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73 白竜討伐へ向けて その四

2019/4/6 改稿



 神息ブレスの呪文の発声と共に、膨大な魔力が引き出される。

 理力魔法のレベル上昇によって総魔力量が増大したらしく、消費は全体の四割程度か。

 魔法が発動し、魔力が収束して視界を白い光が覆った。


 これはブレスを受けた者にしか分からないと思うが、この光は不思議なほど行動の邪魔にならない。

 むしろ白いフィルターのかかったこの視界こそが、ブレスを受けていない他者との隔絶さを一層際立たせていると言って良いだろう。

 

 相対するバーランド師範は、強力な補助魔法を受けた俺を見て目を見開いている。

 流石に動きもしないうちから能力を看破されているとは思わないが……いや。

 確か師範はレベルは低いが看破の技能を持っていたんだったか。

 

 であれば早期に攻める方が良いだろう。

 ブレスの補助で技量が上がる訳ではない以上、長期戦になるとこちらの動きを見切られる可能性があるからな。


 ブレスの効果により高速化した思考でそう考え、俺は一歩踏み出した。


 最初に選択したのは芸の無いシールドチャージだ。

 しかし強化された脚力で、やけに近く感じる間合いを一瞬で踏破し、自身の体重ごと盾をぶつける。


「ぐぅっ!」 


 初見殺しを狙った急激な突進に、流石の師範も受けに回らざるを得なかったようだ。

 技量と体格で負けている俺からの突撃が意表を突いたという事もあるだろう。

 

 体勢が崩れたところを、俺は更に攻め立てる。

 近接戦闘の間合いで力任せの斬撃と盾を使った殴打を繰り出す。

 

 俺だって師範に劣るとは言え技能レベル5はあるのだから、適切な・・・力押しをするくらいの事はできる。


「ちいっ」

「せああっ!」


 それにしても上手い。

 こちらの方が小兵で小回りが利くうえに、ブレスによって膂力・脚力・俊敏性が底上げされているのだが、攻め切れない。

 恐らくこのままいけば押し切れはするだろうが、初撃からミシミシ言っている木製の剣と盾が先にぶっ壊れる可能性もあるな。


 これならば、エンチャントでも掛けておくべきだったか。

 装備を強化できる師範の魔装術が羨ましい。

 いや武器を破壊しない事も技量の内か。

 

 そんな事を第三思考で考えながら、俺は武器を叩き付け続ける。


 その後、やっぱり盾は粉砕してしまったが俺は残った剣で攻めに攻め立てた。

 そして最後には、不格好ながらも師範の首元に、剣先を突き立てる事に成功するのであった。



 =======



「くっそ、マジかよ……。やべえ術持ってんじゃねえかお前」

「まあ攻めは多少稚拙でしたけど、お陰で魔法の威力は十分伝わったんじゃないですか?」

「まあな……。と言うか俺だって探索者として魔物とやり合ってきた人間だ。身体能力差だけでやられるかって食らいついたが、力押しを制御されちゃ敵わんな。お前が意外と近接戦こなしてて、そっちの方がびっくりだぜ」


 激しい打ち合いで痺れた手のひらをプラプラと振りながら、師範はそう言って笑った。

 望外に近接戦闘の出来を褒められてちょっと嬉しい。


「そういうわけで、俺はこのブレスを切り札に据えて白竜戦に挑むつもりです。戦術としては……普通にある程度削っていって、最後にブレスで押し切るって感じですかね」


 この魔法の使い方と、ついでに全体の戦術についてお伺いを立ててみると、師範からは力強い首肯が返ってきた。


「ああ、いいんじゃねえか? この魔法がありゃ負ける要素は消えんだろ。実戦じゃズーグに掛けるんだよな?」

「はい、もちろんそうです。ズーグも今の考えで問題無いな?」

「ええ、問題は無いかと」


 師範とズーグから承認が得られたなら憂いは無いだろう。

 トビーも頷いているしな。


 その後俺は、その他の魔法や道具、装備についても自分の考えの是非を尋ねていった。


 師範は魔法については専門外ではあるため具体的な助言はもらえなかったが、一応彼の仲間が白竜戦で使った魔法は手持ちにあると確認できたため、問題は無さそうである。

 更に検討するとすれば師匠の協力が必要になるだろう。

 

