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SKYED7 -リオン編- 下  作者: 九綱 玖須人
ハイムマンの手記
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ハイムマンの手記 3

 白い砂浜に青々とした木々。


 珊瑚礁(さんごしょう)を見下ろせる海。


 この光景は万人が見て美しいと言うだろう。


 しかしロブだけは別の景色を見ていた。


 言葉が見つからなかったオタルバは、それでも寂しげなロブに何かしてやりたくて手を伸ばした。


 それよりも先にラグ・レが動きロブの背中を叩いてそっと肩に手を回した。


 行き場を失った手で後ろ頭を掻き目線を前に向けたオタルバは気づいた。


 目の前の小島群から無数の釣り船が漕ぎだしてきている。


「ん? なにさね?」


「どうした、オタルバ?」


「あれは……」


 目を凝らすラグ・レ。


 その時操舵室にいたウィリーが慌てて三人の元に駆け寄ってきた。


「敵襲だ!」


 一同の目つきが変わる。


 望遠鏡を覗いていたウィリーは原住民が武装してこちらを取り囲もうとしていることにいち早く気づいたのだった。


 そしてロブも思い出す。


 かつてこの地で同じ戦法を取られたことがある事を。


「社長、カートに伝えろ! 無理に回避しようとするな! 浅瀬に追い込まれるぞ!」


「それって……まさかあの中を突破する気ですか!?」


「昔同じ手口をやられたことがある! 無理に進路を変えて座礁するよりましだ!」


「乗り込まれたら多勢に無勢ですよ!」


「ふん! いいじゃないか、あたしらに手を出したらどうなるか教えてやろうさね!」


「ジウの優秀な戦士の力を見せてやるぞ!」


「すごく好戦的!? 駄目ですよ、彼らの目的がまだ不明です!」


「そんなもの十中八九リオンさね」


「ウィリー、リオンを船室へ!」


「ああもう……乗員戦闘態勢! ロブ、砲撃開始まで時間を稼いでください!」


「駄目だ! こちらから仕掛けるな!」


「向こうが先ですよ!?」


「乗り込んできた奴だけを倒す!」


「無茶苦茶だ!」


「みんな、なに騒いでるの?」


 天を仰いだウィリーがリオンの手を引いて船内に退避した。


 代わりにダグが拳を鳴らしながら出て来た。


 オタルバは爪を出し入れし、ラグ・レは矢をつがえ、ロブは槍を構える。


 ナバフの槍が当時の感覚を呼び覚ましていった。


 原住民たちはザッカレア商船の進路に立ち塞がると一斉に火矢を放ってきた。


 石炭を動力にして動くウィリーの最新船は馬力が多く甲板に鋼板を施すことが可能となっていたので火矢は刺さらずに弾かれる。


 更に帆船のように布を多用していないので燃え移りそうな物が少ない。


 雨のように降り注いだ矢から引火することはなく、船はそのまま進んでいった。


 ロブ達は渋を塗った木箱を利用して全ての矢を防いだ。


 船が燃えもせず進路も変えないことに憤慨(ふんがい)した原住民たちは、今度は鉤づめを投げ錨を下ろし無理やり船を停めようとしてきた。


 それでも船は止まらずに、鉤づめと錨が引き合って逆に襲撃者たちの船が壊れたりひっくり返ったりした。


 ロブの見立ては正しく、いくら釣り舟が束になろうと敵うものではなかった。


 しかし鉤づめを伝って上ってくる連中がいる。


「馬鹿が! っと、あぶねっ!」


 ダグが短刀で鉤縄を切り離すと原住民が悲鳴を上げて落ちていった。


 しかし一斉に矢を射られて首を引っ込めざるを得なかった。


 何本かの縄は切れたが敵が容赦なく上ってくるのでついに侵入を許してしまう。


「乗りたきゃ乗船料払いな!」


 繰り出される山刀を避けて体重を乗せた拳を叩き込むダグ。


 後ろでは上半身を覗かせた瞬間の賊の肩にラグ・レの矢がお見舞いされた。


 神速の動きで縦横無尽に甲板を駆けるオタルバが次々に敵を海に放り込んでいく。


 圧倒的な強さの前に敵もさることながら怯みはしなかったが、味方に当たるかもしれないので矢をつがえる事が出来ず、弓持ちの原住民たちは次々に落ちてくる仲間を見ながら縄梯子を登る順番待ちをするしか出来なかった。


