第五話
「美咲っ!起きなさい!」
「……へ…?」
朝。
いつのまにか寝ていたようだ。
外ではせわしなく鳥が啼いている。
「お母さん…?」
まだ、ぼんやりとしている瞳で沙羅を見る。
「大丈夫?」
「多分…でも、熱っぽい………」
「え?」
沙羅が美咲の額に手を当てる。
そして、目を見開いた。
「美咲、今日は学校休みね」
「えぇ!?」
びっくりしてベッドから体を起こそうとする。
しかし、腕に力が入らずがくりとおれてしまう。
ふらふらする。
「昨日何か無茶しなかった?」
「……してない」
「そう…」
そう言って沙羅は部屋から出て行った。
残された美咲は、ぼんやりとした視線で天井を見つめていた。
ふと思い立ったように胸に手をあてた。
しゃら…と鎖が鳴る。
「夢じゃ…なかったんだ………青龍」
「何?」
「えぇっ!?」
横を見ると、少女が立っていた。
昨日と変わりない姿で。
「あーあ。熱が出たのね。じゃあ、手っ取り早くなおそうか」
「え…?青龍、何言って…」
「美咲」
「はい?」
名前を呼ばれた美咲は黙った。
「青龍って呼び方、止めない?『青華』って呼んで」
「青華?」
「そう。私が神様になる前の呼び名。みんな神様は持ってるのよ」
美咲はゆっくりと起きあがると、青龍―――青華を振り返った。
なおせるの、と小さく呟く。
「たかが熱だけどね。じゃあ、それ。握って四神の方の名前を呼んで」
青華は美咲の胸元を指して、言う。
それがネックレスだとすぐに気づいた。
「分かったわ」
そうして。
「―――青龍……」
瞬間。
「っわ!!」
体が中に浮いたような感覚に捕らわれる。
しかし、すぐに足が地に着いた。
「大丈夫?」
すぐ近くに青華が立っていて美咲の腕を引っ張り上げた。
「あ、ありがとう…」
熱とさっきの感覚でふらふらした足取りで立ち上がる。
そこは、霧のように白かった。
夢のように。
「おーおー。青龍、お前の主か」
不意に背後から低い声が聞こえた。
振り向くと、銀髪の青年がからからと笑っていた。
「あの…あなたは?」
「儂か?玄武じゃ」
「玄武…って四神の?」
「おお。知っているか」
そう言った玄武はひょいと美咲を抱き上げた。
「なっ!」
驚いたのは美咲だけではない。青華も同じように驚いていた。
「玄武、何してるのよ!」
「美咲は熱があるんじゃろ?歩かせるのはよくないぞ」
そういえば、と美咲は大人しく抱かれていた。