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SKYED7 -リオン編- 下  作者: 九綱 玖須人
ランテヴィアの革命志士
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ランテヴィアの革命志士 10

 方針が決まった。


 まずは全体の共通認識として、不法入国者を取り締まりに来た帝国兵たちを襲撃したのは十一年の沈黙を破って現れたロブ・ハーストとアルバス・クランツであるということで決定した。


 治安維持隊にも確認を取ったが維持隊の事なかれ主義たちは仕事を増やしたくないという態度があからさまで、ランテヴィア解放戦線の下っ端たちが現れたことはなかった事にすると容易に口裏を合わせてくれた。


 次はそれぞれの今後の動向だが、まずは沖に待たせていた船をクランツが取りに戻ってカヌークに着け、リオンを船に乗せたら再び沖で待機し闇夜に紛れてジウへ連れて帰るとする。


 ただし船にはロブもクランツも乗らず、両者はコーエンと共にランテヴィア解放戦線の秘密基地を目指すことにした。


 最後にマーロウ中隊は馬を出しエキトワ領方面軍基地にこの件を報告する。


 帝国軍が状況を確認しにカヌークへやって来た時にはもうリオンもロブ達も解放戦線もいないという寸法だった。


 マーロウは最後までこの決定は帝国への裏切り行為ではないかとぶつくさ言っていたが家名を出されては従わざるを得なかった。


 こうして各々は一度睡眠を取るに至った。


 朝が来て行動が開始される。


 クランツが出発し、昼過ぎに港に船籍不明の大型船が到着した。


 それを見たマーロウ大尉はロブたちに一層の警戒心を強めた。


 あれは外国の船ではないか。


 それに乗っている彼らが解放戦線と合流するということは、反乱分子が外国の支援を受けることになるのではないか。


 見過ごして良いものだろうか。


 今の自身の行動がまさに家名を貶めていることになっているのではないか。


 船から降りて来た男は不思議な存在だった。


 普遍的な顔過ぎて目を逸らしただけでもう記憶に残っていないような、特徴が希薄すぎる男なのだ。


 男はロブ達に社長と呼ばれていた。


 ロブがリオンの事を託すと社長は何度も大きく頷いてリオンを優しく船に迎え入れた。


 リオンは不安そうな顔をしていたがこうする他なかった。


 ジウには大海を一直線に渡ってれるほどの船がないので必ず中間のサロマ島を経由しなくてはならない。


 しかしサロマ島には帝国の国境警備隊がいる。


 つまり中立を維持したいジウがリオンを連れ戻すための船を出すということはジウにとっては難しい選択であり、それを待っているよりはこちらから行動を起こしたほうが早いのだ。


 リオンを乗せた船が自然の湾口であるヴリーク湾に出航するのを見届けたロブたちはコーエンと共に村を出発した。


 コーエンが話した解放戦線の幹部・剛腕のブランクの名にロブは覚えがあった。


 ブランクは元々ジウの住人であり十一年前に帝国から重要機密を盗み出す際に共闘したロブの仲間だ。


 亜人の血を引くものの見た目は完全に人間であるブランクはその外見を活かしてカヌークに潜入していたことがあり、その時の馴染みで解放戦線はカヌークを特別視しているというが何故彼はジウを離れ他国の反政府組織の幹部などになってしまっているのだろうか。


 確認する必要があった。


 それが昔馴染みの義理というものだった。


 コーエンは猛者ニ人が反乱軍に協力しようとしているのだと思って意気揚々だ。


 それを仲介したとあれば解放戦線内における自分の立場も上がるというものだ。


 コーエンたちに馬を借りて西を目指すロブたち。


 道中ではゴドリックの現状がよく見えた。


 荒れた土道に、なだらかな丘陵地が続く。


 一見すると緑が豊かでその光景は美しく見えた。


 だが時折目の前に出現する集落はまるで廃墟のようになっていた。


 カヌークの村はまだましなほうだった。


 行く先々の村や農場は荒れ放題となっており人々がか細く生活していた。


 十一年前に最大の敵国であったラーヴァリエ信教国と停戦合意が結ばれると地方には男手が戻り人々の暮らしは楽になるかと思いきや、外国からの安い農畜産物が輸入されるようになって国内の事業者はより深刻な打撃を受けたのだ。