 道具については特殊な魔道具よりなにより、可能な限り治癒ポーションを準備しておけとの事である。

 今回初めて魔法を本格的に使ってくる相手と戦う訳だからな。これまでとは比較にならないほど被弾は増えるだろう。俺の魔力を温存するためにも、回復薬は潤沢に用意しておく必要がある。


 後は装備だが、師範たちは耐魔装備を用意したらしい。

 俺もこれは準備したいところだが、師範の場合は国家事業としての白竜討伐である。こちらとは資金その他を含めたバックアップに差があり過ぎるし、事実耐魔装備は高額だ。

 需要も無いためこの街にも一着置いてあるかどうかという話である。


「貴方であれば、王都に転移してそこで装備を整えてもいいのではないですか?」


 そう思っているとマルティナさんからそんな提案があった。

 確かに今の俺には距離はあまり関係ない状態だ。

 それも検討の俎上そじょうに挙げるべきだろう。

 

 ただまあ、資金に限りがある点は変わらないのだが。

 

「資金援助とか無いですかね? ご存知だと思いますが、装備の値段は天井が無いですから」

「こちらは構いませんが、金銭的なやり取りが発生すると『貴方だけの迷宮探索』では無くなってしまいますよ。それは貴方にとっては避けたい事でしょう?」

「確かにそうですね……。では、やはり自分で何とかします」


 この分だと公爵とかに無心するのも同じ事だろう。

 クロウさんに欠損治癒を売るのは良いかもしれないが、流石に上限があるだろうし、やり過ぎて神殿勢力との拮抗が面倒になるのも避けたい。


「要所に絞って耐魔装備を揃えるのが良いかなあ。そうなると……」


 俺は自身の考えを述べ立てて、都度師範とマルティナさんに意見を聞いていく。


 そして色々議論はあったが、最終的にズーグの兜と胸甲、トビーの盾を新調する事になった。

 俺の装備が含まれていないのは、魔法技能持ちは素の魔法耐性が高いためである。これまでズーグ達と俺との差が分かるような場面も無かったし、何気に新事実であった。


「こんなところですかね」

「だな。また何かあったら聞きに来いよ」

「そうですね。しがらみになってしまうので物質的な援助はできませんが、意見はいくらでも言えますから。私も協力致します」


 二人にそう言われ頷き返す。

 最初はどんよりしていたマルティナさんも元気になってよろしい事だ。目元はまだちょっと赤いけど、表情は明るい。


「なにか?」

「ああいや。……不安は、解消されましたかね」

「はい、ありがとうございますリョウさん。ですがまさかこうして貴方の世話になる事になるなんて……体一つで探索者になるなんて世迷言を言っていたのに」


 発言に若干の嫌味が混じってきて、彼女はいよいよ復調してきたようである。

 がしかし、俺の黒歴史を掘り起こすのはやめていただきたい。

 あの時は転移直後ってのもあって、色々よく分からない行動を取っていたと自覚しているのだ。

 

「では、公爵閣下に会いに行ったら、また伺います。もし上手く話が進めば、先方からは手紙などが来ると思いますが。情報は俺の方が早いでしょうし伝えに来ますよ」

「分かりました、お待ちしています」


 そんな感じで二人に見送られ、俺は探索者組合を後にした。




 ==============




 翌朝。

 いつもの朝食時ミーティングでいつものように予定を説明する。


 今日は転移で港湾都市デンタールへ向かい、公爵との面会を取り付けるつもりである。


 転移は行った事のあるところにしか飛べないため直接行くのは不可能だ。

 視界内なら飛ぶことは可能なので、高いところに上って転移を繰り返し、距離を稼いでの移動となる。

 転移の回数は増えるがこの方が普通に移動するよりは遥かに早いのである。


 具体的な経路としては、まずキンケイルへと転移を行う。

 そこから王都に伸びる街道沿いに転移を繰り返して西に移動。そして王都を越えて更に西へ。同様に移動してデンタールへと至る道のりだ。

  

