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SKYED7 -リオン編- 下  作者: 九綱 玖須人
時が満ちる前に
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時が満ちる前に 5

 オタルバの雰囲気が変わった。


 まるで中身が入れ替わったかのようだ。


 大賢老が憑依したのだ。


 ジウの住人たちは固唾を飲んで言葉を待った。


 大賢老はわけあって皆に直接自身の言葉を届けることが出来ない。


 高い魔力を持つ者ならば彼の声は聞こえるがジウでそれが可能なのは審判のオタルバと自愛のイェメト、そしてリオンのみだ。


 イェメトはジウの大樹の頂に住みそこから催眠魔法の網を下ろして大樹を囲う使命があるのでおいそれと歩き回ることの出来ない身であった。


 よって全員集会で大賢老の言葉を代弁するときはほとんどがオタルバの役目となっていた。

 

『皆の者よ。不安と心配をかけてすまぬ。だが安心して欲しい。気脈の乱れは未だ感じてはいない』


 大賢老は続ける。


『アルマーナの王・テユカガの言うことは本当だ。何かが島に入り込んでいる。だがそこに魔力は感じられない。魔力を持たぬ人の類ならばいずれアルマーナの住人によって正体を暴かれよう。我は魔力を持たぬ者を見ることは出来ぬ。よって我の出る幕ではなく、我らが気にすることはない』


 ジウの言葉でどよめきが起き、住人のひとりが手を挙げた。


「ですが! ジウ、発言をお許しください! アルマーナはジウと交わした領土の取り決めを破り今回の件を利用して我らの土地を奪おうとしています! これを許してしまえばなし崩し的にすべて奪われてしまうことでしょう!」


『大地は誰のものでもない。ゆえに、奪うこともなければ奪われることもない』


「同胞が犠牲となります……!」


『侵入者を捕らえたいとアルマーナが望むならば協力してやれば良い。彼らは領土なる取り決めが捕り物の障害となることを懸念しているのだろう。君たちが暫く大樹の中にいれば済むことだ。それも僅かな時間だろう』


「それを屈したと取るのが奴らです! 侵入者が捕らえられる頃には南の森も、ロタウの浜辺も、すべてアルマーナが領土を主張していることでしょう! ……それに、その間にもしもジウを求める者が浜に辿り着いたらどうするのです?」


『我は非力だ。おおよそこの大樹の中ほどしか守ることが出来ぬ』


「見捨てるのですか!」


『不条理に飲まれる者たちは今この瞬間にも世界中にいる。救える者、救う者、救えない者、それらをどう線引きするというのかね?』


「救える命は救うのがジウの教えではないのですか……?」


『救えるものならば救いたい。だがそれには限度があるのだよ。我自身、己を鑑みたときに出来ることは我が元へ辿りついた者を守ること、その程度であった。だから私はこの大樹のみを守る。君たちが大樹の外に出て救いを求める者を探すことを否定したりはしない。ただし私はそこで起きる悲劇の可能性から君たちを守ることは出来ないだろう』


 大賢老は気脈を見守る者とも()われている。


 高位の魔法使いは魔力そのものを可視化でき、その魔力の流れが気脈となって世界を形作っていることを知っている。


 そして自身の言動がその気脈に影響を与えてしまうことも悟っていた。


 だから大賢老は世界の情勢に口入(くにゅう)することを(いと)うていた。


 ただし世の不文律(ふぶんりつ)の乱れを感じた時だけは自身のできる範囲でその乱れを正そうと動いたことが過去にもあった。


 十年ほど前に大きな不文律の乱れを感じた時はイェメトと共にジウの住人の数名に使命を託して世俗に介入したことがある。


 結果は大きな気脈の乱れは抑えられたものの、多くの命が失われ大切なものも失ってしまったという苦い経験があった。


 だから大賢老は自ら進んで行動を起こそうとはしなかった。


 ジウの住人たちも救うということの傲慢さを分かっていたからこそそれ以上は何も言えなかった。


 結局、全体合議によって今後の方針は侵入者がアルマーナの手によって捕らえられるまで住人は大樹から外に出ないことに決まった。


 その決定に反対を投じる者も少なくなかったが決まってしまっては従うしかなかった。


 リオンもルビクも反対の立場であったので大賢老の言葉には失望を隠しきれなかった。

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