島の理解ある心配に心が揺れ動いた。


【トゥンク……】


[やめろ、トキメクな]

[ほら、一度深呼吸して、落ち着いて話してみ?]


【冷静に考えて欲しいのですが】

【親戚連中に彼女を紹介するというのは、かなり心にクるものがあります】


[そうだな]

[俺も他人事だから笑っているけれど]


【笑ってんじゃねーよ!】


[絶対にイジられるし、根掘り葉掘り聞かれるだろうから、正直その立場にはなりたくない]

[親戚って、一番デリカシーないよな]


【そこまでわかっていて、笑うんですか?】


[人間、笑うしかないときもある]


【少なくとも、今ではない】


[じゃあ、いつ笑うの?]


【いつだって人を笑うな】


[今だよ。今なんだよ、天木]


【いいこと言っている雰囲気出してるけれど、何一つ納得できんが?】


[納得しとけよ。それが大人になるってことだぞ]


【世知辛い】


 ……脳の稼働を停止させた会話を経たことにより、少しばかり余裕を取り戻せた。落ち着いた俺はメッセージのやりとりを終わらせることにした。冷静に考えると今は玖島と話している場合ではない。暇人に付き合ってる暇はないのである。


【かゆ……うま……】


[何があった!?]


 携帯端末を鞄に突っ込む。


「やっぱりよぉ、人間いつまでも俯いてちゃいけねぇよな。前を向いてこそが人間だ。な、奉よ!」


「兄さんがその結論に至った経緯が一切理解出来ないけれど、箴言だと思う。人は前を向かなきゃ歩けないからね」


 ウチの末っ子の数少ない欠点として、俺のことをわりと正しいと思っている節がある。定期的に奏が「兄はダメだ」と言い聞かせているのだけれど、俺が弟の前ではええかっこしいなのが災いしてか「そんなことないよ」と、逆に奏が嗜められる始末だ。日頃の行いである。「これは洗脳教育では……?」とか妹が小声で言っていたけれど、そんなことはない。


 気を取り直して前を向けば、妹と彼女がキャピキャピと楽しそうに話している。


 天木家の所有する車は六人乗りの車だ。家族総出の場合、運転好きな母が運転手を務めることが殆どであり、今回も例に漏れず母は運転席に陣取り楽しそうにハンドルを握っている。親父はだいたい助手席だ。希望すれば交代も可能だけれど、妹が時折座るぐらいで、だいたい親父の指定席だ。


 いつだったかのテレビで、車の座席で死亡率が一番高いのが助手席と聞いて親父以外座らなくなったという経緯が存在する。シートベルトの着用義務がなかった時は、シートベルトを着ける習慣がなかったこともあって後部座席が危なかったとかどうとか。ウチの両親はそこらへんは口酸っぱく言うタイプなので、妹も弟もシートベルトの着用はしっかりする。


 後部座席中央にはスノウと奏が並んで座っており、後部座席後方には俺と奉が座っている。


 普通、ここは俺とスノウが並ぶんじゃねぇの? とも思ったが、車に乗り込んだ妹が嬉しそうにスノウを隣に呼び込んだので、兄は黙った。隣に座った俺に弟が嬉しそうに話しかけてくれるので、兄は喜んだ。



 □■■□



 特に問題なく父の実家へと到着する。


 父の実家はこれぞ日本の田舎と呼べる場所にある。こち亀の時空ヶ原二歩手前みたいなところと言えばわかりやすいだろう。……わかりやすいか? そんな場所にあるため、広い土地をふんだんに使った日本家屋であり、これが結構でかい。小さいとき、立派な屋敷=豪邸=金持ちという三段論法から祖父に「じいちゃんは金持ちなの?」と聞いたことがある。それに対して祖父からは、


「心は、な」


 とだけ言われた。当時は意味がわからなかったので適当に頷いて「金持ちなら小遣いをくれ」とねだったものだが、今にして思うと…………いや、今になっても意味わからんな。祖父さんは胡乱な性格をしているので、深い意味はなかったのだと思う。


