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SKYED7 -リオン編- 下  作者: 九綱 玖須人
小国の記憶
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小国の記憶

 繋世歴(けいせいれき)は初代の(さや)の巫女が世界を救った年の翌年を元年とした起源法である。


 鞘の巫女とは死を司る邪神・アスカリヒトを封じるために(くら)の女神によって封印の使命を与えられた聖者のことを指す。


 超常の存在が久しくなった近世においてもなお因縁は続く。


 この神話は元来はラーヴァリエの北に浮かぶアシュバルという小さな島国の土着信仰だった。


 鞘の巫女に選ばれた少女は幼くして賢者の境地を会得すると言われている。


 魔力という目に見えぬ力を視認することが出来るのだ。


 これは魔導を修める者が生涯をかけても体得できるか知れない絶技だ。


 そして少女は数え年十五の元日に正式に力を授かると言われている。


 巫女の候補はアスカリヒトの封印が解ける期日から逆算した年に生まれた赤子から選ばれる。


 通常は邪神の目を欺くために幾人かが候補にあげられるとされる。


 成長の過程で候補は絞られていき、最終的には一番資質のある一人が巫女となる。


 巫女は反魔法なる秘技を以て邪神を封じる宿命を負う。


 今は諸事あって巫女の候補は生れ落ちた時から一人に絞られていた。


 それ故に識者はこの候補を隠し守り通さねばならなかった。


 アスカリヒトは復活の前の夢うつつに己の仇となる存在を廃するために動き出す。


 自身が転生した器に(ささや)きかけ無意識を操るのだ。


 時は戦乱の世。


 世界各地の大陸の覇権がある程度決まり、人々が更なる欲を満たさんと大海原に繰り出してから幾星霜(いくせいそう)


 戦争は海を隔てて繰り広げられるようになり、いち早く領土を拡大した国家は列強と呼ばれるに至っていた。


 これはその時代に生を受けた人々の物語だ。

 

 南半球には大きく分けて三つの地域が存在する。


 一つはラーヴァリエ信教国。


 一つはウェードミット諸島。


 そしてもう一つはゴドリック帝国という。


 ラーヴァリエ信教国は列強の席に座る大国である。


 国家は教皇と呼ばれる統治者を中心に封建的な制度で営まれている。


 南北に広大な領地を持ち、世界有数の国土面積を誇るこの国は人材も豊富だ。


 しかし古くからの信仰を国の根幹に置くため技術開発は他に比べて遅れを取っていた。


 対してゴドリック帝国は新進気鋭の小国だった。


 国土面積の狭い小さな島国ではあるが、自国領土を大陸と名付ける大胆さからも勢いが見て取れる。


 帝国の名の通り君主は皇帝だ。


 ラーヴァリエ信教を禁教としたゴドリックは間に挟まる島嶼(とうしょ)を戦場に、恵まれた技術者と最新式の兵器を投入して大国と渡り合う戦果をあげていた。


 他方ウェードミット諸島は無数の島々から成る集合だ。


 共同体ではなく、多種多様な民族が島ごとに独自の文化を形成している地域である。


 信教国と帝国の干渉を受けやすいこの地域は存続をかけて風見鶏的な立場を取ることが多い。


 それが余計に戦争を泥沼化させていた。


 ある時ラーヴァリエの教皇は世界に危機が迫っている事に気付いた。


 それがアスカリヒトの復活である。


 教皇は邪神よりも先に巫女の候補を見つけ出し保護せんとある策を講じた。


 神話によれば鞘の巫女はアシュバル人の赤子から選ばれると決まっているので、アシュバル人の妊婦たちを管理し巫女の候補を人工的に絞り込もうとしたのだ。


 人足の確保も必要なので避妊させることは得策ではない。


 よってアシュバル人の女は全て収容し自国の劣等人種と交配させ雑種を産ませた。


 (かた)や優秀な血統を作るために姫は懇ろに扱った。


 そのうちの一人が政略結婚で島嶼の小国セイドラントに嫁入りすることになった。


 セイドラントの王、ダルダニエ・ブロキスは親ラーヴァリエ派であったが夫候補の王子ザニエは反ラーヴァリエと噂されていた。


 そこで教皇はアシュバルの姫アルコに一計を授けた。


 お前がセイドラントを乗っ取るのだと。


 当時アルコには想い人がいた。


 ラーヴァリエの北方守護家の次男バティスタン・アーバインという男だ。


 教皇は姫の腰入りに従者としてバティスタンを就けた。


 二人はザニエに隠れ逢瀬(おうせ)を重ね、やがて女児を儲けた。


 その女児は生まれながらにして強大な魔力を持ち合わせていた。


 教皇の計略は成功した。


 あとは赤子を保護するだけだった。


 しかし教皇が巫女の候補を保護することが出来なかった。


 突如として父王を廃し王座に登ったザニエこそが邪神の器だったからだ。


 セイドラントは強大な力により一夜にして滅びた。


 だが蛇の力を以てしても巫女の候補を殺めることは出来なかった。


 やはりアスカリヒトが真に覚醒してからでないと決着をつけることは出来ない。


 そう考えたザニエ・ブロキス帝はある人物に赤ん坊を預けることにした。


 その者の名はジウ。


 ジウは千年を生きる魔法使いと言われ、ウェードミット諸島北部はアルマーナ島に隠棲する賢者だった。


 世の不文律を見守る賢者はブロキスの思惑に気づきながらも赤子を受け入れた。


 ジウ自身もまた別の目的があったからだ。


 かくして赤子は何も知らずにジウの元で成長し少女となった。


 消えた赤ん坊を見つけ出そうと暗躍していたラーヴァリエはアルマーナ島を覆う魔力がジウのものではなく実は少女のものであったと突き止めた。


 刺客を送ったラーヴァリエは紆余曲折ありつつもついに少女を保護することに成功する。


 だが喜びも束の間に、ラーヴァリエはブロキス帝によって急襲され首都を壊滅させられてしまった。


 少女は少女を探していたジウの住人によって瀬戸際で救出された。


 そしてジウの元へ帰る道中に誕生日を迎えた。


 少女が巫女の力を得るまであと僅か。


 それは一方で蛇神アスカリヒトの復活も近いことを示唆していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 元々土着信仰だったってことは割と広範囲で受け入れられてるこのになりますが、ラーヴァリエではどういう扱いなんでしょう? 一神教なので闇の女神云々が改変されてたりしそうです。
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