決戦 6
「ど、どうしたんですか、皆さん!」
時は少し戻り船団に囲まれたザッカレア商船の上。
遥か先の方角を見つめ物思いに耽っていたウィリーが異音に気付いて顔を向けるとそこには見送ったはずの一行がいた。
何故、あともう少しで日付が変わろうとしている今戻ってきたのか。
リオンとロブが見当たらず問い詰められたオタルバは直前にブロキスから計略を打ち明けられたことを語った。
ブロキスは精隷石を使ってかつてのセイドラントの再現を行うつもりだった。
ラーヴァリエ信教を強く信じる者たちをまとめて滅ぼすにはまたとない好機だったのだ。
リオンとロブ以外を連れて逃げろと託されたのはリオンが持っていた雨燕の精隷石だった。
二人を必ず守ってみせるという言葉を信じ、ブロキスに命じられた使徒エーリカの治癒魔法を受けたオタルバは教皇がイェメトの魔法に気を取られている隙をついて離脱した。
敵であるブロキスの言動を瞬時に信用出来たのは十余年前の大転進記念祭でロブと共にブロキスから真実を聞いていたからかもしれない。
それを前提として考えれば彼の支離滅裂に見える行動は全て一つの信念に基づいていたといえた。
何故敵であるブロキスの言葉を受け入れたのかとウィリーに問われるもそれを説明することは憚られた。
「おい、オタルバよ。シュビナもいないぞ。奴はどこかへ飛んで行ってしまったから傍にはいなかったのだ」
「…………」
「なんだと!? ということはまだあそこにいるってことか!?」
「爆発すんだろ? 不味いんじゃねえのか。姐さん、助けに戻らねえとだぜ」
「無理さ。使ったばかりだったからね。それに……時間がなかったんだ。シュビナを探す時間なんかなかったんだよ」
「じゃあ嘘をついたのか? シュビナなら大丈夫だって。何が大丈夫だと言うのだ!」
「そうでも言わなけりゃじゃあ戻ろうてならなかったろ! 近くにイェメトがいたはずなんだ。きっとあの子は会いに行ったに違いないよ。奴の傍にいれば……大丈夫さね」
「何を根拠に……」
「ねえねえ社長さん。足型の装甲義肢あったよね? あれって俺が使ってひとっ走り行って来れないかなあ。ダロット君は? 寝てるの?」
「えっ足型? あ、あれは、その。……時間も時間ですから殆どの人が寝てますよ。あと、今から調整しなおして走っていくより精隷石の魔力の回復を待ったほうが絶対早いと思います」
「オタルバ……。リオンたちにもしものことがあったらお前、許さんぞ。ブロキスなんぞの口車に乗りおって。あの場においてブロキスは最も信用できない者の一人だっただろうに」
「ふん、確かにあの男はろくでもない奴さね。だけど今はねえ、この瞬間だけは……味方とは言えないけれど信用だけは出来るんだ。それもそうだ。なんてったってあの男は……」
オタルバは寂し気に笑うも明るく光る地平線に気づくとすぐに表情を変えた。
「リオンたちを心配するのも大切だけどね、ここものんびりしていられないよ!」
「な、なんです?」
「でかい爆発が今ラーヴァリエの首都で起こった。セイドラントを滅ぼしたものよりももっとでかいやつだ。そのうちに揺れと衝撃波が来る。これだけ海岸から離れてても引き戻しの波にやられるかもしれない。船団に伝達するんだ、急ぎな!」
オタルバが言いかけた言葉が気になるも緊急性を察したウィリーはすぐさま行動に移った。
信号を送り船団を沖へと避難させる。
首都エンスパリは馬で一週間はかかる距離だというのにそこから到達する衝撃とは如何なるものだろうか。
その中心にいるであろうリオンたちも当然だが、数日前に足型の装甲義肢を盗んでダロットに調整させ単騎で出て行った大馬鹿者の安否も心配でならないウィリーであった。