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魔術師の少女、世界端末の少年  作者: 海山優
閑話

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閑話『雑談部屋』

深く考えずに読んでください

●登場人物


天木秦:美少女二人と密室。何も起きない筈がなく……。※何も起きない。

スノウ:最近、成世のことを妹のように可愛がる。距離の詰め方がエグい。

空海成世:スノウに「なるちゃん」って呼ばれている。顔が良い人に笑顔で呼ばれると悪い気はしない。


◆◆◇◇◆◆


 ――頑強そうな鉄の扉の上には、達筆な字でこう書かれていた。


『雑談しないと出られない部屋』


「条件緩っ!」


 隣に立つ成世が至極真っ当な感想を叫ぶ。ほんとね。


「これぐらいなら壊せそうだよ」


 扉を軽く叩き、企画を潰すようなことを言うスノウ。


「刀河が泣くからやめよ? な? ……ほら、とりあえず座ろう」


 そう言って部屋の中央に設置されている掘り炬燵へと誘導する。

 二人は不承不承といった感じで掘り炬燵に身体を滑り込ませた。


「こういうのが流行ったのってだいぶ前ですよね?」


 炬燵の上に用意されていた蜜柑をむきながら、成世が身も蓋もないことを言う。


「ネットミーム系は流行り廃りが激しいからなぁ、近年は特にそうだし……。まぁ、一度定着した概念ではあるし、思い出したときに擦られるネタだとは思うぞ? 場と条件を安易に固定できるって意味では便利なモノだしな」

「先輩、身も蓋もない分析しますね」

「で、どうするのこれ? この手のやつって、条件達成を『目指されない』ことって想定されているのかな?」


 スノウは伊予柑の薄皮をむき、お椀型にむいた外皮に果肉だけとなった房を積み上げている。


「そういう部屋に突っ込まれたというリアクションを楽しむモノで、言っちゃえば出オチに近いシステムだから、そういうのはあんま考えられていないんじゃないか?」

「まぁ、私は秦くんと一緒ならずっとここにいてもいいよ?」

「んー、食料とかの生活系問題が解決するなら俺もわりと困らないんだよな」


 すでにこれが雑談として成立している気もするけれどなー。

 などと、出ることに対する積極的な姿勢が皆無な俺とスノウ。


「え、私は困るんですが……。明日とか友達と遊びに行く予定ですし」


 成世はひどく嫌そうな顔をした。


「成世はアクティブだよなぁ」

「なるちゃんは箱入り娘だったからねー、その反動かな」

「いやいやいや、二人だって結構出掛けているじゃないですか。しかも新幹線とか使って長距離移動ガンガンしてるし! というか、この間の旅費ちらっと見ましたけど、高校生が三連休で使っていいような値段じゃありませんでしたからね⁉」

「この間?」


 スノウが首を傾げる。どれのこと? などと呟く。

 スノウと違い、金銭感覚がまともな俺は思い当たる節が大いにある。


「少し前にやった京都大阪直行からの九州、最後に沖縄まで弾丸ツアーしたときのだろ」

「あー、あれかー。お好み焼き美味しかったよねー! 美ら海水族館も良かったし」


 思い出を振り返るスノウは楽しそうだが、やっぱ費用凄かったんだなアレ。スノウが手配していたので考えないようにしていた。


「水族館の巨大水槽って永遠に見ていられるよな」


 スノウが積み上げた伊予柑をもしゃる。おいしい。


「外に出られないと困るので、この調子で雑談していきましょう!」


 成世がやけくそ気味に拳を掲げた。



◆◆◆『セーター』◆◆◆


 そういえば、と、スノウがふと思い出したかのように喋り始める。


「この間、袖が四つあるセーターを買ったんだ」

「――なんで? え、いや、……なんで?」


 成世が意味不明そうな味のある表情をしている。こいつやべーよ。みたいな目でスノウのことを見ている。


「売っていることにも、買う奴がいることにも、それがお前であることにもビビる。なにスノウ、お前、カイリキーかなんかなの?」

「腕が四本で最初に連想するの、私は天津飯かなー!」


 スノウに、ぺかーと、そんな音が聞こえそうな明るい笑顔で言われるが、至極どうでもいい。


 ていうか、天津飯は別に常時四妖拳を使っているわけではないので袖が四つあるセーターを必要としない。なんなら戦う時はわりと上半身裸だぞあの人。


「ほえー、私はアシュラマンですかねぇ」

「アシュラマンは腕六本だわ!」


 成世の言葉に思わずツッコミを入れる。


「つーか、アシュラって言っているじゃねーか!」

「それ言ったらあしゅら男爵は腕二本じゃないですか!」

「揚げ足の取り方おかしくないか⁉」


 けど、そう言われてみるとマジで名前の由来が謎だなあの男爵……。


 あと、多分だけど成世はシヴァをアシュラと勘違いしていると見た。そこでどうしてアシュラマンに繋がったのかは謎。


「というか、私の買ったセーターは脇の下部分からサブアームが生えていることを想定されているタイプだから、天津飯やカイリキーの生え方じゃ合わないと思うよ?」

「先輩、天津飯ってどんな生え方でしたっけ?」

「確か肩甲骨のあたりから生えている感じだったな……。今にして思うと、アレってわりと不便そうじゃないか? 背中から生える都合上、可動域が限られそうだよな?」


 通常の腕は『肩』という人体の『角部分』から生えているからこそ、ある程度の可動性を得ることが出来ているけれど、背中という『面』からの生え方だと自由度がかなり低いのではなかろうか?


