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SKYED7 -リオン編- 下  作者: 九綱 玖須人
ランテヴィアの革命志士
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ランテヴィアの革命志士 8

 クランツが村へ到着するのとほぼ同時に戦闘が終わった。


 倒された分隊長とロブに捕まる賊の長の間で両陣営が狼狽(ろうばい)している。


 どちらの勢力でもないたった一人の男によってこちらの戦場も掌握されてしまったらしい。


 ロブはリオンたちの救助をクランツに任せ帝国軍の分隊の動きを警戒していたのだ。


 ロブ達の活躍を見届けた村人たちがぞろぞろと出てきて縄で兵士と賊を拘束した。


 村人たちはロブが敵ではないと認識したようだ。


 女に呼ばれて組頭たちが戻ってくる。


 そこで彼らが見たものはかがり火の中で捕縛され陣営問わず一列に正座させられている間抜けな男たちの姿だった。


 組頭は一時休戦を唱え女たちに手当するよう指示した。


 一方で組頭はロブとクランツに礼を言い年寄衆を集め、賊の長とマーロウ大尉を呼ぶ。


 賊の長はやはり村人たちの知り合いで元々アルバレル修道院の警護を担当していた用心棒だった。


 彼らは治安の悪化で修道院が閉鎖されるに(ともな)って職を失い、そのままランテヴィア解放戦線に加わったのだ。


 食堂の中に組頭と年寄衆、リオン、ロブ、クランツ、マーロウ大尉、賊の長が一堂に会する。


 組頭はマーロウに鞭で打たれた顔の傷を濡らした布で乱雑に拭いつつさっそく本題を切り出した。


「まずはずいぶんな事になっちまったが、とりあえず死人が出てねえのは幸いなこった。軍の方々には重傷者が多いけどもよ」


 ロブに顔を向けられクランツは自分のこめかみに拳を当てながら片目をつむり舌を出してみせた。


 リオンが若干引いた。


 リオンはロブの手当てをしている。


 右肩に銃弾がかすっただけなので大した傷ではないがクランツには盛大に馬鹿にされた。


「そこの御二人が何とかしてくれなかったらどうなっていたことやら。やい、まずは兵隊さんよ、こんな夜更けにどうしてリオンを狙ってきたんだ」


 同じ目線で組頭に話しかけられてマーロウはだいぶ尊厳を傷つけられたようだが敗軍の将としての潔さはあるようで多少の躊躇(ちゅうちょ)はあったものの口を開いた。


「……村に不法入国者がいるゆえ見せしめの為に捕らえ帝都へ送るべしとの下知を賜ったのだ。まさか娘子(むすめご)一人しかおらぬとは思わなかった。帝都から私に直接の御下知であったゆえ、貴族である私を(おもんぱか)っての実績作りかと思った。アルバス・クランツ……まさかその男の捕縛が本命であったとはな。そうと知ってからも……ヘイデン大佐閣下の御配慮だと思うていた」


「ヘイデン? またあいつか……」


「懐かしい名前だねっ! 大佐かぁ。ま、十年経ってりゃそりゃ昇進もしてるか」


「おじさんたちの知り合いの人?」


「色々な」


「……なるほどな。とりあえず兵隊さんが何故来たのかは分かった。ではコーエン、あんたらは何故来た?」


 禿頭の賊長は居心地悪そうに答える。


「何故って、てめえらが呼んだからだろうが……」


 組頭はやっぱりという顔をし、年寄衆は溜め息を漏らした。


「悪いがコーエン、俺もじい様方もなんの許可も出してねえ話だ。だがそっちに要請があったんならこっちの落ち度だな。すまなかった」


「村人さんとお禿げちゃんはどういう関係なんだい?」


「彼らは元アルバレル修道院の働き手だ。職を失ったせいで解放戦線に加わった。俺らカヌークの住人とは顔馴染みで、困ったことがあったら相談に乗るって言われてたのさ」


「解放戦線は港が欲しいだけだ! カヌークの民よ、そして解放戦線に加わりし無頼の者どもよ。私が取り持ってやるゆえ解放戦線とは手を切るのだ。そして戦線の本拠地を言え。さすれば悪いようにはせん!」


