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SKYED7 -リオン編- 下  作者: 九綱 玖須人
小国の記憶
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小国の記憶 4

 騒ぎを聞きつけナバフ族の男たちが駆け付けた。


 先頭には島嶼最強と名高い戦士が立つ。


 引き締まった筋肉の美丈夫は壮年になっても健在だ。


 戦士長オロは海の向こうに浮かぶ軍船を見て歯をむき出した。


「ダルナレア!? なぜモサンメディシュと共にいル!?」


 ナバフ族は情勢によって陣営を変えやすい島嶼の中でも比較的ずっと帝国寄りでいた部族だ。


 親ゴドリックというよりは反ラーヴァリエといったほうが近い。


 かつて帝国の国事ではその律義さを称されて国賓として招かれている。


 そしてその際に(いさか)いがあったことでモサンメディシュとは深い溝が生じている。


 ただしナバフ族は自ら他の地域を攻めるようなことはしなかった。


 ダルナレアがモサンメディシュに侵攻した時も近隣の同盟国でありながら静観していた。


 ダルナレアに満足のいく大義名分がなかったことも大きいが、少なくともどさくさに紛れて仇敵を叩こうとするような不義の精神は持ち合わせていないということだ。


 それは強者としての誇りだった。


「狙いはアの娘か!? お前たチ、何をしタのだ!?」


 そう思われるのは当然のことだ。


 何故か急に里を訪れた亜人がラーヴァリエに行きたがっており、見知らぬ少女が合流した。


 その翌日なのだから結びつけないほうが無理というものだ。


 エルバルドは心の中で舌打ちした。


 今まではブロキスも教皇もジウに対しては表立って攻勢に出なかった。


 ブロキスはあからさまにジウを避けた政策をし、教皇は刺客を送った。


 しかし教皇を倒しリオンがジウの手元を離れた今はブロキスにとって一世一代の好機なのだ。


 どんな手を使ってでもリオンを手中に収めたいという事か。


 オタルバは身構えた。


 ナバフ族は親ゴドリックでダルナレアと同盟関係だ。


 普通ならダルナレアとの親交を優先させるだろう。


 だが戦士長オロは戦艦を睨みつけて叫んだ。


「海岸の女たチは森へ下がレ! 戦士たチよ、迎え撃テ!」


「驚いたね……あたしたちを差し出したほうがいいんじゃないのかい?」


「馬鹿ナ。お前たチは正式に村を訪レた客人だ。どのヨうな理由があっテも通達なく我らの土地を侵す者は許さなイ」


 エルバルドの言った通りだ。


 ナバフ族は礼を尽くす者には礼で返す。


 いくら親密な関係になろうともそれはそれ、これはこれと考える。


 悪く言えば融通(ゆうずう)が利かないのだが今回はそのおかげで共闘することが出来そうだ。


「だがナ、無礼者は負い返スが理由なクあのよウな真似はするまイ。お前たチに原因があルならバ、それハ正直に話しテもらうゾ。奴らにお前たチを突き出すのハそれかラでも遅くなイ」


「なるほどね。さてどうするかねえ……ルーテル!?」


 牛の亜人を見上げたオタルバはぎょっとした。


 目を血走らせ首の血管を浮き上がらせたルーテルが興奮しすぎて鼻血を垂らしている。


「お……おお俺様に向かってふざけた事をするじゃない……かっ!」


「ルーテル落ち着きな!? 」


 喧嘩っ早いルーテルに不意打ちをしてしまったのは敵の過失だ。


 こうなったらこの猛牛は止められない。


「船で逃げよう! ちょっと待ってて!」


「待つんだノーラ! 海獣たちが狙われるかもしれない。いったん逃がしな!」


「でも船が……」


「今から海獣たちに牽引の補具を取り付けるのかい? 連中をおっ払ったほうが早いねえ。エルバルド! ノーラと一緒にリオンとシュビナを運んでおくれ! ナバフの女たちと森の奥へ下がるんだ! ラグ・レ、二人を援護しな!」


「わかった!」


「分かった。行くぞノーラ」


「私だって戦えるよ!」


「俺だって戦えるさ」


 二人を寝かしたままだと万が一のことがあるかもしれない。


 ノーラも理解はしていたようでそれ以上は何も言わなかった。


 人には聞こえない音で海獣たちに危機を知らせつつ借家に駆けていくノーラとエルバルド。


 浜辺にはナバフの戦士たちを率いた戦士長オロとオタルバ、ルーテルが並んだ。


「ナバフ族の代表よ、聞け! 我らは貴君の同盟国、ダルナレアの艦隊である! そこの亜人どもを即刻引き渡せ! これはゴドリック帝国皇帝ブロキス陛下とラーヴァリエ信教国教皇猊下(げいか)の御意思である! 我らがモサンメディシュと共にあることがその証左となろう! さあ、貴君らの返事は如何に!」


 艦長と思わしき高官がゴドリックの装甲義肢使いを従えて叫んだ。


 義肢使いの一方は強弓に矢をつがえいつでも放てるようにしている。


 それが一層ルーテルを興奮させた。


 ルーテルが飛び出す前にオロが叫び返した。


「我こソはナバフの戦士長、オロなり! 高圧的な物言イに貸す耳などナい! 我らト対等に対話したクば、それナりの礼節を覚えてかラにせよ!」


 オロの大喝に戦士たちが盾を叩いて賛同した。


 遠目にダルナレアの艦長が忌々しそうな顔をするのが見えた。


 短髪の義肢使いが馬鹿にしたように笑うと弓使いが再び矢を放つ。


 しかし今度はルーテルが矢を受け止めた。


 衝撃派が突風を巻き起こしルーテルの握った掌から血が迸る。


 交渉決裂。


 戦端が開かれた。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう融通の利かないタイプ好きです。
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