「とまあ、こんな感じだな。夜になったら転移で家に戻ってくるつもりだけど、デンタールが見えてきたら歩きに変えるから、もしかしたら少し遅くなるかもしれない」

「了解しました」


 俺の説明にレイアが頷く。

 前言っていた転移ポイントは庭に作成済みなので問題無し。

 遅れる可能性も伝えたので、食事の準備も上手く調整してくれるだろう。


「我々は資金調達ですね」

「久々の出番だね、腕が鳴るよ」


 俺抜きで探索する時の戦術は完全に彼ら任せで、カトレアも戦力として組み込まれているようだ。

 彼女はワクワクした様子でそれは構わないのだが、体力のピークは過ぎているのであまり無茶はしないでほしいところである。


「なにさ、何か文句でもあるのかい?」

「別になんでも。怪我だけは注意してくれよ」

「あいあい」

 

 不安はあるが、これまでも大丈夫だったし大戦士ズーグさんに何とかしてもらおう。

 最近はトビーも頼もしくなってきたしな。


 ちなみに俺がパーフェクトコンバージョンを会得するまでの探索で、彼らの技能レベルにも上昇が見られている。

 具体的にはこんな感じだ。



【ステータス画面】

名前:ズーグ・ガルトムート

年齢:58

性別:男

職業:戦士(28)

スキル:両手武器(8)、竜魔法(4)、槍使い(8)、片手武器(5)、投擲(3)(SP残0)


【ステータス画面】

名前:トビー・ステイン

年齢:24

性別:男

職業:戦士(29)

スキル:片手武器(6)、斥候(5)、盾使い(6)、剣使い(7)、体術(5)(SP残0)


【ステータス画面】

名前:カトレア・ハートランド

年齢:42

性別:女

職業:剣闘士(18)

スキル:農業(1)、片手武器(5)、剣使い(7)、盾使い(5)(SP残0)



 ズーグは両手武器と竜魔法のレベルが上がり、それぞれレベル8、レベル4となった。

 僅かな上昇にも思えるが、高レベルであるほど1レベル毎の差は大きいため、両手武器の技能レベル上昇は非常に大きな進展と言えるだろう。

 竜魔法はまだ結果が得られるところまで行かないようだが、総合レベルには貢献しており、次のSPにあと2レベルまで迫ってきている。

 流石に白竜挑戦までにSPを得る事は難しいと思うが、次の技能取得は楽しみである。


 次にトビーは片手武器のレベルが6、剣使いのレベルが7に上昇した。

 何と言うかもう、こいつは天才って事で良いのかもしれない。

 相当過酷な戦闘をこなしていると言えばそれまでだが、竜人で槍の達人でもあるズーグや、才能の器を持つ俺についてこられる時点で相当だからな。

 ズーグの総合レベルも超えているし、更には次のSPまであとひとつ。伸びしろも現状を考えれば十分あり、ウチの成長株と言って差し支えないだろう。

 白竜戦でも活躍してほしいところである。


 最後にカトレアだがレベルについては据え置きとなる。

 変わった事と言えば、次のSPを得るのに農業スキルが足を引っ張っていたので、最近家庭菜園を始めさせたくらいだろうか。

 言うほど庭が広くない事もあって、現状はプランターで香草を育てる程度のものではあるが。

 これでもしちょっとでもレベルが上がってSP取得に繋がれば御の字だろう。

 単純に土いじりは心が癒されるし、香草を買わずに済むならレイアがやりくりする家計の助けにもなるしな。


 以上、改めて確認してみると中々の伸びが見られたと言えるだろう。

 白竜戦を控えているので非常に喜ばしい事である。


「そういえばシータ、テストの準備は大丈夫そうか?」


 俺は技能レベルの上昇に思いを馳せながら、ふと思い出して唐突に話を振った。

 シータはちょうどスープを掬って「あーん」と口に入れた直後だったので、スープを飲み込みながらこくりと頷く。


 飲み込んだ後に改めて聞いてみると、定科生に課せられる多くの試験は、友人達と協力してしっかりと準備をこなしているようだ。途中編入の割に彼女は結構友達が多いのである。

