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決戦 2

 大聖堂を中心として裾野(すその)のように広がる街並みは伝統が積み重なり迷路のようになっている。


 リオンたちは哨戒(しょうかい)を回避しながら進んでいき二等国民の居住区を越えた。


 シュビナの偵察を元に兵役経験者たちが協議して経路を定め、亜人の優れた五感を頼りに進んでいく。


 その動きはまるで洗練された一個の軍隊そのものであった。


 一等国民居住区郊外(こうがい)の廃屋にて動向を確認すること二日。


 ブロキスの魔力は依然として大聖堂にあった。


 リオンが元日に巫女の力を授かったことを(かんが)みればアスカリヒトもそうなのではないかと考えた一同。


 よって突入は三月十日の日没と共に決行することと相成った。


 会敵が早すぎれば敵の集合を招いてしまう。


 遅ければ復活した邪神に行動を許してしまう。


 これからの行動の全てが命運を左右する。


 日が沈み、辺りは暗くなった。


 蝋燭(ろうそく)を持った群衆が続々と大聖堂前の広場に集まり出す。


 先ほどの六つ時の鐘が合図か。


 敵も神の復活が今日であると予想しているのか、首都の人口は都民に加え大陸全土から集まった貴族たちが合わさり大群衆となっているので見つかったらひとたまりもないだろう。


 しかし彼らはリオンたちを妨害するために集められたといった様子ではなかった。


 人通りの少ない路地を行く。


 時々進行方向を塞いでいる警邏(けいら)を倒していると爆音が鳴った。


 見上げれば夜空に大輪の花火が次々と打ちあがっているではないか。


 大聖堂に入るまでは隠密を貫きたいリオンたちにとっては好都合だった。


「きれい……」


「まるでお祝いさね。そりゃそうか、連中にとっては自分たちの信じる神様の復活が間近なんだもんねえ」


「私たちのことをそっちのけでこんな事を始めるとは舐められたものだな!」


「行こう。奴らが上に気を取られている今が好機だ」


 戦闘で生じる音が花火や人々の歓声でかき消される。


 ラグ・レの言う通り、ブロキスは確実にリオンが来ていることを知っているであろうになんと悠長なことだろう。


 むしろまるで潜入を手助けしているかのような。


 ロブとオタルバは少しだけ意識し合ったがリオンを促して先へと急いだ。


 大聖堂へ辿り着く。


 壊れていた橋は元通りに修復され、数か月前に微睡(まどろ)みの中で目覚めたアスカリヒトに破壊された傷跡は見えない。


 どれだけの人間を昼夜働かせれば僅かな工期で徹底的に破壊された大聖堂まで元に戻せるのだろうか。


 衛兵を蹴散らして進むと中から邪悪な気配を感じた。


「リオン」


「うん。いる。でもこれは……誰だろう。すごく嫌な気配」


「オタルバ、これは……」


「ああ。血の臭いだ」


「だいたい想像がついたよ。行こうみんな。私ならもう、何が起きても大丈夫だから」


 向こう側に広がる光景を心配した一同だったがしっかりと前を見据えるリオンの覚悟を尊重して扉を開ける。


 やはりそこには目を覆いたくなる惨状が広がっていた。


 大広間に散らばる斬殺死体と血の海。


 何十人もの少女だったものが首を切られ、四肢を落とされ、乳房を抉られ、臓腑を掻きだされていた。


 仮面を顔に縫い付けられた少女たちが壁際に並び同胞の死に全く反応を示していないことも異様だった。


 これがリオンの言っていた少女たちか。


 聖堂の崩壊と共に全て死んでしまったと聞いていたがまた用意したというのか。


 人間の尊厳を踏みにじる蛮行の数々に一行は目を背けるよりも先に怒りを覚えた。


「お、遅かったではないか」


 正面の階段に座って肉片を吸い、少女の首を持ってもぞもぞと動いていた男が立ち上がった。


 アーバインだ。


 一糸まとわぬ姿で言葉にするのも憚れる最低な行為に(ふけ)っていた男は、ラーヴァリエの大貴族にして名高い北方守護家の次期当主でありリオンの伯父の可能性のある人物である。


 モサンメディシュで見た時はどこにでもいる傲慢(ごうまん)な貴族といった感じだったはずだがこれが本性なのだろうか。


「さあ、ようやく……ようやく唯一神(アイリエンス)御許(みもと)に近づけるぞ……! 神職を超え、更に御傍(おそば)に!」


 待ちきれないとばかりに無邪気な子供のように足を踏み鳴らす中年。


 内臓を踏み荒らし飛び散る血と糞便がおぞましい。


 更に男は奇声をあげると近くの少女の元まで走っていき腹に短刀を突き立てた。


 崩れ落ちそうになる少女を抱え、空いた傷穴に手を突っ込んで内側をかき混ぜて叫ぶ様は異様を通り越して同じ生き物とさえ認識したくない程であった。


「やめて!」


「君のせいであるぞ。せっかく猊下(げいか)にご用意いただいたというのに、君が早く来ないから吾輩は胸の昂りを抑えられなかったのだ。さあブロキスよ、鞘の巫女が来たぞ! 吾輩に使徒の器を寄越すのだ! 弟の忘れ形見とて容赦はしない。……そしてブロキス、貴様も吾輩に手を上げたこと、後悔させてくれるわ!」


 突如としてアーバインの背後の宗教画に燃え盛る巨大な瞳が浮かんだ。


 ブロキスの目だ。


 北方守護者は両手を広げ、その皮膚が焦がされていく。


 恍惚の表情を浮かべた悪魔が高らかに吠えた。


「さあ、宴の始まりだ! 踊れ少女たち、(しゅ)の敵が炭と化すまで!」


 室内だというのに黒い雷が落ちる。


 舞踏会よろしく少女たちが一斉に踊りはじめ、蛇神の化身の分身たる使徒が出現した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 親戚にこんなのがいたら嫌ですよね… ブロキスの真意は未だ謎です。
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