「マーロウちゃん、ちょっと黙っててくれないかな?」


「あ、はい」


「よしよし。で、お禿げちゃんは村人さんから軍が来てるから助けてくれって言われて来たのね。にしてはずいぶん到着が早かったね?」


「ああ? 救援要請じゃねえよ。ジウの餓鬼がいるから来いって言われて来たんだ。解放戦線の上層部は広く味方を欲している。あのジウが味方になりゃあ凄げえだろ。俺は餓鬼を手土産にして戦線の幹部にしてもらう予定だった。なのに来たら軍がいていきなり戦闘になっちまったってわけだ。最初はてめえらが俺らを軍に売ったのかと思ったぜ」


「わぁー……なんだかお馬鹿がにじみ出てる作戦ね」


「ああっ!?」


「誰もが正確な情報を持たずに集結しちまったってこったな。つくづく死者が出なくて良かったぜ。こんなんで死んじまったら浮かばれるもんも浮かばれねえからな」


 ロブは皆の話を聞きつつ自分を手当てしてくれているリオンが気になっていた。


 先ほどから仕上げに包帯を結ぶところで何度も解いて結んでを繰り返している。


 少女は気丈に振舞っているものの昨日から襲撃に次ぐ襲撃で血を多く見ており精神的に参っているのだろう。


 細かな表情はロブには分からないが手の震えが伝わってきていた。


「リオン……だったな。ありがとう、もういい」


「待って。もっと綺麗に結べるはずだから」


「充分綺麗だ」


「まさか」


 リオンが若干苛ついた声をあげ、それに気づいたクランツが茶々を入れた。


「そうだぞロブちん、見えてないくせに適当言っちゃいけねえぜ。結構ぐちゃぐちゃよ?」


「そこまで言われるほどじゃないもん。って、あなた……目が見えてないの?」


 リオンは、いやリオンだけじゃなくクランツ以外の全員がロブの目隠しに興味があった。


 大立ち回りをしているのでまさか見えていないとは思っていない。


 視線を相手に気取られないためにあえて目隠しのような布をしており実際は透けて見えているのだろう。


 本当に見えていないのだとしたらアルバス・クランツ以上の化物ではないか。


「クランツ、余計なことを言うな」


「目隠し取ってみていい?」


「駄目だ」


「ところで兄さん、あんたの名前を聞いてなかった。あんた名は?」


「……ロブ・ハーストだ。十年ほど前にこの村には来たことがある」


 男たちは驚いた。


 ロブ・ハーストとは十一年前に帝国の重要機密を盗み出して国外逃亡を図った犯罪者の名だ。


 村に来た理由は逃亡用の船の工面であり、それは失敗に終わったが数か月後にはクランツと共に別の場所で大事件を起こして消息を絶っていた。


 まさか帝国史に残る大罪人が揃って現れるとは誰が予想出来るだろう。


「そうだ、コーエンとか言ったな。お前らが失業したのは俺が修道院から重要機密を持ち出したせいかもしれない。すまん」


「……いや別に、俺があそこの用心棒になったのは六年前だからよ……。にしても、まさか()()()()に会えるとは思わなかったぜ。あんたの存在は伝説だ!」


「古いあだ名だ」


「おじさんは伝説になってないの?」


「アルバス・クランツと一緒にいるからもしやと思っていたが……」


「人相書きには目も描かれていたゆえ気付かなんだ」


 村人も賊もロブの素性を肯定的に捉え興奮していた。


 場の雰囲気に飲まれたか帝国兵であるマーロウまでも浮付(うわつ)いている。


 いや、犯罪者となった点を除けばロブの兵士時代の戦功は敬服に値するものだった。


 銃弾飛び交う戦場で何度も突撃命令から生還した男の人気は陰ながら健在だった。


「あんたら今までどこにいたんじゃ」


「それは言えない。だが国外にいた」


「何故戻って来た?」


「それは言えない……」


「私を助けるようにっておじいちゃんに言われて来たんじゃなかったの?」


「なに?」


「そうだよ! ね、ロブちん。ね!」


「おじいちゃん?」


「あー……もう」


「やっぱり……昨日の今日だしおじいちゃんが外の誰かに助けをお願いするなんておかしな話だし、変だと思ったんだ。あなたたち、昨日の覆面の人たちでしょ。どうやって私の居場所が分かったの? 何が目的なわけ?」


 ロブはクランツがリオンについた嘘を察した。


 せっかく黙っていたのにまさかリオンにしてやられるとは思わなかった。


 気丈なうえになかなか賢しい娘である。


 完全に気を抜いていたロブは舌を巻くばかりだった。

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