9 看破
片手武器スキルのレベル上昇に伴いSPを1得て、新たにスキルを取得した。
【ステータス画面】
名前:サイトウ・リョウ
年齢:25
性別:男
職業:才能の器(20)
スキル:斥候(3)、片手武器(3)、理力魔法(3)、鑑定(5)、神聖魔法(3)、魂魄魔法(3)、看破(0)(SP残0)
取ったのは見ての通り「看破」である。
正直なところ、鑑定と被っている可能性がある、と言うかほぼ被っていると断言できるが、取得した理由は「他人のスキル構成の確認」のためである。
スキル構成確認と言えば字面的には鑑定よりはこちらの方がそれに近い気がするが、当初は得られる情報量を考えて鑑定を優先したのだ。鑑定でも確認できる可能性はあったしな。
まあ結局はレベルの伸び悩みで看破も取る羽目になった訳だが……。俺は才能の器のお陰でスキル数を増やす事は(たぶん)簡単だし、あまり問題にはならないだろう。なったら知らん。
「さて……」
看破については取得した直後、すなわち迷宮内ですでにスキル検証は実施済みである。それによればイメージ通り物品にはあまり効果が無く、ステータス画面にも名称と状態くらいしか表示されなかった。
逆に言えば人に対しては有効である可能性が高く、更に言えば鑑定よりも詳細に、つまりスキル構成まで確認できる可能性が高まったと言う訳だ。
で、最初の犠牲者(?)となる人間だが、これから帰宅しようと言う俺が最初に出会う相手は入り口にいる門番兵である。
「お疲れ様です」
俺は階段を上がり、何食わぬ顔で門番兵に挨拶をする。
見れば午後の入れ替わり後でそこに居たのは初日に出会った老兵士だった。
ここで会うのは何かの縁を感じるが、まあそれはいい。
俺は喉が渇いたふりをして甕から水筒に水を移しつつ、横目で老兵士を観察する。
「何か?」
「え? ああいや、兵士と言うのは引退とか無いのかな、と思いまして」
怪しまれたのでついでに気になっていた事を聞いてみる。
見れば見るほどかなり老齢の人物だし不思議に思っていたんだよな。その割に流石と言うか、鎧をしっかり着こなしていて動作とかも弱そうには見えないが。
「はっはっ、そりゃあこんなジジイが兵士をやっていたら不思議に思うでしょうな」
老兵士は俺の観察する視線を気にもせず、そう朗らかに笑う。
「事実、引退はもうしておるのですよ」
「そうなんですか」
「ええ。ですが、私は生涯をこの道に捧げてきたもので、辞めたところで他にやる事が見つからない。それでは余生と言っても張り合いが無いと、このジジイでも務まる仕事を回してもらったのです。貴方がた探索者のお陰で迷宮は大人しいですし、万一があったとしても、この老骨でも危機を知らせる鐘を鳴らす事くらいはできましょう」
「なるほど……」
「逆にこの仕事をする他の持ち回りの兵士が気の毒でしてな。儂のように探索者を観察する趣味でもなければ暇でしょうがないでしょう。……それにしても、話は変わりますが貴方は中々才能がおありのようですな?」
「そう……なんでしょうか」
「ええ、これまで色々な人を見てきましたが、貴方は特別に思える」
手で豊かなあごひげを梳りながら、老兵士が言う。
……何か感づいたのか? いや、何に感づくと言うのか。
俺は怪訝に思いながら、看破によって出た内容を確認する。
【ステータス画面】
名前:グラウマン・アーレンボルト
年齢:72
性別:男
職業:兵士(24)
スキル:槍使い(5)、理力魔法(2)、看破(4)、指揮(8)、騎乗(5)、(SP残0)
何と言うか叩き上げの兵士、と言った印象だな。
しかもこれは結構指揮系統の上の方の人なんじゃないだろうか。一兵卒じゃ指揮も騎乗も不要だろうし。もしかすると有名人かもしれないので名前を覚えておこう。
レベルの高さや数については比較対象が俺しかいないので不明。総合レベル24でスキルが五つという事は初期SP1でレベル5毎にSP1、あるいは初期SP3でレベル10毎にSP1と予測される。この辺は他の人の看破の内容と併せて検証していくとしよう。
