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魔術師の少女、世界端末の少年  作者: 海山優
二章『世界端末の失敗作』
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◆一話『後輩の生まれ方』-2

「世界は勝者によって形作られていますよね」


 隣に座った少女はそんなことを口走った。いや、それは不意に出たのではなく、彼女にとっては心底からの本音だったのかもしれない。


「それでも世界は美しい、とか。止まない雨はない、とか。明けない夜はない、とか。努力は必ず報われる、とか。諦めたらそこで試合終了だ、とか。どれもこれもが口触りが良くて耳障りで無くて、まるでこの世の真理みたいに言われて持て囃されていますけれど、結局、それを言うのはいつだって勝者で、それが言えるのはいつだって勝ち残った人ですよね」


 最後のだけなんか違くね? と、つい呟く。


「そんなことはないですよ。諦めたらそこで試合終了だなんて言いますが、たとえ諦めなくても、試合には制限時間があるんですよ。そして、諦めなかったところで試合は終了する。負けたとしても、諦めていなければそれは勝ちですか? ――いいえ、そんなことないですよね。諦めなかろうと、頑張ろうと、前を向こうと、動き続けたところで負けは負け。そんなものに意味はない」


 ――いいや、違いますよね。その意味を決めるのは敗者ではない。


 少女はそう補足して、言葉を続ける。


「意味を決めるのはいつだって勝者です。敗者の言葉などに誰も耳を傾けない。死者は語らない。敗者を――死者をどうやって扱うかを、そこにどのような意味を見出すかは、勝者が決めるもの」


 楽しそうに少女は語る。


「世界を醜いと吐き捨てた人は異常者として処理される。雨が止む前に息を引き取った子供がいます。朝焼けを拝むことなく鼓動を止める赤子がいます」


 なんとなく、俺はその言葉を引き継いだ。


「報われなかった努力は、成功した努力の影に埋もれて日の目を見ない」


 俺の言葉を受けて、少女は少し意外そうな顔をして、嬉しそうに語る。


「努力が足りないから失敗したんだ。そんなのは努力ではないから成功しないのは当然だ」


 厳しい成功者はそう言って見下す。


「運が悪かった。間が悪かった。時期が悪かった」


 そんな弁明を苦し紛れにしてみる。


「それは本当ですか? 本当に『運』や『間』や『時期』なんて言葉で括れるような段階まで努力しましたか? 努力して努力して努力して最善を尽くして最高を果たして最大を目指しましたか? 運をつかみ取るための努力はしましたか? 間を把握するための努力はしましたか? 時期の見極めのための努力はしましたか?」


 ――そうでないなら、それは努力ではない。

 ――そこまですれば報われるはずなのだ。

 ――そして、君が報われていないということは、それは努力ではなかったのだろう。


「手厳しいな」


 素直な感想を漏らす。それは一種の成功バイアスのようにも思える。


「えぇ。世界は厳しいです。成功者は失敗者に対して厳しいです」


 少女はそう言いながら、購買で買ったであろう菓子パンを頬張る。お年頃の女子としては些か勢いのある大口だった。砂糖が塗され、中に大量のホイップクリームが入ったドーナツを小さい口いっぱいに詰め込む姿は、げっ歯類系の小動物を連想させる。


「んふー」


 とても美味しそうに咀嚼する少女を、俺はなんとなく眺める。


 肩口まで伸ばされているのは赤茶けたやや癖のある髪。座っているため正確な身長は不明だが、座高からして俺より頭一つ分ほど低い。小さい背丈に比例して胸も腰も――いや、尻はそれらに反してまぁまぁ大きいな……。一昔前なら安産型だとかセクハラされるやつ。


 ていうか、描写のために全体の特徴とかを詳細に並べると、この男はどれだけ女子のこと見ているんだよとなるが、まぁ実際に世の男どもは女の子を見るとそっちに目が行くようにできているので、仕方ないのです……。そして以前、スノウには「視線、女の子側にはバレバレだからね?」と優しく諭されたことがある。


 などと、少し死にたくなったことを思い出していると、少女と視線が絡んだ。


「ふぇひっ」


 何が楽しいのか、何が嬉しいのか分からないが、少女はゆるりと相好を崩した。



 第一印象は「痛いやっちゃなー」というものだった。


 それが俺こと天木秦と、後輩こと空海(そらみ)成世(なるせ)とのファーストコンタクトだった。


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