 生産量縮小により人手は逆に邪魔となり多くの失業者が路頭に迷った。


 国が推す新たな産業は石炭の生産であり炭鉱夫の募集は常にあったが、死と隣り合わせの劣悪な環境のわりには低賃金であったことが人々の不満に火をつけた。


 貴族の多い西海岸と貧困に喘ぐ東部三領の民の生活格差もそれに拍車をかけた。


 分限者(ぶげんしゃ)たちにはブロキス帝は称えられているというが人口比率で言えば現帝政を非難する声は以前よりも一層多くなっているのが現状だった。


 完全に廃墟になった農場でロブ達は休憩を取る。


 本当は休憩などする必要はなかったがコーエンはマーロウたちの事を信用しておらず、追跡者がいないか手下に確認させに行ったのだった。


「思った以上に酷いねえ」


 革袋の水を飲みながらクランツがロブに話しかけた。


 ほとんど崩壊した小屋の中、苔むした机の冷たさが心地よい。


 周囲を索敵してくるといって出て行ったコーエンたちだったが近くから気配がする。


 おそらく自分たちのことも信用されておらず、彼らは解放戦線を紹介して欲しいと言ったロブの真意が知りたいのだろう。


「やはり戻ってきて正解だったな。この国は再び内乱が起きる。皇帝を倒す好機だ」


「うん? ……ああ、そうね。そうそう」


「まだ内地の人間は気づいていないだろうが同盟国であるダルナレアがラーヴァリエと揉めて今や一触即発だ。どういう事情があったかは知らないがダルナレアは世界から非難轟々(ひなんごうごう)だ。にも関わらずゴドリックは仲介に入ろうともせずに軍備を増強し始めている。ダルナレアを擁護して再びラーヴァリエと戦争する気があからさまだ。そろそろ徴兵も始まるだろう。軍事俸給に釣られてどれだけの失業者が前線に送られるだろうな。その先に待っているものは破滅だ。なんとしてもあの皇帝の蛮行は止めなければならない。十一年前には失敗したが、今度は成功させなくてはならない」


「そうそう。説明ありがとね、ロブちん」


「おい……」


 笑いを堪えているクランツにロブが突っ込む。


 確かに説明口調が強すぎたと思うがコーエンたちにはこれくらいが丁度よいだろう。


 程なくして偵察から帰って来たふりをしたコーエンたちが戻って来た。


 その顔は正義に燃えていた。


「そろそろ行くぜ! 基地はもうすぐそこだ。本当にあんたらが来てくれて心強いよ」


 コーエンたちに促されてロブ達は馬の元へ戻った。




 アルテレナ軍道。


 ゴドリック帝国北部から東部にかけて切り開かれたかつての軍用道路だ。


 ランテヴィア大陸がまだいくつかの国で覇権を争っていた時に東部侵攻に難航していたゴドリック帝国が開発した秘密の道である。


 そこは東部の広い平原を避けるように丘陵地帯を通り、道の大半が隧道(ずいどう)で構成されていた。


 大陸一統が成された後は逆に東部へ抜けるのに遠回りになることから閉鎖され今や隧道は崩落し通行不可能となっていた。


 しかし一部の闇商人などの間では安全な道として有名だった。


 その道が別の目的で使われるようになったのは最近になってからだ。


 ランテヴィア解放戦線が目をつけていくつかの基地を作ったのである。


 隧道を新たに掘り進めた解放戦線は至る所で神出鬼没の悪事を働くようになっていた。


 その基地のうちの一つに男はいた。


 入れ墨だらけの浅黒い肌に引き締まった筋肉を持ち、目は鷹のように鋭く冷たい光を放っている。


 ブランク・エインカヴニ。


 かつてロブと共に戦ったジウの戦士は十一年の時を経てランテヴィア解放戦線の指導者の右腕となっていた。

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