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SKYED7 -リオン編- 下  作者: 九綱 玖須人
時が満ちる前に
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時が満ちる前に 4

 結局のところアルマーナ側とジウ側の主張は平行線を辿った。


 最終的にテユカガは、踏み荒らされたアルマーナの誇りのぶんだけ好きにさせてもらうと今後の領土侵犯を公言して去っていった。


 どのみちそれが狙いだったのだろう。


 昔からアルマーナは言いがかりばかりつけてくるのだ。


 テユカガたちが去ったあとオタルバとルーテルはやれやれと肩をすくめた。


「焚き火の跡に足跡、か。でっちあげようと思えばいくらでもでっちあげられる……な。どうせいつもの難癖だろう……が。時期が時期なだから……な」


「こりゃあ暫くの間は皆に集団行動を徹底させないとだねえ」


「被差別意識をこじらせた大馬鹿者どもに、何故俺様たちがこれほど譲歩せねばならないの……だ!」


「まったくだ。聞いているんだろう、ジウ、イェメト! 全員を談話室に集めな!」


 重要な話なので皆に周知せねばならなかった。


 オタルバはそこにいない第三者にむけて叫んだ。


「今外に出ている者……は?」


「エルバルドとノーラがいないくらいさね。あとは皆ジウの中だ。ああ……あとそこに二人だね」


 オタルバの鋭い視線は明らかにリオンたちを捉えていた。


 やはり気づかれていたようだった。


 罰が悪そうにリオンたちが草むらから現れるとルーテルはずけずけと歩み寄った。


壁のようなルーテルが自分めがけて迫ってくる様子はものすごい威圧感だった。


「リオン……! ルビク貴様、リオンを連れ出したの……か?」


「違うのルーテル、さっきそこであったの! ルビクは私を追いかけてきただけ!」


「す、す、すみませんルーテル師匠……止めるべきでした」


 ルビクの声は恐ろしさで震えていた。


 いつもは激情型のルーテルに押し殺した声を出されると逆に恐怖は一入(ひとしお)だった。


「そうだ。シュビナの鐘が聞こえなかったの……か? 聞こえたのにここに来たのならとんだ大馬鹿者……だ。貴様に独り立ちはまだ早すぎた……か?」


「次は、次はこんなことには、させません」


 ルーテルがルビクの鼻の先まで顔面を寄せた。


 草食動物の面容とはいえ血走った目と熱い鼻息が恐ろしい。


 生唾を飲むルビクは顔から血の気が引いて真っ青だ。


 大賢老の孫娘たるリオンが万が一にもテユカガたちとの争いに巻き込まれたら一大事であるためルーテルがルビクをきつく責めるのも無理はなかった。


「当然……だ。次はない……ぞ。リオンが外にいたら中に誘導するのを第一に……しろ! 肝に銘じてお……け!」


「私の気持ちなんかまるで無視だね」


「リオン。いいかい、あんたは大事な時期なんだ。わかっておくれよ」


「大事な時期、大事な時期って、そればっかり。だったら本当のことを言えばいいのに。十五の前後は魔力が不安定になるだなんてすぐに分かる嘘なんかつかないでさ」


「嘘だって分かってんならその台詞のどこが最も重要なのか察しな」


「お、おいオタル……バ!」


「もう面倒さね。嘘で結構じゃないか。あたしらも本当の理由なんか知らないんだからさ。だけどね、いいかいリオン。あたしらだってジウの言っていることを信じるしかないんだ。大事なのは原因じゃなくて結果だからね。ジウの言うように、十五を境にあんたの身に不幸があるってんならあたしらはあんたを守る義務がある。それが家族ってもんだ。それが(わずら)わしいってんなら……まあ、それもあんたの自由だけどね」


