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99 魂魄魔法使いの討伐その三


 戦況は、立てられた予定の通り、順調に推移していった。


 魔法砲撃で敵弓兵と物見の動きを封じ、工兵が砦を囲む外壁に取りついて穴をあける。

 これは外壁にピッケルで穴をあけ、爆破の魔法石を埋め込んで、円錐形の金属の傘をかぶせて起爆という方法で行われた。

 モンロー・ノイマン効果とかそういうやつだろうか。この世界でどう呼ばれているかは知らないが、爆破のエネルギーを効率的に使う方法は、確立されているらしい。


 そして外壁に空いた穴から、各部隊が侵入していく。


 砦の敷地内はアンデッドであふれかえっている、ということは無かった。

 金で雇われたらしい傭兵崩れが、果敢に正規軍に戦いを仕掛けてくる。


 大義も無いのによくやると思うが、彼らとしても後がない感じなのだろうか。

 それは良く分からなかったが、とりあえず傭兵達と精鋭の集められた混成討伐部隊との練度には、相当な開きがあるようだ。

 次々に討ち取られ、屍を晒していく。


 死体には魂魄魔法使いの操る死者生成ターンアンデッドの餌食にならないよう、解呪ディスペル完全解除パーフェクトキャンセレーションが掛けられていく。

 降伏や生け捕りになるものもおり、それらは拘束された後に、後詰めの部隊へと後送されていった。


 砦の敷地内において、物陰や扉の直前、そうした気の緩みや死角になる場所にはアンデッドどもが待ち構えていた。

 しかし、先頭集団である強襲部隊には俺がいる。

 魔法探査センスマジックで魔法的な隠蔽を見破り、先制で祓魔エクソーシスをぶつけるなり、呼び込んでタコ殴りにするなりで、それらは容易く突破できている。


 砦の中も同様だった。

 俺はステータス画面を開きっぱなしにし、反応のある場所を先手でどんどん潰していった。


 損耗は最小で、砦の外の戦況も問題はない。

 流石は王が自信をもって送り出した精鋭部隊だ。

 俺達は憂いなく、敵本丸に乗り込むことができる状況を、作り出すことに成功した。


 そして。


「……この先か」

「はい、そのようです。大広間……戦術解説や慰労会を行っていた場所ですね。どうやらそこで、我々を待ち構えているようです」


 俺の編入されることになった第一強襲部隊の隊長(剣兵)と参謀(理力魔法兵)が、そんな会話を交わしている。


 通路の先には重厚な両開きの扉。その向こうには確かに四つ、生体探査・魔法探査の両方に反応がある。強い魔力を持った四つの存在が、そこに居るということを表していた。


「では、私が最後通告を行いますので、その後戦闘になった場合はお願いします」


 隊長の言葉に頷きを返し、マインドプロテクションを始めとした守備的な補助を掛けていく。一応最後通告に従えば投降は受け入れるらしいので、敵意が明らかになる武器へのエンチャントなどは除外だ。

 

 準備が整い、隊長が取っ手に手を掛ける。

 ギィっと音を立てて開く扉は内開きで、籠城を見越してのものだろう。

 しかし蝶番がサビぎみなのを除けば抵抗なく、扉は開け放たれた。



 ======



 広い部屋の奥に佇んでいるのは四人。

 全員がローブ姿で、フードを被っている。


「ようこそ……お揃いで」


 その内の一人が迎えるように手を広げた。


「貴様が導師カステリオンだな」


 その人物こそが今回の反逆の首謀者、魂魄魔法使いカステリオンであるらしい。

 広間を奥に進み、一定の距離を残して立ち止まった隊長は、彼に向け最後通告を開始した。

 

 その間、他の面々は周囲に目を配って警戒。俺も看破で敵の情報を探る手はずになっている。


 そして行った看破の結果に、俺は驚愕させられることになった。



【ステータス画面】

名前:ジャン・ビオレス・カステリオン

年齢:127

性別:男

職業:魔法使い(28)

スキル:魂魄魔法(9)、並列思考(6)、鑑定(4)、理力魔法(6)、空間把握(3)(SP残0)



 これが驚愕の原因のひとつ。

 中心にいる男のステータスである。


 他の三人は魂魄魔法のレベルは7程度。それ以外の技能には体術や政治、農業があったりと、来歴をうかがわせるものが含まれている。

 一方でこいつだけ魔法とその研究のための技能が整然と並び、技能のレベルも数も突出している。

 

 技能の並びは、その人間がどのような歴史を歩んできたか、それを側面的に表している。

 最初に魂魄魔法が出てくるということは、つまりこの男は生来からの魂魄魔法使いということだ。

 社会における魂魄魔法使いの位置づけを考えれば、異様な来歴と言えるだろう。


 それに……この年齢はなんだ?