と言うか看破スキルのレベル1でこれだけの情報が得られるのは、少し驚いた。恐らく鑑定レベル5の影響があるんだろうが、これで看破のレベルも伸びたらどんだけの情報が得られるのか……。
「特別かどうかは分かりませんが、自分の力を知りたくて迷宮に挑んでいる所はあります」
俺は看破で得た情報を吟味しつつ、とりあえずアーレンボルト氏の言葉にはこう返答しておく。
目的は俺がこの世界に来た手がかり、仮称ウィスパーさんの意図を探る事だが、これもあながち間違いではないしな。才能の器の能力について考える事も手がかりを探る一つの方法だと思うし。
「ほう、今のご時世ですと魔石経済での立身が目的かと思いましたが」
「立身出世が目的なら王立資源探索隊に志願する方が良いでしょう。私にとっては、あくまで自分の力のみで挑む事に意義があるのです」
「左様でしたか。……でしたら、今後チームを組む時は注意なされるがよろしいでしょう。近頃マイトリスに戻ってきている探索者は志が無いか、再選考を目指して牙を研ごうと言う者が多いようですからな。どちらも貴方の目的には合いますまい」
「なるほど、情報ありがとうございます」
俺としても才能の器の能力を隠せればと思っているので、下手にチームを組まないちょうど良い理由付けができそうだ。
ただ地下三階の探索では多対一の戦闘にかなり体力を削られたので、隠し事のできるかつ探索だけに付き合ってくれる仲間ができないかとも思っていたところでもある。それに関しては逆風になりそうだが……まあそれは別途考える事にしよう。異世界モノにありがちなとある解決策もある事だしな。
「では、そろそろ俺は行きますね。お水ありがとうございました」
「ええ、またお会いしましょう」
俺はアーレンボルト氏に挨拶をして、探索者組合に向かう事にした。
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探索者組合に到着後も、俺は看破をやりまくった。
組合から出てきた探索者、掲示板を見ている探索者、受付に並ぶ探索者、マルティナさん、バーランド武術師範、エトセトラエトセトラ……。
得られた情報のうちとりあえず目ぼしいものを列挙していこう。
【ステータス画面】
名前:ヘックス・ボーラス
年齢:36
性別:男
職業:探索者(10)
スキル:片手武器(4)、斥候(3)、盾使い(3)(SP残1)
【ステータス画面】
名前:オータム・リブロ
年齢:31
性別:男
職業:探索者(16)
スキル:片手武器(3)、盾使い(2)、両手武器(5)、斧使い(6)、(SP残0)
まずこの二人は出戻りの探索者達だ。探索階層が地下四~六階と言う中堅どころだな。他にも何人か居たがレベルは10~15くらい。四、五人くらいでチームを組んで迷宮に挑んでいる。
スキル構成は大体似た感じで、片手ないしは両手武器のスキルと「~使い」と言った特定の武器に関するスキルを持っている。後は役割に応じて斥候を持っているくらいか。魔法を使う者は今のところゼロである。
【ステータス画面】
名前:フレッド・パースレンド
年齢:17
性別:男
職業:探索者(6)
スキル:片手武器(1)、理力魔法(5)、盾使い(0)(SP残0)
【ステータス画面】
名前:ロラン・ネフロガッド
年齢:22
性別:男
職業:探索者(9)
スキル:農業(4)、理力魔法(4)、片手武器(1)(SP残0)
【ステータス画面】
名前:セラ・ターレス
年齢:16
性別:女
職業:探索者(6)
スキル:経理(1)、理力魔法(5)、盾使い(0)(SP残0)
次に例の魔術学園卒業生の三人組である。彼らも彼らでスキルが似通っており、理力魔法4~5と、後はそれぞれの出自やらでいくつかのスキルを所持しているようだ。