「…………」


 再び鐘の音が木霊した。


 シュビナが再び空を舞い談話室へ集合するように鐘を鳴らして回っていた。


 ルーテルに背中を小突かれて吹っ飛びそうになり耐えたルビクはちらりとリオンを見たがリオンは目を逸らしてしまった。


 ルビクは悲しそうな顔をしてルーテルの後へついていった。


 夜でもないのにジウの門がイェメトの睡眠魔法で閉ざされた。


 これで完全に外部から侵入者が入り込むことはない。


 リオンもオタルバに手を引かれながら大樹の中へと戻る。


 ジウの住人たちは何事かと談話室へ集まっていった。




 ジウの大樹の中には町がある。


 大樹の中は空洞になっており、その内壁に沿って建物が掛けられているのだ。


 外皮は掘って部屋を作れるほどに厚い。


 個人の家とは違い大勢が寄り集まる場所は外皮を掘って作られていた。


 ジウの談話室は広い。


 段上になっていて三百人超の住人が全員余裕をもって入ることが出来る。


 そこは主に話し合いが行われる場所だ。


 ジウでは代表による会議と全体での会議の二種類が行われる。


 いつもは有力な戦士たちによる会議で決まったことが住人たちの合議に回されそこで採決が取られる。


 しかし今回は最初から住人全員を集めた。


 談話室には大賢老と、自愛のイェメトと、外交でジウを空けているエルバルドたち以外の全てが集まった。


 オタルバとルーテルは全員の前に立った。


「聞きな! 先ほどアルマーナの王・テユカガがジウの門を訪れた! 曰く、ジウの誰かがアルマーナの土地を踏み犯しているってね!」


 一同はざわついた。


 アルマーナの住人が言いがかりをつけてくることは昨今ではほぼ毎日のことだ。


 だがテユカガが乗り込んで来るとは穏やかではなかった。


 あの傍若無人な統治者は自身が出てくることの意味を知っているはずだ。


 いつものようにただの難癖では済まされない。


「その反応を見ると誰もそんなことはしてないね。まあそれは疑っちゃいない。問題は、じゃあ誰がアルマーナに入ったかだ。焚火の跡があったという。つまり夜を明かしたってことさね」


「ありえない」


「船で来るしかないのにどうやって?」


「夜に船で来るしかないじゃないか」


「馬鹿な!」


 ジウの住人は口々に驚きの声をあげた。


 それもそのはずだった。


 アルマーナという島はウェードミット諸島の中で最も大きな島だが接岸できる場所は少ない。


 北から東にかけては断崖絶壁となっており南は海漂林(かいひょうりん)の群生地帯となっている。


 接岸しやすい西側の浜辺はアルマーナの土地であり、迂闊(うかつ)に上陸すれば部外者を毛嫌いしている住人たちに襲撃されるだろう。


 彼らは海からよそ者がこないかいつも見張っているのだ。


 流石に夜は彼らも警戒を解いてはいるが明かりもなしに上陸を試みるのは自殺行為だ。


 排他的なアルマーナの特性を知り夜に侵入しておきながらばれやすい火を使うという行為は矛盾なのか、それとも自分は捕獲されないという自信からくるものなのだろうか。


「オタルバ、侵入されたのは彼らの落ち度だ。それを我らの誰かの仕業などと責任転嫁するのはお門違いだ」


「正気とは思えないな。それを理由にしてこっちの土地に踏み込むだって!?」


「あいつらはおかしい。そうだろう? あいつらのせいでジウを頼って来た人々が何人犠牲になった? 接岸する場所が南側じゃなかったってだけで、ジウを頼りようやくここまで逃げて来た人たちが、いったい何人殺された?」


「オタルバ! ジウはなんて言っているんだ?」


「ジウ、答えてくれ!」


「そら、これが住人たちの声だ。ジウ、そろそろ答えておやりよ」


 その時オタルバの体を光が包んだ。


 その光はリオンにしか見えていなかったが、あれは大賢老が魔法使いの体を依り代にする時の光だ。


 オタルバは静かにそれを受け入れる。


 変化に気づいたルーテルが手をあげて皆の声を押しとどめた。


 オタルバが顔を上げた時、その眼には別の光が宿っていた。


 大賢老ジウがオタルバの体を借りて口を開いた。

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