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SKYED7 -リオン編- 下  作者: 九綱 玖須人
決戦を前に
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決戦を前に 7

 夕焼けのように赤黒く染まった空に浮かぶ瞳。


 この世の終わりのような光景にようやく我に返った人々が絶叫する。


 逃げようとして大混乱に陥るが果たして何処に逃げれば助かるというのか。


 出現した理由も悪意も敵意も分からない怪異はただひたすらに恐怖でしかなかった。


 まばゆいばかりの光が放たれる。


 何事かと振り返った大衆の目に一人の少女が飛び込んだ。


 天に向かって両手を広げ、懸命に抗っているかのような仕草をする少女。


 あれは数日前に郊外の焦土を元の平原に戻すという奇跡を起こした娘ではないか。


 嵐にも似た轟音が響き巨大な目が動く。


 目は少女の姿を捉えると瞬きをするように消えていった。


 全身汗だくになりへたり込むリオン。


 周囲の気脈から魔力を出し切っても追い返すことが出来ず、()()は自分で帰っていったのだった。


「リオン!」


 オタルバが駆け寄り肩を抱く。


 いきなり現れた亜人に人々は更に混乱した。


 ティムリートが慌てて演壇に登り静粛にするよう促す。


 突然のことに計画は滅茶苦茶になってしまったが反って絶好の機会であるのかもしれないとティムリートは考えていた。


「リオン。あれは……」


「うん、ブロキスだよ。ロブの魔力に反応して見に来たんだ。アスカリヒトはまだ復活してないのに……なに、あの魔力……」


 あんなの封印出来るわけがない。


 言いかけたがリオンは虚ろなる山の気配を感じて身を委ねた。


 いつでも行けると思っていた賢者の所へはあれから一度も行けたことがなかった。


 やはりこのような尋常ならざる魔力で気脈が乱れないと扉が開かれることはないらしい。


 意識が遠のく中でリオンはロブを見た。


 ロブはずっと空を見上げ、上空では熱せられて不自然に()けた雲が再び集まってきている。


 きっと暫くの後に大雨が降るだろう。


 嵐になる予感を覚えつつ、リオンの意識は深く沈んでいった。




 リオンは揺り椅子に座っていた。


 目の前には同じく椅子に座る時の賢者がいた。


 今回は暗い気脈の道を辿らなくても済んだようだ。


 賢者の部屋へ行くという意識が明確だったからだろう。


「やあリオン」


「ねえ賢者、封印について教えて」


「まだアスカリヒトは復活していないだろう」


「してから聞いたんじゃ遅いわよ。次はいつ来れるのかも分からないんだからさ」


 辛辣な言い草に苦笑する賢者。


 全然来れないとは言うが本来なら安易に来れるはずがないのだ。


 それなのにリオンはこの短期間で二度もやって来ている。


 歴代の巫女や魔術師たちに比べて格段に魔力が高い事も理由の一つだろうが波長でも合うのだろうか。


「……本来は私は世界に干渉し過ぎてはいけないんだよ。時に怒られてしまうから。だが、まあいいだろう。君には巫女の伝統を教えてくれる先達がいないのだからね」


「じゃあ教えて。封印ってなに」


「君の浄化の反魔法のことだ。君はもうその力の使い方を知っているだろう」


「じゃあなんでアスカリヒトは復活するの? 巫女の封印って期限とかがあるわけ?」


「そこに気が付いたか。やはり君は賢いね」


「そういうのいいから」


「……反魔法とは対象の真逆の魔力を当てて相殺するもの。つまり負の力に当てれば正常に戻すことが出来るという力だ。魔力を相殺、言い換えれば物質そのものには影響しないということになる。君は少し前にゴドリックの首都で浄化の力を使ったね。大地は元に戻ったが、炎によって既に消滅してしまった草花までは元に戻すことは出来なかったはずだ」


「つまり何が言いたいわけ?」


「アスカリヒトの全身を覆う穢れた炎は無効化出来てもアスカリヒトそのものは残るということだよ。強大な魔力を使えば気脈に歪みが生じて時の狭間が開くというのは君も知っての通りだ。つまりアスカリヒトの封印とは浄化の力を使うことによって開かれた異次元にアスカリヒトを送り込むということなんだ」


