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リオン 4

 リオンたちはセイドラントに寄港した。


 細かな瓦礫が残る王城跡地に献花する。


 ここは死を司る蛇神の復活に際し最初に犠牲になったところと言っても過言ではない。


 船の司令官や兵士たちも含め大勢の者たちが罪なき人民と、そして大津波や撤退戦で犠牲になった同胞たちの鎮魂の為に黙祷した。


「何か置いていきたいし、貰いたいんだけどね。私だって分かるものは身に着けてないし、あなたからも何も貰えなかったから仕方ないよね」


 祈りを捧げながら呟くリオン。


 その言葉の本当の意味を知っている者は少ない。


 後にこの地はロタウ公国領となるが開発や入植は一切行われず風化していく。


 それがリオンの願いであり、想いであった。




 ランテヴィア共和国、リンドナル領ダンカレム。


 既に吉報はシュビナによって伝えられており、大転進記念祭が終わった港に到着した船団を見て群衆の歓迎は最高潮に達した。


 降りてくる英雄たちを迎え入れるのは旧リンドナル王家のヘジンボサムである。


 ブロキス帝の正体を知っていたバンクリフ・ヘジンボサムは、ここでもダルナレアで唱えた演説を繰り返したリオンに心の中で深く謝意を示した。


 そこから再び船に戻りテルシェデントへと入港する。


 テルシェデントからは陸路で首都ゾアを目指す。


「さて、では私たちはここで」


 バエシュ領テルシェデントでの歓待を受けたリオンたちに再び別れの時が訪れた。


 ウィリーたちが同行するのはここでおしまいだと言うのだ。


 てっきり一緒にティムリートの元へ行き表彰を受けるべきだと思っていたリオンは目を丸くして驚いた。


 ウィリーはダグたち商隊の社員を見渡して、彼らの頷きを確認すると肩をすくめてみせた。


「私たちは民間企業ですから。あまり国とは近くならないほうがこっちとしてもやりやすいんですよ。それに……いいですかリオンさん。私の夢は世界平和です。神聖大陸のあの状況を放ってはおけませんよ」


「やる気だぜ、うちの大将は。どっこにでも首を突っ込むんだ」


「とんぼ返りする気ですかよ。舵を取るこっちの身にもなれってんです」


「とりあえずリオンちゃんたちは無事に送り届けたからな。費用はブランバエシュ家宛てに請求すればいいのか? これまでの運航費と……あとはこれからの神聖大陸までの石炭代と武器の買い付け費用くらいは貰っておきたい。それでもなんだかんだでとんとんだぜ。ま、神聖大陸では今どいつもこいつも武器が欲しくてたまらないだろうからな。儲けはそっちで吹っ掛けるさ。今度は給料が出るといいんだがね」


「グレコさんあまり台所事情を漏らさないでください」


「ふぇふぇふぇふぇふぇ」


「ラグナ、貴方はどうしますか?」


「俺は……すんません社長、退社していいっすか」


「残念ですが仕方ないですね」


「燃料当番いなくなんのかよぉ。んじゃ、ビビおまえやれよ」


「ふぁっし!」


「すんませんビビさん……いってえ! 何すんだよリオン!? 耳が取れちまうだろ!」


「あんた今ビビに抱き着いておっぱい触ろうとしたでしょ」


「し、してねえよ」


「相変わらず助平だなおめえは! こいつぁ大成するぜ。がはは!」


「はあ……社員募集かけないと」


 ザッカレア商会、ウィリー・ザッカレア。ダグ。グレコ。ビビ。カート。


 彼らは再度泥沼と化した神聖大陸に渡り勢力を問わず武器を売り(さば)いて膠着(こうちゃく)状態を作り出した。


 理想のために死の商人に扮した男たちはその利益の殆どを戦災に充て大陸の復興に人生を捧げたという。


 後に世界的な貿易会社となる若き初代は病没するまで船と共にあった。




 リオン、ラグ・レ、オタルバ、ノーラ、ラグナは軍を従えて首都に凱旋する道中にラグナの故郷に立ち寄った。


 既にティムリートが手配をし、燃えた家屋も遺体も適切に処理されて集落は更地になっていた。


 家のあった場所には分かりやすく被害者の特徴が掛かれた墓標が建てられている。


 ラグ・レは自分の首にかけていた牙狼のお守りを外すとそのうちの一つにかけた。


 それはラグナの母の墓だった。


 思い起こせば十余年前、空腹に泣くリオンをどうしたらいいか分からず泣きながら戸を叩いた家がラグナの家であったことは運命だったのかもしれない。


 その子供であるラグナもリオンの危機を救っている。


 ありがたくもあるが自分が来てしまったことがこの一家の命運を決定づけてしまったのではないかと自嘲するラグ・レに少年は言った。

 