 戦闘は暫く続いたが最新式の船の速度に手漕ぎの釣り舟が並走出来るわけもなくロブ達は敵を振り切ることに成功した。


 なおも必死に追いかけてくる小舟を(あお)ってダグが甲高い声を上げる。


 第二陣はどうやらないようで他の小島の陰からの敵襲はなかった。


 やれやれと溜め息をつきオタルバは大きく伸びをした。


「大したことなかったねえ。あれだけ人数がいても、たった四人に負けちまうなんてさ」


「わはは! どうだロブ・ハースト、私は強いだろう!」


「ていうかロブ、あんた本当に魔力を消した状態でも戦えるんだねえ。なるべくあんたの所に敵がいかないように配慮したつもりだったけど、いらない老婆心だったね」


「老婆?」


「黙りな、ラグ・レ。……って、そいつはなんだいロブ?」


 いそいそと何かをやっているかと思ったら、ロブは木箱の中に原住民の一人を閉じ込めていたようだ。


 体のどこかを折られたのか額には脂汗が浮かび、苦悶と恐怖の入り混じった表情をしている。


「捕虜だ。この海域だとおそらくこいつらはムガ族かドゥンゴ族だろう。縄張りから出て安全が確保されるまで連れていく」


 賢いなと感心するダグ。


 しかしオタルバとラグ・レはロブのその行為にどこか自傷性を感じるのだった。


「捕虜なんていらないだろ。また来たら追い返せばいい」


「襲ってきた理由も聞ける。おい、お前たちは何が目的だった?」


「…………」


「答えろ」


 ロブはなんの躊躇(ちゅうちょ)もなく石突を捕虜の(すね)に叩きつけた。


 ぎゃっと短く叫んだ原住民は震えながら命乞いをした。


 当たり前のように事を進めるロブにオタルバは背筋を震わせる。


 いつも以上にロブから感情が感じられなかったからだ。


「やめろロブ・ハースト。捕虜なら傷つけちゃいけないはずだろう」


 見かねてラグ・レが間に入った。


 渡りに船と言わんばかりに賊の男はラグ・レの太ももに(すが)った。


 四人の中でも部族然とした恰好のラグ・レが一番話が通じると思ったのだろう。


 男は泣きながらラグ・レを見上げた。


「ミコ!  ミコがこの船に乗てる! ラヴァリエはミコを欲しがてる!」


 案の定の答えだ。


 生活が困窮して商船を襲っている海賊などではなく、明確にリオンを狙っていた。


 もうこの海域にまで情報が届けられたのか。


 それにしても、とロブは男に質問する。


「ラーヴァリエの御機嫌取りをしようとしたのか。巫女を差し出せば褒められると? だが巫女の逸話を知っているなら蛇神のことも知っているはずだ。そうだろう?」


「知てる……。蛇神、悪い神。だから倒す。だから巫女の力必要。ゴドリクの族長、悪い神に操られてるて聞いた。お前たち、その手下」


「ちょっとお待ちよ。あたしたちが巫女をゴドリックに連れて行こうとしていたと思ってたのか。亜人であるあたしがいる時点でそれは違うと思わなかったのかい?」


「ジウも悪い神に操られてる!」


「どこでそんな話になったか知らないがその情報は間違ってるぞ。今、ラーヴァリエとブロキスは手を組んでいる。ラーヴァリエが巫女を手に入れようとしているのはブロキスが巫女を欲しているからだ。お前たちは邪神のために働くのか?」


「ブロキス? ゴドリクのブロキス? 嘘つけ。ラヴァリエとゴドリクはずっと敵同士だ。騙されないぞ!」


「それは伝わってないのか」


「信頼の差だな」


 ダルナレアとモサンメディシュにはブロキスと教皇の共同署名の書簡が届けられた。


 それは両国の戦闘を止める気付け薬だったと共に両国に信頼を表明するためだったのだろう。


 対して、ころころ陣営を変えていた部族には内情を教えない。


 彼らは手足だけ動かしていれば良い手駒だと考えられているのだ。


 恐らく殆どの国や部族に間違った情報が伝わった。


 ブロキスは昔から暴君と呼ばれ不思議な力を持っていたため蛇神が憑りついていると聞いて疑う者は少なくない。


 それに対して世界最高の魔法使いジウは何もしてこなかった。


 ブロキスやジウの今までの動きがこの現状を作り上げてしまったのだ。


 そして現在、島嶼諸国はゴドリックの経済政策の恩恵を受け親ゴドリックの風潮が広まっている。


 それは同時にラーヴァリエに対しての負い目となっていた。


 巫女を欲しているのなら正当性もあるし自分たちの懐が痛むわけでもないので協力してやり恩に着せ、ラーヴァリエからも睨まれないようにしたい。


 長年に渡り染みついた事大主義が彼らを自主的に走狗に至らしめているのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 木炭は使われなくなってるんですねぇ… 最先端だから仕方ないですが。
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