「いらっしゃい、よく来てくれたね」


 祖母が出迎えてくれる。祖母は還暦と古希のちょうど中間だというのに矍鑠としており、まだまだ人生折り返し地点みたいな風格をしている。百三十まで生きるの……? とはいえ、人間の平均寿命は理解しているようで「ひ孫をこの腕で抱くまでは死なない」みたいなことを言っていたこともあり、孫の中では俺が二番目に年長者なこともあってたまに圧力を感じる。一番の年長者で去年社会人になった従姉妹は消極的(他者に強要しないタイプ)な反出生主義になったらしく、祖母とは一度口論に発展したらしいが、昨今の多様性とかを尊重する風潮も相俟って祖母側が納得したらしい。そのこともあって、祖母がスノウをとても歓迎していた。どんな理由であれ、歓迎されるのはいいことだ。


「秦はえらい別嬪さんを捕まえたねぇ!」


 表現。表現どうかと思うよ祖母(ばあ)さん。捕まったんじゃないよ。出会ったんだよ。


「捕まえたのは私の方です!」


 そうだね。そっちの方が正しいね。正しいけれどね……。こう、もうちょっと表現をね?


「そうかいそうかい!」


 そこで満足そうに頷いて終わるのもどうなのかな。


 とまぁ、そんなやりとりやら軽い挨拶やらを玄関でして、そのまま広めの客間へと向かう。親戚が集まるときに食事をする部屋だ。十数人が集まっても大丈夫。


 俺たちが最後だったようで、今日来ると聞いていた親戚たちは全員いた。何人かはすでに出来上がっているようで、顔が赤いし瓶ビールが何本か空いている。例年通りに新年の挨拶をして、唯一の異例であるスノウを紹介したところ親戚一同にどよめきが起きる。


 伯父と叔父に挟まれ、肩を組まれ、部屋の隅へと連れられる。


 顔が赤くなっている叔父(父の弟のほう)が興奮気味に聞いてくる。息が酒臭え!


「おい秦、これはどういうことだ? あんな子どうやって捕まえた?」


 捕まえ方聞くとかなんなの? ポケモンか? ポケモンなのか? スノウは伝説のポケモンかなにかなの? でも実際に捕まってんのは俺の方なんだよなぁ……。そっか、つまりは俺がポケモンだったのか……。モンスターボールどこ? おうちに帰りたい。


 黙秘権を行使しようとする俺の背中を伯父(父の兄のほう。この人の長女が反出生主義)から背中をバシバシと叩かれる。


「あの秦が女を連れてくるとはなぁ。そんな雰囲気がなくて心配していたけれど、杞憂だったな。いやー! それにしてもあんな美人を捕まえるとはやるなぁ! お前も(さとし)の息子ってことか!」


 聡とは親父の名前である。そうだね。カタカナにすればなんかポケモン捕まえるの上手そうな名前だね。


「あの、線香をあげてきたいのですが……」


 思わず敬語になる。


「おぉ! そうだな、行ってこい! ご先祖様にもちゃんと報告してこいよ!」


 解放される。父母弟妹は先に行っているようだった。置いてかないで欲しい。薄情ではなかろうかと思っていると、伯母や従姉妹に捕まっていたスノウが動こうとするこちらに気付く。