「前にも言ったろ。俺の名前はたった一人でも意志を持って使命をやり遂げようとしていた立派な戦士の名前からとられたんだって。村がやられた事はぜんぜん関係ねえ話だし、むしろラグ・レがここに来てくれたおかげで今俺はここにいるんだ。感謝してるよ」


 アナイの戦士ラグ・レ。


 数奇なる物語は彼女がリオンを修道院から連れ去る任務に立候補したところから始まったのかもしれない。


 リオンの姉のような存在として傍に在り続けた彼女はついに自身の起源であるアナイの民の元へ帰ることなく天寿を全うする。


 何故なら彼女は自分こそがアナイの民であり、自分のいる場所が本当の居場所だと信じていたからだ。




 こうして首都ゾアへ戻り、共和国の代表の一人であるティムリート・ブランバエシュに報告をしたリオンは暫く国内のみならず世界を巡る演説の旅をした。


 空に現れた蛇神の目によって終末思想を植え付けられ、鞘の巫女によってその恐怖を拭われた人々は実際に目にしたリオンに多くの勇気を貰ったという。


 長旅から帰ったリオンは暫くランテヴィア共和国にて平和な時を過ごしていたが、ある事件を引き金にして再び立ち上がった。


 アルマーナの民がランテヴィア・ノーマゲント間で難破(なんぱ)し島に流れ着いた商人たちを襲ったとの報せが入ったからだ。


 両国はリオンに従って軍勢を編成し、話し合いに応じようとしないアルマーナに攻め入った。


 首領テユカガ率いるアルマーナ軍は多勢に無勢でありあっという間に滅ぼされる。


 ランテヴィア・ノーマゲントの話し合いによりアルマーナ島の所有権はリオンに譲渡されることになった。


 リオンはラグ・レ、オタルバ、シュビナ、ラグナと共に国を(おこ)し、国名をジウの入口であった海漂林(かいひょうりん)の浜辺からとってロタウと名付けたのだった。


 国の代表となったリオンは多くの人々に支えられ立派に(まつりごと)をこなしていった。


 その傍らで常に彼女を励ましていたラグナと結ばれるのは暫く後の話である。


 ラグナは炭焼きの子から国家元首に昇りつめた立身出世の代名詞として歴史に語り継がれることになる。


 ただし浮気癖があったようでリオンはほとほと手を焼いたとのことだ。


 梟の亜人シュビナは短命の亜人だったらしくジウ奪還後すぐに若くしてこの世を去った。


 亜人は見た目では寿命が分かりづらいのだ。


 故郷に帰り安心したのか、穏やかに日を浴びていた彼女が再び目を開けることはなかった。


 その顔は彼女の愛した女性に抱かれているかのように幸せそうだったという。


 審判のオタルバもまたアルバス・クランツのように消息が分からなくなった者の一人だ。


 リオンが爵位を得、公国となったロタウの盛況を見届けたオタルバはふと姿を消してしまう。


 しかしリオンは捜索の手を出さなかった。


 彼女の行方が分かっていたからである。


 毛並に白いものが混じるようになったオタルバは自分の役目は終わったとよく周囲に漏らしていたらしい。


 また、多くの死を看取って来たせいか、自分の葬式なんか冗談じゃないよと啖呵(たんか)を切っていた。


 そしてオタルバがいなくなった日は彼女だけではなくリオンにとっても特別な日だった。


 その日は彼女が愛した盲目の戦士の命日だったのだ。


 誇り高き(ひょう)の亜人は自らの最期を(さら)さなかった。


 ようやく想いを告げる気になったんだね、とリオンは泣きながら笑って彼女の旅を祝福した。


 オタルバはロブ・ハーストに会いに行ったのだ。


 そう思えばリオンは悲しくなかった。


 そしてリオン。


 いや、リオーニエ・ブロキスと敢えて呼ぼうか。


 彼女は繋世の巫女にあやかり救世の巫女と呼ばれ世界中の人々から愛された。


 その影響力は()も知っているだろう。


 子宝にも恵まれ幸せな一生を過ごした彼女だったが、この時点ではまだ答えの出せない事があることに気づいただろうか。


 果たして彼女は本当に最後の巫女だったのか、そして本当に真名の誓約は解かれたのだろうかという事だ。


 その答えは後の歴史が証明しているがね。


 今は言及をよそうじゃないか。


 さて。


 英雄たちの晩年についてはこれくらいにしようか。


 次に歴史の転換を述べてこの物語を語り終えよう。


 時は少し遡る。


 それはリオンたちがアスカリヒトを倒して首都に戻った直後の北の列強、ロデスティニアでのことだ……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ヘイデンについてでしょうか… [一言] アルマーナに攻め入るリオン、意外と容赦ないですね
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