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SKYED7 -リオン編- 下  作者: 九綱 玖須人
決戦を前に
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決戦を前に 5

 ティムリートが現地の老人たちに予想を聞いた通りその日は無風の好天だった。


 演説会場である城門前には既に多くの群集が詰めかけており門の上に設けられた演壇(えんだん)を眺めていた。


 その様子を更に上層にある尖塔の物見台からリオンが見下ろしている。


 改めて見る帝都の人の多さに目を丸くしていると正装に身を包んだティムリートがやって来た。


「うわぁすっごい人……」


「演説のほうは大丈夫そうかい、リオン?」


「あ、ティムリート。私は別に。緊張とかはないけどさ、あんなに沢山の人に声って届くのかな」


「大声で話す練習はしただろう。今日は無風だし、壇の前には銅管の音響拡声装置もある。充分に声は後ろまで届くだろうし大事を取って復唱者も手配したから問題ないよ」


「ふうん、よくわかんないけど問題ないならいっか」


「では行こう」


 尖塔を降り城門の中庭に行くと執政側の面々が既に万全の体制で待機していた。


 元老の代表としてバンクリフ・ヘジンボサムやマーカス・ナッシュ上級大将、西側貴族の代表として有志で集まった聡明な若い貴族たちがいる。


 帝政を解体するにあたり国家の運営は議会制民主主義で執り行われることが決まっていた。


 議会は両院制議会とし貴族院と庶民院に分かれる事も決定済みだ。


 この件は意図的に流布させたので既に帝都ゾアのほとんどの人間が知っているだろう。


 今までは国政に民意が反映されることなどなかったので庶民院の設立はどうやら好感触らしい。


 内乱の終結から二週間足らずでここまで来れたのは皆が寝ずに知識を出し合ったことと、武器商ウィリー・ザッカレアが故郷ノーマゲントの政治について知りうる限りの情報を提供したことが大きい。


 そのウィリーは次の目的のためにテルシェデントに戻り出航の準備を進めているのでこの場にはいない。


 現れたティムリートに対し皆は今日という日を迎えられたことを口々に祝福した。


 そしてリオンの美しさに驚いた。


 普段は木の皮の繊維で出来た着古しを着て走り回っている少女が、今日は髪も整えてきらびやかな正装をまとっている。


 元からリオンは顔立ちに気品があるので黙っていればさながら一国の姫のようであった。


「あ、オタルバだ。おーい」


 美しい少女が下品に大手を振った先にいたのは豹の頭をした異相の女性だ。


 式典には遅ばせながらジウも参加すると返事があり代表としてオタルバが来たのだ。


 亜人をほとんど見る機会のなかった人々は偏見もありどう関わっていいか分からずオタルバを遠巻きに見守ることしか出来なかったようだ。


 そういう扱いに慣れているとはいえ、それでも面白くない事には変わりないのでオタルバは不機嫌そうだった。


 ただし不機嫌な理由はそれだけではない。


 ブランクと再会してしまったのだ。


 ただ、酷く罵られて決別したとはいえ音信不通だったブランクが元気に生きていたことは嬉しかった。


 オタルバが怒ったのはブランクにではなくロブがブランクのことを黙っていたことだった。


「リオン! あんた綺麗じゃないか。あんたもそんな恰好が出来たんだねえ」


「オタルバも着ないの?」


「あたしは普段の恰好で充分さ。このほうが亜人らしくていいだろ」


「オタルバ殿。申し訳ない……皆はそんなつもりじゃないんだ」


「ふん。いいからとっとと式典なりなんなり始めな」


 そこへロブがやってくる。


 ロブは何故オタルバが不機嫌なのか分かっていない。


 その前からロブはリオンとぎくしゃくしているのでオタルバがいれば自然に会話出来ると思ったのだった。


 女性陣二人の目つきが冷ややかになったことでティムリートはロブが何かやらかしたことを察した。


「ティムリート、貴賓連中も全員集まったそうだ。ところでブランクはどこだ?」


「奴なら警備の手薄になった城下の巡回を買って出たから許可した。ラグ・レ殿も着いて行ったみたいだ。じゃあ私はこれで」


「そうか……。あいつ、オタルバと顔を会わせるのが気不味くて逃げてるな。オタルバ、許してやってくれ。あいつだってこの国で頑張ってたんだ」


「ティムリート。あたしゃ、まずはどこにいればいいんだい」


「ああ……ジウとの国交を得たことを強調したいのでまずは舞台のそでに……」


 オタルバに無視されて困惑するロブ。


 (すが)るように顔を向けられて流石にリオンもロブが可哀そうになった。


 ロブが独断に走ってしまうのは相手のことを考えすぎて一人で抱え込んでしまうからだろう。


 リオンに相談もなしに浄化の力を使う機会を設けたことだってリオンの感情を抜きにすれば判断は正しかったといえるのでリオンはそろそろロブを許してやらねばならなかった。


「報告とか相談は大事だね」


「あー、リオン。その件なんだが……俺がその、悪かった……」


「ああ、まあ……うん」


「…………」


「ええと、ほら、オタルバだってロブが気を利かせて黙ってたことは……理解してるよ。ただ今は……内緒にされてたって事が悲しいだけだからさ。ジウの家族なんだからさ。家族の間で隠し事ってほら、悲しいじゃん」


「すまん」


「ああもう、元気出しなって! そんな顔してたら皆に不思議がられるよ。ロブも喋るんでしょ? じゃあさ、噛んだ回数で勝負しない? もちろん少ないほうが勝ちね!」


 明るく接してくれるリオンにロブは心から感謝した。


 ピークとの会話で自分の独断が多くの人間を不幸にしてきたことを再認識したばかりのロブにはリオンの優しさが辛く、そしてありがたかった。


 リオンの頭に軽く触れる。


 リオンはロブの手を取るとしっかりと握り返した。


 ティムリートが演台に立ち、鐘が鳴らされる。


 笑顔で手を振って声援に応えたティムリートは演説が上手かった。


 貴族でありながら十年を平民と友に過ごしてきた彼はどちらの立場もよく理解していた。


 話される内容が噂通りであったことも人々に状況を容易く順応させたのだった。


「新時代の幕開けである!」


 ティムリートが音響管を震わせて宣言すると群集から拍手喝采が沸き起こった。


 ゴドリック帝国は97年の歴史に終わりを告げここに新たな国家が誕生した。


 繋世歴388年1月13日、ランテヴィア共和国の設立宣言が成される。


 その功労者としてロブも演台に上った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 戦ってばかりのおじさんには女の子(?)の気持ちを察するのは難しそう
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