閑話「装備」
現在、二章のようなものを書いてるのですが、書くのって難しいですよね……。それを書き切るまでは、こうして小話を載せていきたいです。
――ある日の朝のこと。
「ぬー」
喉が渇いたなぁと思い、私ことスノウ=デイライトは自室を出て居間へと向かっていた。
「ん、おはよ」
台所に立ち、お味噌汁を温めていた火灼が私を見て挨拶を投げてくる。火灼はすでに制服に着替えており、その上からエプロンをつけていた。
以前、秦くんと玖島が「制服エプロンには魔力がある」と教室で熱弁していたことを思い出す。こうして改めて見ると、なるほど、確かにこれは魔的かもしれない、などと考える。
艶のある黒髪と均整の取れた身体の線を見れば、抱く感想は「綺麗」の一言に尽きる。そこに学生という子供と大人の転換期を象徴する学生服を着込み、さらにその上に生活感の強いエプロン。どこか違和のある組み合わせだが、刀河火灼という少女を構成する要素と組み合わせることによって、形容しがたい「良さ」のようなものが発現する。
「おはよ。後ろ通るね」
そんなことを考えつつ、挨拶を返して火灼の背後にある冷蔵庫に手を伸ばす。
「ん」
火灼は心持ち身を前に寄せ、私が開けやすいようにスペースを作る。
「ありがと」
私は目的の炭酸水を取り出し、火灼の後ろから退く。
食器棚からコップを取り出し、それに炭酸水を注ぐ。半分ほどで止め、くぴくぴと飲む。
飲み終わり、ふと、火灼がこちらのことを眺めていることに気付く。
「どしたの?」
「あぁ、いや、あんた、いっつも上下揃えてるよね。頑張ってるわねー」
そう言いながら、私の胸と鼠蹊部を目が往復する。
そういえば、着替えの途中だったことを思い出す。
「あー、まぁ、常在戦場の心構えと言いますか」
ちなみに、本日は黒のレース系。
「……学校では戦ってないわよね?」
火灼が制服を着ているように、本日は普通に平日。
「秦くんが、何かあったとき、学校は本当に洒落にならないって言って逃げる」
「あいつのそういう常識的なとこ好きだわー」
「そういう火灼だって、上下しっかり揃ってなかったっけ?」
私ほどではないが、火灼も肌色多めの格好で家の中をうろつくことは多々ある。その時の記憶を思い出しながら、会話を続ける、
「私は統一規格のをセットで買ってるからねー、そら揃う」
あー、なるほど。効率的だ。火灼らしい。……ん?
「あれ? 統一規格だっけ? バリエーションあった記憶なんだけれど。たまに3倍になりそうなやつとかなかった?」
火灼の肌も私に負けず劣らず白くて綺麗だ。肌理の細かい白にあの色はよく映える。
「遠出したりする時はそれ用のを引っ張り出してるのよ。普段は統一規格だってば。あー、あとはまぁ、定期的にローテ落ちはさせてるからね」
その表現どうかと思う。
「なるほどねー」
益体のない会話。
どこにでもありふれてそうな日常。
ここに来て、私が手に入れた普通。
なんとなく、笑ってしまう。
「ありがとね、火灼」
それらを引っくるめて、言葉にする。
「ん? うん。どういたしまして?」
よく分かってなさそうな火灼は、それでも私の感謝を受け止める。
――これはありふれたある日の朝。よくある日常の一コマ。