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SKYED7 -リオン編- 下  作者: 九綱 玖須人
帝国の戦女神
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帝国の戦女神 2

「手を貸すったって……その強さがありゃあどこでもやってけるだろ」


「別にそれほど強くない。それに俺だって隙だらけだんだ。食事だってするし睡眠も必要だし」


「うんちもするし」


「ブロキス帝を見れば分かるだろう。あれだけの力がありながら集団を使っている。奴も独りの弱さを知っているんだ。俺も背後を預け合える仲間が欲しかった。帝国にも、ラーヴァリエにも、そして……あの地にも属さない強い者を探していた。お前が解放戦線に加わっていると知ってまたあの方の思惑で動いているのかと頭を抱えた。だが会ってみてお前がどこにも属していないことが分かった。だから協力して欲しいんだ。もちろん協力してくれるなら俺たちも手を貸すぞ」


「ふん……分かった。じゃあ俺たちの首領の元へ案内しよう。おい、俺一人で連れて行く。馬を用意しろ!」


 ブランクは鼻血を拭って周囲の手下に指示を出した。


 行動を開始しようとするブランクの前に焦ったコーエンが立ち塞がった。


「ブ、ブランクさん! へへ……どうだい連れてきて良かったろ?」


「ん?  ああ良くやった。コーエンだったな。働きは上にしっかり報告するから安心しとけ。報酬はそうだな……とりあえずカヌーク方面軍隊長を名乗っていいぞ。ただし威張り散らして略奪(りゃくだつ)とか働くなよ」


「あ、ありがとうございます!」


「君ただの幹部でしょ。あんなに簡単に役職決めていいの?」


「いいんだよ別に。役職なんて適当なんだから」


「おいおいこの組織大丈夫なの」


「うるせえなあ。エキトワ領とかバエシュ領でのちっちぇえ小競り合いなんかあくまでも俺たちの組織を敵に過小評価させるためのはったりなんだよ。だからこっちでの活動は正直どうでもいいんだ」


 満面の笑みのコーエンに送り出されてロブ達は再び馬に乗った。


 西に進む三人。


 暫く行くと前を案内するブランクが話しかけてきた。


「ノーマゲントでは仲間を募っていたのか?」


「いや、ノーマゲントとゴドリックは貿易問題で一触即発だ。巻き込まないためにもあそこで仲間を募ることは出来なかった。あくまでも帝国では帝国内で仲間を集める。そこで噂に聞いたのがお前たちだ」


「リオンはどこに?」


「社長に預けている。ジウに戻してやると嘘をついてしまったが実際に連れて行くのは安全なノーマゲントだ。向こうに着いたらじっくり話す。だがあの子の魔力はブロキス帝に筒抜けだ。刺客を贈られる前に力を削がなければならない」


「協力し合えるなら心強いが……なあロブ、ブロキスはリオンをどうしようとしているんだ?」


「リオンの魔力は異質だ。あの子は自分の意思で気脈を操ることが出来る。今はまだその使い方を知らないみたいだがやり方次第では世界中の気脈の流れを逆向きにすることも可能だろう」


「するとどうなる?」


「全て消える。反魔法を知っているだろう。魔力を逆の向きで当てるとその魔法は消滅する。それが大気中で発動する魔法だけでなく、万物に宿る気脈でも同じことが出来ると思えばいい」


「……悪いが理解できねえ」


「ブロキス帝はラーヴァリエを滅ぼすのに異常なまでの執念を燃やしている。ラーヴァリエの全てを一瞬にして葬り去るにはリオンの魔法は最適だ。だから必ずリオンをジウから連れ出そうとすると俺は予想した。俺たちはそれを阻止するためにアルマーナに潜入したんだ」


「だけど皇帝よりも先に動いていた奴がいたのよねえ」


「ブロキスよりも?」


「ラーヴァリエだ。しかもリオンと年も近いだろうに既に魔力を消す術を身に着けている高位の魔法使いが俺たちよりも先にジウに忍び込んでいた」


「なんだって!?」


「どこからリオンのことが漏れたのかは分からないがラーヴァリエもリオンを狙っている。いや、もしかしたらずっと知っていたのかもしれない。そういうわけでもはやあの子に安息の地はないんだ。ただ生まれただけで苦難を背負ってしまった可哀そうな子だ。俺はあんなに純粋な子を利用しようとする奴が許せない。俺が生きている限りあの子には指一本触れさせない」