と言うかロランは俺とそんなに年齢変わらないんだな。農業スキルがあるのを見ると、農家の家出息子だったりするのかもしれない。家出は言い過ぎかもしれないが、独り立ちして何年かお金を貯めた後に入学したとかそんな感じか? そうだとしたら中々の苦労人である。
総合レベルは全員駆け出しらしく10に満たない。ただそれでも現時点で地下五階に潜ってるらしいので、やはり魔法連打は戦術として有効と言う事だろう。在野の魔法使い人口はまだまだ少なく、殆どが軍に所属しているようだが、今後資源としての魔石採取が隆盛を迎えるなら彼らのような人も増えてくるのかもしれない。
後はSPに関してだが、彼らの総合レベルとSPの関係から初期SP3でレベル10毎にSP1である可能性が高い事が分かった。もしかしたら人によって初期SPと追加SPが得られるレベルが変わっている可能性もあるが、恐らくこれで間違いないはずだ。
【ステータス画面】
名前:マルティナ・ローレンハイド
年齢:25
性別:女
職業:事務員(9)
スキル:経理(3)、情報処理(5)、料理(1)(SP残0)
【ステータス画面】
名前:バーランド・セスタス
年齢:45
性別:男
職業:探索者(24)
スキル:両手武器(5)、剣使い(9)、体術(7)、看破(2)、拳闘術(1)(SP残0)
最後にギルド職員の二人。
マルティナさんは戦闘に関するスキルを持っておらず、ザ・事務員と言う感じだ。料理のスキルは可愛げと言うか何と言うか……。もしかすると年齢的に婚活のために習得したものの可能性もあるが、地雷的話題なのは確定的に明らかなので触れないようにしよう。看破しておいて本当に良かった。
バーランド武術師範は流石、武器屋でもこの街一番と称された探索者だけはあるスキルとレベルだ。中堅探索者のレベルからすると一人前と言えるレベルは5~6だと考えられるので、剣使いレベル9と体術レベル7は圧巻の一言である。完全に周囲から逸脱しているので、恐らくこのくらいのレベルが達人クラスと言う事なのだろう。
ここまで看破して、やはり迷宮入り口に居た老兵士アーレンボルト氏が凄いと言う事が分かった。指揮レベル8とかで達人クラスだったしな。看破している間に受付の列も消化されてきたので、彼の事はマルティナさんに聞いてみる事にしよう。
その後、列が進んで自分の番がやってきたので、いつも通り俺はマルティナさんに魔石を渡した。彼女は小袋から出した通常の魔石を秤に乗せ、安定するのを待ちつつ青色魔石の数を数えている。
魔石の大きさは微小、小、中、大、特大の五段階に分かれているが、それぞれの等級の中でも多少の誤差はあるので、基本的に重量によって値段が決められる。一方属性入りである有色魔石は、五段階の等級でざっくり分けられ値段は画一的だ。その分等級が上がる毎にその希少性も値段も跳ね上がるのである。
今回俺が受けた水道局からの依頼は、青色の小魔石が二十個で四〇〇ゴルドと言った内容だ。これは買い取り価格とは別のため、依頼料四〇〇ゴルドに青色小魔石二十個の二〇〇〇ゴルド(一個一〇〇ゴルド×二十)が加算されると言う訳だ。
今日は更に通常の魔石の買い取りもあるので……詳しく計算はしてないがウハウハなのは間違いないな。
「本日の精算は三一〇〇ゴルドです」
「おお、新記録……! 依頼達成の賜物ですね」
「都市区画拡張の予定が近づいてきてますから、水道局の依頼は今後も出されるでしょう。下水が広がるとその分消費される青色魔石も増えますからね。ですので、青色魔石を落とす魔物は優先的に狙うのが良いでしょう。……まあ、利率はあんまりですが」
「一個につき二割増しですか。他の依頼が大体二倍くらいの買い取りって事を考えるとアレですが、そもそも有色魔石は高いですし、十分ですよ」
ゴルド硬貨ではち切れんばかりになった皮の袋をポケットに入れる。何を買うか今から夢が広がるな。
「ところで話は変わるんですが、迷宮の入り口でちょくちょく見かける老兵士、あの人って有名な人だったりします? なんか凄そうな人ですけど」
