◆一話『後輩の生まれ方』-8
後日、9節を更新いたします。ここまで読んでの感想等いただけますと、励みになります。
本日の要件を済ませたので、帰宅の準備を始める。
先ほど脱いだ服を回収するため浴室へ行こうとすると、ネセルが手で制してきた。
「衣類はこちらで洗濯してロッカーに入れておく」
「あー、はい、ありがとうございます」
すでに幾度かお世話になっていることので、あまり遠慮せず厚意に甘えることにした。
事務所の奥にある更衣室に行き、スーツを脱いで制服へと着替え直す。
この事務所にいる間はバイト中の制服としてスーツを着ている。別段、来客対応などをするわけでもないのだが『平時との切り替えを意識するために』ということで刀河から着用命令が出ているのだ。反抗する理由もないので、こうして律義に着替えている。
まぁ一応、南雲さんの『おつかい』で人に会うこともあるので、正装感のあるスーツは悪くないのだ。――などと考えていると、更衣室の扉が開き、南雲さんが顔だけを覗かせてきた。
「そうそう、天木くんに聞きたいことがあるのでした。最近、天木くんの周辺で変化したことなどはありますか?」
今思い出したかのような口調でそんなことを訊いてきた。
――問われ、ふと考えてみる。
――思いつくのは『後輩』のことだった。
「後輩ができましたね」
「後輩?」
聞き返されたので、頷く。
「そう、後輩です。学校の後輩。こっちのことを見掛けるとややテンション高めに絡んでくる、そんな後輩ができました」
「……ふむ、なんだか青春の香りがしますね」
眼鏡を指でくいと持ち上げる南雲さん。
「はぁ、野球のグローブあたりから漂っていそうな香りですか」
「まぁ、そういうことなら大丈夫そうですね。いえなに、これでも僕は学府における君の後見人――保護者、且つ監視者ですからね。君の周囲に魔術師などの影があれば、注意しなければいけない立場なのですよ」
「なるほど」
「とはいえまぁ、学校の後輩なら大丈夫でしょう。夏休み前に関係者等の洗い出しは済んでいますし、学校にはスノウくんや刀河くんもいます。そんな場所で、下手に君に接近する人などそうそういないでしょうし」
そんな話を交わしてから、俺はネセルと南雲さんに見送られて帰宅した。