「どこ行くの?」

「仏壇に線香上げてくる」

「私もいい?」


 …………いいのだろうか? 判断ができないので祖母に視線を向ける。


「いいよ。スノウちゃんも供えてきなさい」


 許可が出たので大丈夫だろう。お供えの作法とか決まりとか詳しくはないけれど、祖母が大丈夫と言っているのであれば少なくともここでは問題ない。


「ほら」


 連れて行くために手を差し出すと、スノウが掴んでくる。見ていた従姉が口笛を吹く。酔っ払いめ……。



 □■■□



『一月一日/夕方』


 ——酒は飲んでも飲まれるな。


 度々耳にする標語だ。酒を飲まない未成年の俺ですらやや聞き飽きた言葉だが、聞き飽きるほど言われているだけあって至言なのだろう。


 極論として、酒を飲んだら死ぬ。


 判断力が落ちて色々とやらかして物理的にだったり社会的にだったりで死ぬこともあるし、飲み過ぎれば急性アルコール中毒でぽっくり逝くこともある。定期的に飲めばシャイで寡黙な肝臓ちゃんや膵臓くんがひっそりと息を引き取ることもままある。キツいときはちゃんと声に出すべきだというのを俺たちは臓器から学べる。それ以前に無茶をさせるなという話でもある。無茶なことをさせられている側は声を上げられないという寓話なのかもしれない。教訓的だね。


 さて、どうしてこんなことをつらつらと考えているのかと言えば、目の前が死屍累々とでも言いますかね? 累々っつーか三名なのですけれど、これらは無謀にも大蟒蛇(オオウワバミ)に挑んだ蛮族どものなれ果てですね。


 ——ことの発端はこんな感じだ。


 伯父がこんなことを言い出した。


「秦! 祝い酒だ! 飲め!」

「こちとら未成年だぞ!」

「ちょっとなら大丈夫だから!」

「ちょっとって言いながらなみなみとビールを注がない!」

「いいかい秦、こういう機会に少しは自分の許容量を知っておいた方がいいんだ。聡は酒がてんでダメだけれど、郡ちゃんはザルだったりと、お前は親が両極端だからな」


 ふむ、確かに。……確かに?


「一瞬納得しかけたけれど、それも含めて成人してからでいいでしょうが。未成年が飲む理由にならねぇ!」


 やんややんやとやり取りする俺と伯父。そうこうしていると、伯父の手からグラスがひょいと取り上げられる。二人して手の主へと視線を向けるとスノウだった。スノウがたおやかに微笑み、それに伯父がほぅと感心する。甥の恋人に見惚れるのやめてくんねぇかな。でもスノウさん美人だもんね。仕方ないか。


「私が飲みますよ」


 そう言って、ビールを一気に呷る。グラスを空にしたスノウを見ると白い髭ができている。ぺろりと、口の周りについた泡をなめとる。


「おぉ! スノウちゃんイケるクチかい!」

「私を潰せたら大したモノですよ?」


 とまぁ、そんな感じでスノウと伯父が飲み比べを始めた。


 飲み比べは急性アルコール中毒の危険性があるので良い子は真似しちゃダメだぞ。良い子はそもそも酒飲めないね。そうだね。


 現役女子高校生とお酒を飲んで燥ぐ中年。……あれ? これダメなやつでは? と思うけれど、伯父の奥さんである晴美(はるみ)さんは特に気にしていなさそうなのでセーフなのだろうか。一応、確認するか。


「晴美おばさん」

「おばはいらない」

「晴美さん」

「お姉さんでも可」

「晴美さん」

「…………どうしたの?」


 少しばかり不満そうだ。晴美さんは独特な間があるので、会話がよくわからんことになる。四方山話でいいのであればそれでもいいのだけれど、聞きたいことがある場合は少しの脱線程度なら気にせずに主題を押し通すのが会話のコツだ。