俺の言葉に、マルティナさんは一度視線を俺の後ろに移す。列の並び具合を確認したんだろう。それは俺も想定内で、後ろには良い感じに誰も居ないので大丈夫なはずだ。
「道楽兵士。と呼んでほしいと言うのが本人の言い分ですが……グラウマン・アーレンボルトと言う名はご存知ですか?」
知らないから聞いてるんだよ、と言いたいのをぐっと飲み込む。マルティナさんは俺が看破で名前(とスキル構成)を確認した事を知らない訳だしな。
俺が首を振ると、彼女は少し呆れたように息を吐いて、アーレンボルト氏の素性を語り始めた。
「少し歴史を勉強していれば知っていると思うのですが……。まあいいでしょう。およそ四十五年前に始まった世界大戦、貴方もこれくらいは知っていると思いますが、その一地方の戦いで初めて彼は名を上げたのです」
俺への嫌味が若干混じっているが、話をする口ぶりを聞くに、どうやらマルティナさんは随分と彼のファンらしい。ムスっとしているように見えて、めっちゃ嬉々として話してたしな。それと話が超長い。
彼女の話によれば、グラウマン・アーレンボルトと言う男はまさに叩き上げの兵士と言う経歴を歩んできたらしい。
最初はほんの一兵卒。世界大戦開戦直後の混沌とした状況で分隊の指揮を執る機会を得てから、数々の戦功を挙げていったと言う。
危険な敵地への少人数での斥候も、流れ矢で戦死した部隊長に代わっての撤退戦も、正々堂々平野での会戦も、彼の武勇伝の中には含まれる。策を弄す事もできるし、味方を鼓舞して実力以上を引き出す事もできる。難物の部下を十全に扱ってみせ、あるいは貴族と拮抗して自身の隊の栄誉を認めさせた話も語られている。立身出世のお手本のような人物、と言うのが俺がマルティナさんの話を聞いた感想だ。
そんな彼が、今兵士をしているのは彼自身が語った通りなのだろう。
世界大戦が三十数年前に終戦。迷宮と言う新たな火種が生まれる中で起きた国境での紛争も平定し、やる事をやり終えて引退した。そんな彼は、今兵士として街を眺め自身が一生を捧げて作り上げ貢献した平和を実感しているところなのだろうか。
「予想していたよりずっと凄い人物みたいですね。話した感じは上品な好々爺って感じでしたけど」
「私も話した事がありますが、伝え聞く話とは裏腹に威圧感の無い人ですよね。その時の話によれば、どうやらこの都市で終生を迎えるつもりのようですよ。何故かは分かりませんが、彼に選ばれたと言うのはとても栄誉な事です」
表情からは分からないが、何かマルティナさんがキラキラしてらっしゃる。
アーレンボルト氏への憧れもあるだろうけど、この人はホントにこの街が好きなんだな。王立資源探索隊がこの街で組織されない事に怒っているのもその表れなんだろう。不機嫌の矛先をこっちに向けるのは止めてもらいたいが。
「戦争で活躍した人と言うと歴史上の人物ってイメージですけど、意外に身近な所に居たものですね」
「世界大戦はごく最近の話と言う訳でもないですが、関わった人の多くが存命しているくらいには近い出来事ですから」
「なるほど。じゃあマイトリスには他にも有名人が居たりするんですかね」
「居るかもしれませんが、特にそういう情報を集めている訳でもないのでグラウマンさん以外には……。あ、でもウチのバーランド師範は探索者界隈では有名ですよ。何せ竜殺しですから」
え、何それ。例の『壁』になっているマイトリス迷宮地下八階に居る敵の事か?
詳しく話を聞きたかったが、丁度他の探索者が帰ってきてしまい、マルティナさんには受付の仕事をするからと追い払われてしまった。
まあ、すぐに必要な情報と言う訳でもない。
バーランドさんの実力は看破である程度分かっているし、詳しくは今度直接本人に聞くとしよう。
俺は再び混みだした組合を後にして、宿に向かうのであった。
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