「そういうことだったのか……」


「大賢老も信用できない。それはたぶん、お前がジウを去った理由と同じだろう」


「俺は自分たちだけ良ければそれでいいみたいなジウの姿勢が気に入らなかったのさ。気脈を守る、世の不文律を正すだなんて言っておきながら十年前にやったことは自分たちの中立不可侵を守るための小細工だっただろう? それで気付いたんだ。ジウは異端とされて追われた人を受け入れはするが()()()()()()()()()()()ってな。そもそも異端とされる人々はすでにその地で迫害されて弱り切っている。ジウを頼って逃げてくるまでに死んじまう人が殆どだったんだ。そういう人たちにジウが手を差し伸べる姿を俺は見たことがなかった。俺とかノーラみたいに上手く人間に溶け込める奴とか、ジウの住人になれた奴らがいるにも関わらず、俺たちに世界のどこかで苦しんでいる人を救ってくるように言ったことは一度もなかったんだ。そこで俺はそういう人を迎えに行ったみた。……ふっ、そしたら笑えるぜ。迎えに行くという行為は外から見れば人(さら)い以外の何物でもないんだとよ。怒られたぜ。ジウは体裁を守ることが第一なんだ。差別を受けて殺されそうにまでなっていたそいつのことなんか二の次だったんだって、解っちまったんだ」


「大賢老が守りたいのは気脈の正常な流れだ。ジウに自力で辿り着くことが出来るだけの力がなければそもそも受け入れるに値しない。受け入れた者に魔力を理解させようとしていたのはその者のためじゃない。自分と同様に気脈を見守ることの出来る存在を作りたかったからだ。お前はそれを勘で感じ取り、俺は見て知ったというわけだ」


「くそったれが。どいつもこいつも力があるのにてめえの事ばかりだよ」


「ところで、お前たちの首領は誰だ?」


「覚えてるか? ティムだ。ティムリート・ブランバエシュ」


「ああ……やはりか」


 ティムリート・ブランバエシュとはバエシュ領元領主の息子だ。


 バエシュは元々帝国とは別の国であり代々ブランバエシュ家が統治していた国家だ。


 それを先帝が併合し、レイトリフ家が代わりに治めるに至った。


 ブランバエシュ家は僅かな領地を与えられそこで不自由のない生活をしていたが、ブロキス帝の台頭後は先帝の縁者の血を引くという理由で密かにレイトリフに新皇帝として担ぎ上げられていたのだ。


「ブランバエシュ家か! 懐かしいねえ。いいところだったぜ」


「そういえばクランツ、お前レイトリフの最期の言葉をブランバエシュ家に伝えに行ったんだったな。レイトリフは最期になんて言ってたんだ?」


「ん? ありがとーってさ」


「なんか昔もそう言ってはぐらかされた気がするんだが」


「はぐらかしてねえよ。本当にそうなんだから」


「詳しくはティムに聞くといい。ティムはレイトリフについても皇帝についても色々調べている。色んなことを知ってるぜ」


「お前も色々聞いてるんだろ?」


「俺は……そういうのあんまり好きじゃなくてな」


「あっわかった! あなたおばかちゃんね!?」


「くそが!」


 エキトワ領の西端、アルテレナ軍道の起点まで移動する。


 そこは奇しくもロブが今の雇い主であるウィリー・ザッカレアと出会った場所だった。


 崩れた隧道は整備され立派な秘密基地が出来ていた。


 ランテヴィア解放戦線の本拠地に着いたロブ達はさっそくティムリートの元へ向かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 10年経ってたブランクかぁ。 ジウのみんなはどうなってるんだろう。
[一言] 人を超えた存在になると大きな流れしか見えなくなってしまうのでしょうね。 ロブがいずれそうなってしまう可能性も。
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