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SKYED7 -リオン編- 下  作者: 九綱 玖須人
ひとりじゃない
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ひとりじゃない 8

 リオン達がダンカレムを発った少し後の事である。


 ラーヴァリエの首都エンスパリの大聖堂では魔法使いが集っていた。


 教皇が冷ややかに見下ろす先には包帯に巻かれた腕を赤く染め、蒼白になりながら(ひざま)くルビクがいる。


 教皇の両脇には転移の魔法使いサイラスと更生官長(アルカラスト)が立っていた。


 まるで断罪の構図だ。


 当然である。


 ルビクは巫女を奪還する任務に失敗した。


 のみならず貴重な聖隷石を紛失したというのだから。


 計画は完璧のはずだった。


 敵はルビクに渡していた雨燕の聖隷石(せいれいせき)には気づいていなかった。


 リオンがしっかり魔力を感知すれば気取られたかもしれないが、だからこそのルビクの催眠魔法だった。


 広範囲を魔力で覆えば石の魔力くらいなら隠せたのだ。


 その状態でルビクが巫女に接近する。


 敵には範囲魔法で存在がばれているはずなので接近は失敗するだろう。


 そして巫女はルビクたちを無効化させ脅威は去ったと慢心する。


 あとは若干の魔力が回復すればいい。


 自分の魔法が使えるほどに回復しなくても聖隷石は僅かな魔力さえあれば使える。


 頃合いを見計らい、リオンを捕らえ雨燕の聖隷石が持つ縮地法(しゅくちほう)の力でラーヴァリエに帰還する。


 あとは唯一神の復活までリオンが何もしないようにすれば勝ちだ。


 殺してしまえば簡単だと思うのだが神の依り代であるブロキスがそれを許さないので勝手は出来ない。

 

 しかしルビクはその機会を逃した。


 全くありえないことだ。


 教皇の前でうなだれるルビクには弁明の余地もなかった。


 サイラスからの報告を受けた教皇が大きく嘆息するとルビクの肩が震えた。


「ああルビク……君には失望したよ。なんという失態を犯してくれたんだね……」


猊下(げいか)! もう一度機会をください! そうすれば今度こそはリオンを連れてきてみせます」


「君にはもう充分に機会を与えたと思うのだけれども。ジウからリオンを連れ出すことに失敗し、今度は依り代から賜りし神の奇跡をも失った。あれだけの力を誇った使徒もだ。一刻もしないうちに三柱が神の御許に帰ってしまったではないか」


「ですから、使徒の器は私にと依り代にお伝えください。そうすればもう猊下の御顔を曇らせることはありません!」


「私を差し置いて使徒になると?」


「い、いえ……そうではなく。奇跡は三つあるのですから、私も使徒になれるのではと申し上げたいわけでして……」


 蛇神アスカリヒトの手足の具現化である使徒は同時に四体まで出現できる。


 エーリカを除く三体の器は倒されブロキスの元に戻っている。


 教皇たちは唯一神に近づくために使徒にしてほしいとブロキスに懇願(こんがん)受諾(じゅだく)されていた。


 蛇神の復活を使徒の姿で迎えることが出来るのは教皇、アルカラスト、ルビク、そして北方守護家のアーバインの四人と取り決めていたのだ。


 だが先んじて使徒になり雪辱を果たすと誓うルビクに対して教皇が見せたのは沈黙だった。


 嫌な予感がする。


 立ち位置がそれを如実に表していた。


 状況が語る教皇の処遇にルビクは怒りと恥、悲しみと焦りの入り混じった表情で吠えた。


「サイラス! お前が僕の権利を奪うのか!? 一等国民の僕を差し置いて、二等国民のお前が……!」


「猊下は私を愛し、御選びくださいました。ただそれだけです」


「お前……!」


 飛び掛かろうとすると柱の陰に控えていた巨体が瞬時に間に入りルビクに爪を見せる。


 蛇と人間を掛け合わせたような異形、使徒となったエーリカが教皇の一瞥(いちべつ)を受けて動いたのだ。


 格下の等級の下民たちが自分より上の存在になってしまった。


 受け入れがたい現実にルビクの中で何かが壊れ、青年は尻餅をついたまま号泣し足をばたつかせた。


「サイラスが使徒にふさわしいと判断したのは私だよ、ルビク。彼は本当によくやってくれている。君がどんなに失敗してもよく助力したじゃないか。彼の魔法も特別だ。特別な彼を唯一神(アイリエンス)もきっと必要とするだろう」


「い……いやだ……嫌だ嫌だ! そんなのは認めない……認めないぞ! 僕が使徒になるんだ! 楽園に行くのは僕なんだぁっ!」


 醜い抗議に顔を(しか)めた三人だったが教皇は妙案を思いつく。


 そういえばリオンと同じくらい邪魔な存在の排除がまだ終わっていなかったではないか。


 ルビクの記憶を使えばそれが出来る。


 使徒の力を手にいれた今なら確実に達成できるだろう。


「ふうむ……ではこうしよう。アルカラスト、まずは君に使徒の力を授ける。そしてルビクには使命を与えよう。それが出来たら私の使徒の器を君に授ける。私は本来は使徒にならずとも楽園に行けるからね」


「ほ、本当ですか猊下! 猊下の使徒の権利を僕に? そんなにも愛してくださるのですか!?」


「勿論だともルビク。だけど君は一度サイラスの配下に付けるよ。それでもいいね?」


 ちらりと見たサイラスは手を胸に当て深々と頭を下げた。


 元よりルビクはサイラスを丁寧に扱ってきたので恨まれるようなことはなく、主従が入れ替わっても報復されたりはしないだろう。


 (しゃく)に障るが使徒になれればまた立場は上になるので僅かばかりの我慢ならする価値はあった。


 ルビクが感謝の意を示すと教皇も頷き返し、両手を広げる。


 教皇から魔力が噴出した。


 魔力の放出による気脈の干渉がブロキスを呼ぶ合図だ。


 聖堂の天井が大きく歪み空間を割いて燃え盛る巨大な目が現れた。


「かねての約定を御頼み申す! この者、アルカラストに使徒の力を授け給え!」


「おお……私めが使徒に……! なんという誉れ!」


 黒い炎雷が落ちた。


 燃えるアスカラストが歓喜に(あえ)いで(みだ)らな声をあげる。


 焼かれた皮膚が盛り上がって(うろこ)となり(ただれた)れた気管から吐瀉(としゃ)した黒い血が外皮を駆け巡っていく。


 しかし強い意志を持って己から使徒となったアルカラストは、意思なく量産された使徒たちとは異なり蛇人間の姿にはならなかった。


 炎が消えるとそこには元の姿のままの禿頭の壮年がいた。


 魔力の質が新たな使徒の誕生を告げていた。


 教皇の呼びかけに目を開けたアルカラスト。


 肌が松毬(まつかさ)のように盛り上がると灼熱が顔を覗かせ、内部では無数の眼球と蚯蚓(みみず)のような神経が活発に(うごめ)いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 宗教じみてますね…宗教ですけど
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