「あなたの旦那が女子高校生と酒飲んでますけれど、アレはいいのでしょうか? キャバクラやガールズバーもびっくりの脱法具合ですが」

「あの人もたまにはハメを外したいのでしょう」

「外していいんかい」

「外していいハメなら私はとやかく言わないわよ。あの人、子供とお酒を飲むことが夢だったのだけれど、長女も次女も飲まないからイジケていたのよ」

「あぁ……、俺に執拗に勧める理由はそれか……」


 伯父は娘が二人なのだけれど、あれで息子との触れ合いにも憧れがあったようだ。そういえば昔、キャッチボールに付き合わされたことがあったな……。


 と、そんなことをしているうちに伯父が潰れた。二番手に伯父の娘である従姉が名乗りを上げる。


 従姉が潰れた。テキーラをショットで五杯。あんな小さいグラスで何杯か飲んだだけで人って潰れるの? 酒怖いな……。


 次に叔母の夏織(かおり)さんが潰れた。夏織さんは親父の妹——四兄弟の末妹であり、旦那さんと小学生の娘に呆れた顔をされている。


 とまぁ、そんなわけで今に至る。


 見事三人抜きを果たしたスノウはといえば、ケロリとしている。その白皙が朱に染まっている様子はない。


 天木家の面々は「それなりに飲める」という自負があったのだけれど、見事にその自信を叩き折られていた。各々の配偶者が敗北者を寝所へと運ぼうとする。


「はい水、たくさん飲ませておくんだよ」


 祖母がペットボトルを配り、様子を見ておくように注意している。注意するなら無茶な飲み方をさせなければいいのではなかろうか。と、そんなことを思っているとこちらにも水を渡される。スノウに渡せということなのだろう。無言の指示に従い、未だに酒をちびちびと飲むスノウの隣に座り、水を目の前に置く。


「はい」

「うん? あぁ、ありがと」


 ただ、特に水を飲もうとはせずに手酌を続ける。ゆっくりとこちらへと身体を傾けてきて、こちらの肩へと頭を乗せる。この行為を囃し立てるような人はもうこの場にはいない。弟妹や両親、年下の従兄弟連中は居間に行ってパーティゲームをしてるし、客間に残っていた祖父と叔父は趣味である釣りについて熱弁を繰り広げており楽しそうだ。祖母は伯母と一緒に片付けを始めており、手伝おうとしたら「いいよ」と一蹴された。


「一応聞くけれど、酔ってる?」

「んにゃ、全然」

「ていうか、お前さん酔えるのか?」

「アルコールでは無理かなー。身体が常に最適化されるから、そういったのはすぐに分解されちゃうし」

「なにそれすごい。むしろ何でなら酔えるんだ?」

「秦くんにはいつだってべろべろだよ」

「音がイヤだな……」

「秦くんにはいつだってメロメロだよ」

「惚けているってのはある種、酔っているようなモノなのかね」

「そう聞くと、人が酔いたくなる理由もわかる?」

「どうだかな。酒で酔ったことがないからわからん。経験のないことに言及するのは難しいだろ」

「…………」


 スノウからの返事がない。


「まぁ、成人になったら飲むし、そんときにはわかるだろ」

「………………」

「なんで? なんで黙るの? 怖いよ?」

「秦くん」

「はい」

「最初の一杯は私と飲もうね。予約で」

「え、あぁ、うん。はい」

「約束だからね、小指出して」


 言われるがままにスノウと指切りをした。


 ふと、気になったので訊ねる。


「そういえばスノウさんや、お前って酒を飲み慣れていたりする?」

「まぁ、本国では普通に飲んでたしね。あっちじゃ十八歳から買えるし」

「酔えないのに?」

「……いや、普通に味を楽しんでたからね? お酒って酔うためだけに飲むわけじゃないからね?」

「え、マジで? お酒って酔うために飲むモノだと思っていたんだけれど」

「偏った認識だー」

「仕事に疲れた人が見通しのつかない仄暗い将来から目を背けるためだとばかり……」

「お酒のイメージダウンに繋がる発言だね……」


 その後、寝ることにした俺とスノウは一緒の部屋に通された。


 並べられた布団を見て、サムズアップした祖母を見て、なんか、どっと疲れた。



 こぼれ話として、その後、スノウからこんな補足をされた。


「イギリスは飲むだけなら五歳から飲めたりします」

「マジで!?」


 マジでした。

年末年始のちょっとした話はこれで終わりです。


次に本編部分を更新した際、Interlude年末/年始は三章の前部分に移動します。読みづらい更新の仕方をしてすみませんね。


追記:移動できないことに気付いた。サイトの仕様を理解していないことが露呈しましたね……。


そのままにします。何事も諦めが肝心ということでここはひとつ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