「そう……だから復活するってわけね。異次元に送り込んでも私みたいに出口を見つけて戻ってきちゃうってことか。ようやく理解できたよ」


「そういうことだ」


「でもさ。あなた以前、私のことを最後の巫女だって言ったよね。それってどういうことなの? これが最後の封印になるってことじゃないの?」


「……君たちの時代では今、ブロキスはラーヴァリエの属国である北の島国にいる」


「アシュバルに? 何故? じゃなくて質問に答えてよ」


「いずれ巫女の力を受け継ぎそうな血筋を根絶やしにするためだ」


「ねだ……やし? アシュバルの人を? ブロキスが? ちょっと……それどういうことよ」


「もともとアスカリヒトは北の小さな島国の神がつくった聖隷だった。それに抗うために誕生したのが鞘の巫女だ。戦いは島国の中で完結するはずだった。だが世界は広がり、君の母は小さな島国から別の島国へと嫁いだ。これは例外中の例外だったんだろう。他の巫女の候補は今も小さな島国にいる。ラーヴァリエの属国として他方への渡航が禁じられ、その血脈も同化政策によって薄れているがいくつかの純血は国民の拠り所として残されていた。ブロキスはそれらに次の巫女の継承権があると考え、滅ぼそうとしているのだ」


「なによそれ!? じゃあ私が封印できてもまた数百年後にはアスカリヒトは目覚めるし、その頃にはもう封印出来る人はいなくなってるってわけ!?」


「……どこまで話してよいものか」


「そういうことじゃないの! ブロキスを止めなきゃ。そんな理不尽なことで何の罪もない人たちが滅ぼされるなんて間違ってるわ! とりあえず、封印のことは分かったわ。ありがとう。これ以上ブロキスの好きにはさせない。アスカリヒトを時の狭間に閉じ込めて、しっかり罪を償わせてやるんだから!」


「もう行くのかい」


「当たり前よ。ウィリーに頼んで船を出してもらわなきゃ。こっちは移動にすごく時間がかかるんだもの。空間転移でも使えれば別だけど」


「ならばそこの扉を開けなさい。すぐに目が覚めるはずだ」


 リオンが扉を開けるとあたりが白じんでいった。


 以前は虚ろなる山へと続いていたはずの出入口は今回はすぐさま意識の回復へと繋がっているようだ。


 今回はさほど時間を要さなかったので目が覚めても式典は終わっていなかった。


 隅に寝かされ、心配そうにオタルバが容態を確認している。


「リオン、気が付いたかい!」


「大丈夫か!?」


 見ればラグ・レも市街地の警備から戻ってきていた。


 リオンは今あったことを二人に話した。


 こちらのほうではティムリートが怪異の正体がブロキスであることとリオンが巫女であることを群衆に説明したらしい。


 民たちはリオンが郊外の穢れを浄化した様子を目撃しており、今回の件で点と点が繋がったようで死を司る邪神の復活などという昏倒無形な話をすんなりと信じ込んだようだった。


 リオンは自らの意思で再び群衆の前に立った。


 人々はまるで神を見たかのようにリオンに祈りを捧げた。


 自分を策略に使うなら事前に話して欲しかったなどという子供じみた不満はもう言っている暇はない。


 まだアスカリヒトが目覚める時ではないというのに既にブロキスは凶行を犯しているというのだから。




 燃え盛る巨大な目が現れたのはゴドリックだけではなかった。


 それは時間差で各国にも現れた。


 天変地異かこの世の終わりかと狂乱する世界。


 人々は出来る限りの情報網を駆使して原因を探った。


 そしてある情報を掴んだ。


 あの得体の知れない恐怖を退けた国があるというのだ。


 国の名はゴドリック帝国改めランテヴィア共和国。


 巫女を名乗る少女が起こしたという奇跡に、人々は繋世の巫女の伝説を思い出していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 精隷は魔力的な存在だと思ってましたがそんなことはないみたいですね。
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