「あー、確かに。背後での可動はまだ比較的問題なさそうだけれど、前面に持ってこようとしたら、それこそ肩やメインアームが邪魔だろうね」


 メインアームって表現どうよ。


「四本の腕を使っての息もつかせぬ乱打が強み! みたいに言われますけれど、背中から生えた腕は腰が入り難いでしょうし、打撃力もそんなに期待できなさそうですねー」

「サブアームはどちらかというと、掴みによる妨害がメインになるのかな?」

「手数を増やすのではなく、腕を腕で封じ、自身は残ったメインアームで攻撃するといった相手の攻撃の抑制にならまだ使えそうですもんね」

「あとはそれこそ飛び道具とかを持ち始めればいいんじゃないかな? 筋力をある程度は無視できるし」


 真面目に考察し始めたぞこの二人……。


「威力ではなく殺傷力で考えるなら毒を塗った刃物とか、接触による呪い付与系のモノでもいいんじゃないですか?」

「んー、腕が四本になるから、その分だけ意識が分散することも考慮すると掠っただけで致命的なモノは諸刃の剣になりそうじゃないかな」

「む、確かに」


 女子二名の会話に入れない。

 などとちょっと疎外感を感じ始めていると、


「うぃーーーーん」


 刀河が口で効果音を出しながら頑強そうな扉を開けて現れた。機械音っぽい駆動音を出しているが、開き戸を手動で開けているので機械感は一切ない。


「がちゃん」


 そして閉めた。鍵のかかる音も響いた。おい。自動ロックなのかよこの部屋。


「なにしたいのお前」


 心からの言葉が出た。


「いや、聞いていたら普通に混ざりたくなったのよ」

「ほんとうになんなんだお前」


 俺のツッコミを無視し、刀河は炬燵にスライドインした。


◆◆◇◇◆◆


 ●登場人物・そのに


 刀河火灼:先日、成世と和食料理で勝負(審査員はスノウ)をしたら負けたので、少し傷心中。

 空海成世:火灼の作るケーキがとても美味しかったので、隙あらば作って欲しいと思っている。


◆◆◇◇◆◆


 ◆◆◆『ギミック』◆◆◆


「いやー、思った以上に会話弾むのねアンタたち。いきなり雑談しろって言われたら黙るメンツだと思っていたわ」

「言い方」


 けらけらと笑う刀河を窘めるスノウ。

 刀河は遠慮なしにスノウがむいた伊予柑を口に放り込んでいく。


「火灼さん、この部屋の意図って一体……?」


 成世が小さく挙手をしながら刀河に問う。


「いや、面白いかと思って。土曜日を半分潰して作った」

「バカだ! この人バカだ! 技術力のあるバカだ!」


 俺もそう思う。


「わぁボロクソだぁ……。いやまぁ、そんななのに雑談が思った以上に途切れることなくてさ、このままだとせっかく用意したギミックが出番を迎えることなく終わりを迎えそうなのでこうして顔を出したのよ」

「ギミック?」


 スノウが首を傾げる。効果音はきょとん。


 ていうかスノウ、さっきから伊予柑を剥くだけでほとんど手を付けていないな……。積み上げた裸の房も刀河が勢いよく消費していくので、みるみる減っていく。


「お、気になる? 私の用意したギミック気になる? 会話が弾まない時のために話題のタネになるギミックを用意しておいたんだけれど気になっちゃう?」

「え、いや、あんまり」


 それは、至極どうでもよいということがとても良く伝わる声音だった。


「思った以上に塩い反応するネー。成世ちゃんは気になるよね?」

「いえ、そういうのいいんで早く解放して欲しいです」

「ツメテェ!」


 ちょっと涙目になっている刀河。

 あ、こっち見た。


「よし、天木は気になるようね! スイッチオン!」

「言ってないぞ?」


 俺の意思と言葉を無視して刀河は手に持っていたリモコンのスイッチを押した。


 すると、部屋の照明が落ちる。暗闇が空間を統べたかと思えば、スノウが座っている位置の後方から光の筋が発生する。


 そちらに目を向けると、壁が「ゴゴゴゴゴ」と音を立てておもむろに割れ始め、その隙間から強烈な光が差し込んでいた。壁は引き戸の構造になっているのか襖を開けるかのように開いていき、段々とその全貌が見えてくる。


 こんなのを作るために土曜日の午前を潰したのか……。と、呆れながら見ていると、開いた壁の先には人影があった。何故か焚かれているスモークやライトの逆光もあって、よく見えないが、そのシルエットはまさしく人の形をしている。