 

 これはまあ、容姿のアドバンテージもあるだろう。

 多少人見知りだが性格も良い訳だし、人気にならないはずがない。

 授業の時に一緒に行動する仲良しメンバーとは、俺が探索で家を空けている時に集まって勉強会(という名のお菓子パーティ)を開いているらしく、非常に学生生活を満喫しているようだ。

 

「リョウさんこそ、大丈夫なんですか? いつも忙しそうですけど、そのうえ授業もしっかり出られてていつか体壊さないか心配です……」

「今のところは大丈夫だ。そもそも授業は探索ほど体力使わないし、迷宮では皆結構サポートしてくれるしな。ウチでおいしいご飯も食べられてるし」

 

 俺の答えを聞いてシータを除いたメンバーが満足そうに頷いている。


 迷宮探索では俺の体力・魔力がもろに探索速度に影響してくるので、最近は俺だけ休憩が多めなのだ。

 食事はレイアが栄養を考えて作ってくれているし、シータの心配はもっともだが案外やれているのである。


「それならいいんですけど……私も何か手伝える事があったら言ってくださいね?」


 俺はパンをもぐもぐと咀嚼しながら、シータに頷きを返した。


 その後食事を終え、各々準備を整えて出発である。


 俺も魔力ポーションをしこたまリュックにぶちこんで背負い、旅装として購入しておいたマントを身に着けた後、庭にある転移ポイントに移動して呪文を発動した。


転移テレポート!」


 腹と背中がくっつくような、立ったまま足の裏に髪の毛が触れるような奇妙な感触に包まれる。

 そして視界が一瞬の暗転を経て、大きく切り替わった。


「……よし」


 転移した場所はキンケイル迷宮の入り口そば。

 狙い通り人影はほぼ無く、唯一居る衛士から死角になる場所に出る事ができた。


 王立探索隊はシフトを組んで魔石採集を行っているが、交代は定時である。

 そのため一定の時間帯(朝であれば未明~早朝)を外せば人通りは意外と少ないのである。


 ちなみにキンケイルよりも王都の方が港湾都市デンタールには近いのだが、王都の方で騒ぎにならずに転移できる場所が思いつかなかったのである。

 まあキンケイル-王都間はそんなに遠くないし魔力はもつだろう。

 

 俺はしばらくかよったキンケイル迷宮の入り口を少しの時間眺め懐かしんだ後、踵を返して街の外へと向かった。


 キンケイルから見た時、王都はおおよそ真西に位置している。二つの都市の間は多少の起伏はありつつも、おおよそ平地と言っていい地形になっており、農地が広がっている。

 俺はその中を伸びる街道を逸れ、少し歩いた先にある丘を登った。


「ここらでいいか」


 登り切った丘を越えて少しくだり、街道がギリギリ見える位置で立ち止まる。

 ここから街道を視界の端に捉えつつ、転移を繰り返していけば目撃される事なく移動できるという寸法だ。

 まあ見られて何か言われても、知らぬ存ぜぬで通すつもりだが。


 そうして転移していけば昼前には王都に着くだろう。

 そこで早めの昼食を摂りつつポーションで魔力を回復し、同じようにデンタールを目指す事にしよう。


「さーて、やっていきますか」


 それにしても今日は独り言が多いな。

 と思いはするが、これはいつもボヤキを聞いてくれる相手が居る事の証左だろう。


 気にせず俺は、一回目の転移分を回復するための魔力ポーションを一口飲み、転移の魔法を発動させるのであった。




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[気になる点] 俺の装備が含まれていないのは、魔法技能持ちは素の魔法耐性が高いためである。これまでズーグ達と俺との差が分かるような場面も無かったし、何気に新事実であった。 とありますけど転移の際の各…
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