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決戦 9

 ブロキスの体を(まと)ったアスカリヒトとロブの戦いが始まった。


 圧倒的不利な状況だ。


 匹敵するほどの力があれば別なのだろうが相手は神と名が付く存在である。


 多少の攻撃を加えることには意味がなく、リオンの反魔法でしか倒すことが出来ない。


 ブロキスの見えない糸のような魔法は脅威だ。


 魔力を可視化できるロブでさえ飛んでくる糸の速さに反応するのがやっとである。


 避けることは出来ない。


 アスカリヒトがリオンを巻き込むかたちで攻撃を繰り出してきているからだ。


 炎の力で糸を燃やし、大きな攻撃を繰り出される前に距離を詰め刺突を放つ。


 天も地もないこの空間では避ける方向も自由自在であり平衡感覚が狂う。


 蛇神は器用に足場を変えてリオンに凶刃を向けるもののロブもこれによく対処した。


 魔力を省力している時は常に暗闇の中にいるのでこの状況には多少慣れているからだ。


 とはいえ頭数が欲しい。


 最強と覚えめでたいロブでもたった一人で邪神に立ち向かうのは荷が重すぎた。


 ただ、この空間で戦うことが前提であればブロキスがリオンの他にロブだけを指名したのも納得できる理由があった。


 ロブもそれが分かっていた。


 捕縛を主としていた見えない糸が鋭利になる。


 身体を切り裂かれ鮮血が飛んだ。


 圧倒的な魔力の保有量により力の差が如実に現れ始めた。


 膝関節を穿(うが)たれついに間合いを詰めることも出来なくなったロブは身体から高熱を発した。


 リオンは焦った。


 ロブが邪神の力を解放しようとしている。


 それはテルシェデントで使ったとされる力。


 使徒のような姿となる禁忌だ。


 確かにもうそれしか道が残されていないのかもしれない。


 使徒の姿になれば再び動くことも出来よう。


 だが穢れた炎の力が本体であるアスカリヒトに通じるとは思えない。


 それどころか暴走して自分に向かって来ないとも限らなかった。


 早くアスカリヒトの魔力の流れを捉えなければ。


 集中しようにもブロキスの魔力が複雑に絡み合っていて本質が見えない。


 封印が解かれた今も暴君の体を依り代とし続ける理由はこれだったか。


 ただしそれは人間という制約の大きい器を用いたままでも問題ないと思われていることの裏返しであり、リオンたちはだいぶ舐められたものだった。

 

 アスカリヒトはリオンを充分に警戒しているつもりだった。


 目覚める前から彼の者の魔力の超大さには気づいていた。


 少女の魔力は歴代の巫女たちに比べても群を抜いている。


 しかし巫女の力は従者が揃っていなければ発揮することが出来ないのだ。


 巫女の最大の武器は反魔法という浄化の力である。


 対象の魔力の流れと逆向きかつ同等の魔力をぶつけることで相殺し無効化するという力だ。


 魔力の流れは不定形であり常に変化しているため探るのには時間を要する。


 その無抵抗状態は、例えどれほど力のある巫女であっても自力で補うことが出来ない。


 そこで従者である。


 従者は巫女がアスカリヒトの魔力を探知するまで時間を稼ぐ存在だ。


 目の前の槍使いの男は腕に多少の覚えがあり何故か自身の分身が持つ力を使えるようだが最も脅威に思うのは数の暴力だ。


 肉の壁にもなれない精鋭など、無尽蔵ともいえる程に魔力を有するアスカリヒトの前では無力に等しかった。


 そう思っていた。


 黒い炎雷に身を包んだ怪物が文字通り雷如き速さでブロキスの肉体を抉った。


 信じられないとばかりにロブを見るアスカリヒト。


 その眼には明らかに意志が宿っていた。


 意志が呪いに打ち勝ったのである。


 使徒は意志を持つ者がその力を受け入れると大いなる可能性を見出す。


 四対の腕を弓に変え魔法の矢を放ったアルカラストや胴体を空間転移の門へと変えたサイラスがその例と言える。


 ロブは使徒の身体能力をそのままに彼らのように自我を保つことに成功した。


 それはひとえにリオンを守る、ただその一心によるものだった。


 ブロキスの肉体は既に死している。


 が、欠損が続けば自由に動けなくなり状況は悪くなる。


 ロブを侮っていたアスカリヒトは一転して苦境に立たされた。


 この依り代は彼らの反応から知人であると推察し、ろくに攻撃も出来ないだろうと思い留まっていたことも誤算であった。


 ブロキスの魔法が使えなくなれば魔力の流れはアスカリヒトのものだけとなる。


 そうなれば肉体はより一層自分に制約を科すだけの(かせ)となる。


 たまらずに蛇神はブロキスの肉体から飛び出した。


 強烈な光の中でロブが叫んだ。


「今だ、リオン!」


 捕捉した。


 大きく腕を広げたリオンはその手を前に出し自身の魔力をアスカリヒトに送り込む。


 光と光がぶつかり合った。


 それは音もなく集束すると、悲鳴にも似た咆哮を上げて空間を揺さぶった。


 轟音が止むとリオンの姿は消えていた。


 おそらく最後の地への道が開かれたのだろう。


 あの娘はアスカリヒトと共に気脈の(ひずみ)へと行ったのだ。


 戻って来られるか分からない、最果ての地へ。


「リオン……無事に帰って来いよ……」


 それだけ呟くとロブは気絶して空間に倒れ伏した。


 魔力はまだ残っているものの体のほうが限界だったのだ。


 穢れた炎が消え去り元の姿へと戻る。


 気脈の道は再び静けさを取り戻した。

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