 そして、バックグラウンドミュージックがフェードインするように流れ始める。

 ……このイントロはヴィレッジのマッチョ・マンだ。あ、なんかこう、嫌な予感がする。


 嫌な予感を抱えながらも、他にすることもないのでステージをとりあえず見る。


 俺の正面に座る成世は呆然と口を開けていた。ちょっと間抜けに見えるな……。


 向かって右側に座る刀河は時間の無駄の集大成がお披露目できるからなのか、楽しそうだ。


 向かって左側に座るスノウは俺や成世と同じようにスポットライトに照らされたステージを見ているが、刀河の奇行に慣れているのか動揺は見えない。喉が渇いたのか、ミネラルウォーターのペットボトルに手を伸ばしている。


 ……あ、もうすぐサビだ。そう思い、スノウに飲み物を口に含むのをやめさせようとしたが、刀河に手を止められる。曲はサビへと突入し、突如風が吹き、スモークが振り払われる。


「マッチョマーン!」


 ブーメランパンツ一丁のネセルが見事なダブルパイセップスを披露していた。


 ――隆々とした上腕二頭筋が眩しい。


 スノウは口に入れていた水を盛大に噴いた。


「ナイスバルクゥー!」


 刀河はネセルの筋肉を褒め称える。

 成世は開いた口が塞がらないし、スノウは咽ている。


 ネセルはノリノリでそのままサイドチェストへと移行し、その重厚な肉体を強調する。


 後ろで流れている曲のリズムに合わせて身体を揺らし、ダブルパイセップス・バックによって背中の強烈な凹凸をこれでもかと魅せてくる。だが、何より特筆すべきはその下半身の太さであり安定感だ。その(サイ)は磨き上げられた肉体を支えるに相応しい強靭さが見て取れる。


 ――なんか見ていて楽しくなってきたな。


 曲が終わるまで、刀河の掛け声とネセルの肉体美を堪能した。


◆◆◇◇◆◆


 登場人物・そのさん


 ネセル:先日、猫カフェに連れて行って貰った。火灼がいると猫が寄ってくるので嬉しい。

 刀河火灼:動物に超好かれる。スノウやネセルは本能的に怖がられるのだが、それを上回る。


◆◆◇◇◆◆


 ◆◆◆『挨拶』◆◆◆


「誰ですかこの人⁉」


 これは成世。そういやネセルと初対面だこいつ。これが初対面か……、


「なにやってんのお前⁉」


 これはスノウ。一度拳を合わせた仲だからなのか、スノウのネセルに対する態度はちょっと気軽な感じがある。若干のジェラシィ。


「刀河火灼には借りがあってな。それを返せと言われたので、返したまでだ」

「いやぁ、いい筋肉だったわー。スノウが噴き出すのを久々に見られたし大満足だわ!」


 心から満足気な刀河を置いておき、成世に紹介することにした。


「これ、ネセルさんです……」

「この人が、話に聞く、ネセル……さん…………」


 目の前のブーメランパンツ一丁筋骨隆々大男を見て言葉を失う成世。

 ……まぁ、気持ちは分かる。


「む、お前が空海成世か。こうして対面するのは初めてだな。ネセルだ」


 そう言って手を差し出す。握手の構えだ。

 ただ、その姿で手を出すのは悪手だと思う。


 ずいと、成世が一歩後退った。そしてこちらの背後に隠れるように移動する。


「…………」


 ネセルがものすごく悲しそうな困り顔を浮かべる。この人、大柄で強面だけれど、こういう態度を取られると傷付く性格なのである。


「成世。この人は刀河のせいで今はこんな格好だけれど、俺の知る範囲では上位に位置する良い人だから大丈夫だ。ほら、怖くない怖くない」


 小動物をあやす気分で後ろにいる成世を前に移動させる。


 前に出てきた成世は俺の言葉を信じてくれたのか、おずおずとネセルの手を取った。


「よろしくお願いします。空海成世です」

「うむ、よろしく。今はスノウ=デイライトや刀河火灼と一緒に暮らしていると聞いているが、環境が変わると疲れる部分もあるだろう。大丈夫そうか?」

「あ、心配ありがとうございます。一応、今のところは大丈夫です。繊、えっと、実家にいた式神も一緒に住まわせて貰っていますし、良くして頂いています」


 格好はアレだが、まともな態度のネセルに成世は素直に答える。そして、そのままちょっとした雑談を始めた。


 二人とも比較的まともな人間性を有しているし、初対面こそ最悪の形だったけれど、ある意味では親しみやすさを感じられる状態での邂逅とも言えるので、とりあえず上手くやっていけそうだなぁと、そう思った。


 ……もしや刀河にはそういう意図があって、今回こんな暴挙に?


 などと思い刀河の方を見ると、


 スノウにロメロスペシャルをされて声にならない声を上げていた。


「…………」


 見なかったことにした。

しばしの間、こういう話をちょくちょく投稿します。(こういうのも書きたいので)

それが終わったら三章に入ります。たぶん。

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