 確かに事前に聞いた話でも、第三次世界大戦前に王国所属になったこと以外、情報が極端に少ない人物ではあった。戦争を経て、今に至るまで姿がほとんど変わらないというのも聞いていた。

 だが、いくらなんでもこれは、人間の年齢ではない。

 予備知識にもこの世界の寿命に関する情報はあるが、俺の元の世界と変わらないのだ。


 何か俺の知らない魂魄魔法で生命をながらえさせているのか……あるいは人間以外の存在・・・・・・・と成り果てたのか。


 ……そう。

 俺が看破で知り得た、驚愕すべきもうひとつの情報。


 それはこの男がアンデッド・・・・・なのではないかということだ。

 疑問形なのは、ステータス画面に表れたのではない、あやふやなインスピレーションによるものだからである。

 

 こうしたアナログな情報は、俺の技能が『才能の器』由来であるせいか、看破がスキルの崖を越えるまであまり得られたことはない。しかしグラウマンさんに看破された時などを考えれば、ステータス画面で形式ばった情報を得る俺が異常であり、これが普通の人の感覚なのである。


 その感覚からすれば。

 この男も、そして周囲の三人もまた、すでに心臓が動いていないのである。


 ただひとつ不可思議なのは、彼らの技能がステータス画面に表示されたことである。

 これまで相対してきたアンデッドは、看破をしても魔物のような端的な情報しか得られなかったからな。

 単なるアンデッドとは話が違うのか。

 それも含めて警戒しなければならないだろう。


「ノイマン殿……」

「なにか?」


 最後通告の口上を述べる隊長の後ろで、俺は静かに部隊参謀へと声を掛ける。

 そして小声のまま、彼に知り得た情報をすべて伝えた。


「……分かりました。魔法兵へは私から共有を。前衛への情報開示は戦闘開始後でいいでしょう。リョウ殿は予定通り、ご自分のご判断で動いて下さい」


 ノイマン氏は声を抑えながら早口でそう言った。

 表情を動かさなかったのは流石軍人といったところか。

 端的に方針を決定してくれたのも助かる。


 おそらく最後通告は拒否されるだろう。

 危険な魂魄魔法使い達との直接戦闘は、もはや免れない。


 だが任務遂行の意志を曲げない軍人達の反応で心が決まった。 

 人殺しだとか色々考えていたことはあったが、相手はアンデッドみたいだしな。

 俺も邪神との決戦を控えて、こんなところで躓いてはいられない。

 当初王に依頼された通り、討伐を果たすだけだ。


「……以上だ。貴様に投降の意志があるのであれば、口に物を噛み、両手を上に上げて魔力封鎖の腕輪の装着を受け入れろ。この場に居る他の者も同様だ。そうすれば、王都へ連行して裁判を受けることができるだろう」

「拒否すれば?」

「もしこの通告を拒否するのであれば、王の名のもとに、これより強制権を執行させてもらう」


 強い口調で隊長がそう言い切った。

 強制権の執行とは、刑の執行を現場で即時に行うということだ。

 刑の内容は強制権の源泉が決定したもの。今回で言えば、つまり処刑である。


 この言葉を受けて、じっと黙り込んでいた男は、肩を落とし大きなため息を吐いた。

 落胆ではない。呆れの混じった、実に面倒臭そうな反応であった。


「はぁ……もういいや、この国は」

「なんだと?」

「取り繕うのも飽きちゃったんだよお。この国にもそこそこ長いこと居たからねえ。それに……」


 フードを取ったカステリオンは、灰色の髪の、ともすれば幼く見える若い男だった。


「これから文明は滅びると思うよお? だから潮時だったってことだねえ、街に住処すみかを定めるのも」 


 間延びした、危機感の欠片も無い口調。

 強襲部隊の面々は、カステリオンの言葉に怪訝な表情を浮かべている。

 しかし文明の滅亡となれば、俺とトビーにはドデカい心当たりがあった。


「お前……何を知っている?」

「へえ、知ってる人が混じってるのかあ。まあ王様直々の部隊だしねえ。僕らの専売特許ってわけでもないし。……ま、いいや。それもこれから話そうよ」


 カステリオンは柔らかい笑みを浮かべ、「殺し合いながらね」と気軽な調子で言った。


 唐突に広間に充満した殺気は誰のものか。

 武具を構える硬質な音と共に、戦いが始まった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ターンアンデットはアンデッドに対して即死効果もしくは浄化を与える魔法だったように思います。 ターンは「返す」という言葉で、送り返すという意味での使い方になります
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