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SKYED7 -リオン編- 下  作者: 九綱 玖須人
ひとりじゃない
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ひとりじゃない 2

 リオンの見た夢は夜のうちに火急の用件として方々(ほうぼう)に伝わった。


 翌日、リオンたちは敢えて下船して壮行(そうこう)の祝辞を受けた。


 住民は避難しており港に集まったのはリンドナル陸軍の精鋭である。


 ルビクたちに警戒されないようにと私服で集まった集団は、しかしいつ開戦しても良いよう感覚を研ぎ澄ませていた。


 リオン、ロブ、オタルバは目立つ位置に立ち囮となる。


 他の面々は各地の小路で索敵(さくてき)する。


 転移の魔法使いであるサイラスが魔法を使えばすぐにリオンかロブの知る所となるが、目視で出現地点を確認出来たほうが最速で対処できるのではないかという目論見だった。


 かくして一同はそれぞれの場所に配置についたが、港からほど近い小路では群衆の声援を受けるリオンを一瞥して舌打ちをする影があった。


「うわっ……ラグ・レ、こんなところでなにしてんだよ!?」


 急に後ろから大きな声をかけられて影──ラグ・レは飛び上がった。


 見れば薄汚い少年が足踏みしながら慌てている。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


 ジウでは見たことがない顔だが妙に馴れ馴れしい口調だった。


「そういう……お前は何をしているんだ」


「見りゃ分かるだろ、小便できる場所を探してたんだよ。つーか、びっくりして引っ込んじゃったじゃないか」


「そうか」


 土地勘がないことからこの町の人間でもないということか。


 テルシェデント辺りで知り合った者なのかもしれない。


 荷運び奴隷の(たぐい)と思えば合点がいった。


 これは使えそうだ、とラグ・レは涼しい顔で歩み寄ると壁に手を着いて()()()()()を追い詰めた。


「な、なんだよ!?」


「いいから、()の目を見るんだ。さあ……」


 顔を近づけられラグナの胸は張り裂けそうなほどに高鳴った。


 初めて見るラグ・レの挑発的な冷笑はひどく煽情的だった。


 もう少しこのままでいたらどうなってしまうのか。


 顔を前に出せば接吻(せっぷん)してしまいそうなほどの距離となり、ラグナはようやく決心した。


 おもむろにラグ・レの腰に手を回すラグナ。


 驚き仰け反るラグ・レの服の下にもう片方の手が滑り込む。


 手のひらは目に見えていた豊満な胸をすり抜け固い平坦を掴んだ。


 見えていたものが掴めない感覚にラグナが驚愕すると同時に全身に鳥肌を立てたラグ・レが絶叫し、町全体を覆っていた微かな魔力が収束して消えた。


「うわぁあああっ!? 何するんだお前!」


 ラグナを突き飛ばして飛び退いたのはルビクだった。


 外套を羽織り額に赤い染料を塗っているのはラグ・レのつもりか。


 しかし青年は先ほどまでは確かにアナイの戦士であった。


 たったこれだけの変装でも一度先入観で見紛(みまが)えばそのまま気づけなくなるのがルビクの催眠魔法の恐ろしいところだった。


「やっぱりリオンたちの言う通りだぜ。前からずっと潜伏してやがったんだな。そんで待ち構えていたってわけか!」

 

「なんなんだ、お前は!?」


「俺はラグナ。リオンと一緒に伝説になる男だ。そういうお前は催眠魔法使いのルビクってやつだな? なーにが催眠魔法だよ。騙すならもっとさあ、感触とかを完全に騙せよ! ばーーーか!」


 悔しそうに罵倒してくる少年にルビクはいよいよ混乱した。


 今回唱えた催眠魔法は広範囲に幻覚を見せる魔法だった。


 ラグナはルビクのことがラグ・レに見えていたはずだ。


 なのに何故魔法は破られてしまったのか。


 それは簡単なことだった。


 ダンカレムに着いた時から町全体が微かな魔力を帯びていることはリオンが感知していた。


 本人は魔力を消していてもそれがルビクのものであるということはすぐに分かった。


 ルビクという青年の魔法は目を合わせた長さに比例するとはいえ、一瞬でも合わせてしまうと催眠状態になってしまうとオタルバが言っていた。


 今回は衆人をかいくぐってリオンに接近しなければならないためこのような下準備をしたのだろうとの憶測が成された。


 ただ、いくら全体に催眠をかけたとしてもリオンに違和感なく接近出来る人間は限られてくる。


 そしてルビクが真似できる者となれば更に対象は絞られる。


 リオンを取り巻く者たちの中でルビクが猿真似出来るほどに知っているのはオタルバとラグ・レくらいだった。

 

 だから一同はリオンの傍にオタルバを置き、ラグ・レを索敵に出して敢えてルビクにラグ・レの振りをさせるように誘導したのだ。


 本物のラグ・レには合言葉を授けた。


 これで対策は万全だった。


 だがラグナは最初から別の方法での解決を考えていた。


 すなわち、どうせ幻覚なら胸を触ってみたいという下心である。


 先ほどのルビクの絶叫を聞いた市民が一斉に動き出す。


 あっという間に情報は伝達されリオンたちの耳に敵発見の報が届いた。


 市民に扮した軍人たちは使徒の襲撃に備え一気に退却していった。


 本当の市民がいないため避難は迅速であり、港周辺は無人となった。


「なんだこれは……気づいていたのか!? 気づいていたうえで僕を騙したっていうのか!?」


 下賤(げせん)なる邪教徒に鼻を明かされたルビクは恥辱(ちじょく)に震えた。


 せっかく穏便(おんびん)に済ませようと思っていたのに馬鹿な奴らだ。


 生まれ変わることさえ出来ない化外(けがい)のまま死にたいのならもはや容赦はしない。


 (いたずら)に触れたことも後悔させてやらねばならない。


「出でよ、主の子(ヴァリエリオ)たちよ!」

 

 ルビクの魔力の高まりに反応して空間が開いた。


 どこかに隠れていたサイラスが空間転移魔法を発動させたのだ。


 揺らぐ異次元から現れたのは禍々しい巨体だった。


 蛇とも人間ともつかない異形の怪物が縦長の瞳を(きら)めかせ、捕食者のようにラグナの姿を捉えた。

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[一言] ラグ・レが事の顛末を聞いたら軽蔑されそうな…
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