誰が為の力 10
仄暗い空間にリオンは横たわっていた。
いつからそこにいたのかは分からない。
気が付くと遠くに光が灯っていた。
ゆっくりと近づいてきたのは女性だった。
美しい女性だ。
黒髪に青い目、肌は透き通るように白く表情はどこか虚ろである。
髪を結う道具も服も見たことがない。
不思議な意匠はいったい何処の民族のものだろうか。
手にした照明も竹の骨組みに紙を張り付けたものということは分かるが初めて見る造形だ。
女性はリオンをのぞき込むと体を撫でた。
リオンは動くことが出来ない。
しかし視点は自分の体から離れどんどんと上昇していった。
自分たちがみるみる遠ざかっていく。
照明の灯りが小さくなっていくが俯瞰で見ると周囲にも光があることに気づく。
光は別の光と重なり一つの集合体となる。
それはやがて一筋の束となった。
枝だ。
枝は重なり合い大樹となる。
更に遠ざかると束ねられた光は更に別の束と重なっていく。
光は流れ、世界の輪郭を形成する。
そして絶え間なく流れていた。
リオンは理解した。
これは気脈だと。
自分は気脈の中にいる。
魔力を見ることが出来る少女の力が至高の境地へと昇華した瞬間であった。
「リオン!」
目覚めると豹の亜人が真剣な顔でのぞき込んでいた。
オタルバだ。
灯りがなくとも薄明りでぼんやりと見える。
明け方が近いのだろう。
「あんた……この魔力……。なんなんだい、この魔力の質は!?」
オタルバはリオンが急に魔力を解き放ったことに驚き飛び起きたのだ。
明らかに異常な魔力量だ。
にわかには信じられないがオタルバは今リオンの魔力の中にいることを感じていた。
その魔力は明らかに大賢老ジウやブロキス帝といった世界最高峰の魔法使いたちを軽く凌駕していた。
「……ああ、オタルバ。あのね私、女神に会ったよ。ううん、あれは女神の分身」
寝間着をたくし上げるとリオンの胴体に描かれていたラーヴァリエ教皇の魔法陣が赤くひび割れ消えていく途中だった。
迸るリオンの魔力が大気を震わせた。
巫女の力が解放される最終段階を迎えた。
リオンは十四歳になった。