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SKYED7 -リオン編- 下  作者: 九綱 玖須人
誰が為の力
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誰が為の力 5

 魔法道具の少女たちはまるで紙切れ同然だ。


 蛇神の分身がいよいよエーリカを見下ろす位置にまで迫る。


 その巨体からは元が幼気(いたいけ)な少女であったことなど微塵も(うかが)えない。


 手足があるので見た目は蛇というよりは二足歩行のとかげのようだ。


 ブロキス帝によって直接黒い炎雷を浴びせられた少女は四人。


 そして蛇神の分身も四体。


 分身によって殺された少女たちは(むご)たらしい焼死体となってはいるものの起き上がってくる様子はなかった。


 分身の分身が生まれないことがせめてもの救いだろうか。


 ただしそれでも四体もいる。


 対してリオンたちの中で戦えるのはエーリカしかいない。


 教皇は未だ拒絶の言葉を繰り返したままで、少女たちは盾にはなるもののそれ以上の動きはせずに無駄死にしていくばかりだった。


 不利というよりは座して死を待つ状態だろう。


 思考があるのだろうか、圧倒的な状況を前にして蛇神の分身が天を仰ぎ笑った。


 分身の首元に残っていた少女の仮面がべちゃりと地面に落ちる。


 甲高い不協和音のような声がリオンたちの耳を汚した。


 エーリカはその隙を反撃の好機と捉えた。


 低い姿勢から突進し腹に拳を打ち込む。


 めり込んだ拳は高温で(あぶ)られ血を噴いた。


 破れた腹部からは蒸気と体液が(あふ)れエーリカの皮膚を溶かす。


 火の通った腕を自ら()じ切ったエーリカは再生途中の骨の出ている腕を再び蛇神の化身の腹に叩き込んだ。


 分身の右の腹部が大きく切り開かれた。


 煩わしそうに振るわれた爪を避けて半回転し背中を分身の左側面に付ける。


 エーリカは大きく息を吸うと分身の左腕を掴みながら足を踏みつけ渾身(こんしん)の力を込めて背負い投げた。


 蛇神の分身の体が大きく割けた。


「おおおおおっ!」


 足を踏みつけているため下半身は動かない。


 逆に上半身は引っ張られる。


 切れ込みの入った部分から分身の体が真っ二つになった。


 上半身と下半身がそれぞれのたうち回り、やがて動かなくなった。


 エーリカは全身に火傷を負い声にならない悲鳴を上げて震えた。


 リオンにはエーリカの名を叫ぶことしか出来ない。


 その声に反応し残りの分身たちがリオンの元へ這い寄った。


 生き残っていた僅かな少女がリオンの前に飛び込み手を広げた。


 次の瞬間、少女は頭からかみ砕かれた。


 血肉の雨が降り注ぎ絶叫するリオン。


 その声を聞き即座に治癒で体を戻したエーリカが再び捨て身の体当たりをする。


 腰にしがみつかれた分身はゆっくりとエーリカの背に爪を立てた。


 ばりばりとめくられていく背中。


 歯を食いしばりエーリカはそのまま分身の腰を締め潰した。


 再び重度の火傷を負い動きの止まるエーリカ。


 その側面を別の分身が振るった腕が捉え、エーリカは宙を舞い瓦礫の中に盛大な音を立てて落ちて行った。


 エーリカは既に魔力が付きかけているはずだ。


 回復の速度が遅くなっていた。


 それなのに蛇神の分身はあと二体もいる。


 いや、なんと真っ二つになったはずの分身が再生し元に戻りつつあるではないか。


 敵うわけがない。


 リオンは恐ろしさのあまり温かいものを漏らしていた。


 勝てるわけがない。


 ブロキス帝が手を伸ばしているのが見える。


 二体の分身はどうやら皇帝の拘束の魔法により縛られていたようだったがたった今破られたようだ。


 動き出した分身たちと、蘇った分身たちで残る敵は再度四体。


 最初と変わりないのにエーリカは重傷を負い起き上がってくる気配はない。


 もはやこれまでだろう。


 今後のことを話し合ったのに。


 巫女の力だとか言われてそれを受け入れたのに。


 戦おうって決めたのにこんな急に最期が訪れるなんて……。


 何も出来ずに終わるなんて、思わなかった。


 その時だった。


 大勢の足音と共に光の矢が飛び分身たちの目を穿(うが)った。


 壊れた扉から雪崩れ込んできたのはルビクたちだ。


 衛兵と神官たちを連れたアルカラストが光の矢を放ち、分身たちの動きを封じた。

 

「な、なんだよこれ!?」


 ルビクが駆け寄って来た。


 まさか彼もこんなことになっているとは思わなかっただろう。


 まだ安心できる状況ではないがリオンはほっとして泣き出してしまった。


 エーリカの安否が気になる。


「あっちにエーリカ(あれ)がいる! トマスさん、治癒魔法をかけてやってください!」


「わかった! くそ……魔法人形は全滅か?」


「教皇様、私の背に! 教皇様!? ……おおい誰か手伝ってくれ!」


「アスカリヒトの分身か。初めて見た……」


「ぼさっとするな! ……なんだあれは……ゴドリック帝!?」


「足止めにしかならん! 攻撃魔法を持つ者は私に続け!」


 衛兵たちがアルカラストと共に分身たちを抑えている間にエーリカが回収される。


 神官たちは教皇を全員で囲いその場から撤退する。


 どこへ逃げるのかも分からないがとりあえず早急にこの場を後にしなければならない。


 うずくまったブロキスが炎に包まれ青い光を放っていた。


 大気が震え建物が揺れる。


 リオンはルビクに肩を支えられ長い廊下を逃げた。


 殿(しんがり)では攻撃魔法の詠唱の切れ目に蛇神の分身の反撃を受けて少しずつ衛兵たちが減っていく。


 無駄に広い大聖堂からの脱出は長く長く時を感じた。


 地震が起きる。


 皆が悲鳴をあげて床に転げる。


 窓が割れて石柱が倒れ、天井が吹き飛び見えたのは青空。



 そしてそこには……あるはずもない光景が広がっていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] アスカリヒトの炎で焼かれると多かれ少なかれ汚染されそうなので心配ですね。
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